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core03:山と上げ下げ峠は注意報

 食堂で待っていると、リナさんが現れた。新品のスーツとスニーカー姿だった。僕達の目の前に座り、手に持っていたファイバーフォトを見せてくれた。その動画はブラジルでの戦闘。激戦だ・・・・・・。


「見ての通り、ブラジルは黒い翼と強化された人型コアとの戦闘が殆どなの。アギルギアの基地を作るために先行した、イタリアとフランス部隊は苦戦している、ブラジル北のベレンから上陸し海沿いにサンパウロを目指しているけど、1500km進んだフォルタレザで足止めをくらっているわ」


「サンパウロって海沿いじゃなかったけでしたっけ?直接行かないのですか?」


「サンパウロは超大型が出現する可能性があるの。超大型戦になったら、大量の兵器と大量のレーザーの餌食になって基地なんか一瞬で破壊されるわ。どの基地が潰されてもいいように遠い所から作っていくのよ、だけど今回は別の問題があるの」


「別の問題?なんだってーの」


紅音がイライラしている。


「ここブラジルは違法アンドロイドが大量に製造された上にトップクラスの闇市でもある。さらに私がブランクマスター時代に苦戦したハッカーもいるのよ」


「はぁあ!?それがなんだってーの、私の邪魔するなら容赦なくぶっつぶすだけだっつーの」


「アギルギアはね、対人戦には向いてないのよ。違法アンドロイドはどんな手でも使ってくるわ。だからなるべく海の攻撃艦からの支援を受けられる場所に基地を作り、移動するのよ、後で違法アンドロイドやロボットのリストを端末に送信するから、予習しておくのよ」


紅音はつまらなさそうで、壁を見ていた。


「それを伝える為だけに、呼び出したってーの?他に何かある?」


リナさんが急に笑顔になる。


「もちろんよ、直接伝えたかったのは、貴方達がラブラブすぎるから引き離す為よ」


いきなり紅音が立ち上がり叫ぶ


「はぁあああ!?ふざけんなっつーの!誰がこのバカ人なんかと!!ラブラブだってーの!」


「も~、しょうがないんだから。じゃあ証明して頂ましょうか?」


「「はあ?」」


リナさんに連れられて着いたのはアギルギア研究所にもあった、黒い大型のシミュレーターだった。言われるがままに赤いパイロットスーツに着替えて、紅音と別々に乗る。そしてゆっくりと目を閉じた。そうこの感覚だ・・・・・・。リナさんのアナウンスが流れる。


「ーえ~、聞こえますか、これよりAIC値を計ります。取り敢えずレース用のルートを全速力で走ってね!ー」


 何だ、簡単じゃないか。真っ暗な画面からFLDフロント・ライン・ディスプレイに目的が表示される。


目的 レース001の完走


深呼吸しているうちに、紅音と視界が共有されていく。トレーニングルームと一緒で殺風景なグレーの部屋。遠くを見渡してもおそらく無限にある道と天井、走るルートには青く光るラインがあった。


紅音の手を目の前に上げる。綺麗な真紅の手だ。


「なーに、じろじろ人の手を見てんだっつーの!さっさと終わらせるわよ!」


 だんだんと背中のメインエンジンと両太股のサブエンジンから振動という力が沸いてくる。胸の中心からは別に紅音の鼓動が伝わってきて、全身の神経という繊細な一つの線が絡み合い、強く結ばれていく。この感覚だ。すべてがお互いを受け入れ支配していく。これでいいんだ。するとリナさんから通信がきた。


「ーは~い、終了!ゲームオーバーね!ー」


「はあぁああ!?ふざけんなっつーの!まだ一歩も動いてないってーの!」


「ーだって、AIC値が120%越えて測定不能になっちゃったのよ。実践だったら、数秒後に二人の脳焼き付いているわ、即死ね!覚えているでしょ、ドイツで110%越えて切り離す大変だったんだから、死ぬわよー」


「そんなぁ、それじゃあ紅音と組むのは危険なんですか?リナさん、どうすればいいんですか?」


「ーいわゆる、相性ってのを下げるのよ、どうやらアナタ達は、触れるだけでスキスキ状態になってメーター振り切っちゃうからねー」


「ふ、ふざけんなってーの!誰がバカ人なんぞ!ふん!ー」


 いきなり画面が真っ暗になった。紅音が強制切断したんだ、確か本来だったらAICが100%を越えた場合は強制切断出来ないはず。シミュレーターだから大丈夫なのか、本当に実践だったら死んでるかも・・・・・・。


急いでコクピットを出ると、紅音が立ちすくんでいた。目が合うと顔を真っ赤にする。


「誰が!誰が!あんたなんか!」


 僕を両手で突き飛ばしてどこかへ行ってしまった。追いかけようとするも、足がうまく動かない。紅音と繋がっている時とは正反対だ。この機械の足は不自由だった。

リナさんがコクピットにもたれ掛かったまま話す。


「参ったわね、無理矢理に相性下げようとして怒っても、もう無理だってわかっている筈なのに」


「え?」


「さっきの激戦みたでしょ、あれはそこらのロストチルドレンとパイロットでは無理よ。紅音は、このままだと雪人と一緒に戦えない、雪人が別のロストチルドレンと組んで負けたら、きっと雪人が傷つく。それが許せないのよ。焦りがより絆を強くしているわね」


「それは僕も同じです。紅音は他のパイロットとは組めない。絶対に。リナさん、AIC値の下げ方はあるんですか?」


「分からないわ、普通は逆だからね、どうやって上げるかだから。それに次に貰う第三世代の練習機はAIC値があがっても超反応が出来るわけじゃないから、いつもより余計に冷静に戦って欲しいのよ」


「分かりました。探ってみます。このシミュレーター自由に使ってもいいですか?」


「どうぞ、お姉様から機体を貰ってもよい結果が出るまでは機体は使用禁止ね」


「分かりました」


「あんまり、女の子をせかすんじゃないわよ」


「はい」


 僕はパイロットスーツを脱ぎ捨てて、紅音は探さず、まずはどうやってこの戦いと向き合っていくのかを考えた。今まではがむしゃらに走っていただけ。この時間はどこまで続くんだろう。振り返っても答えは出ないだろう。次第に歩く意味を考えながら一歩ずつ歩くことにした。


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