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core01:紅い光に誘われて

挿絵(By みてみん)



 混沌と地獄の中、この一週間で小さな一枚の羽根を見つけた。誰のでもないその羽根は、沢山の人が持つことによって生まれる願いへと変わる。たった一つの大空へ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 私の体から逃げていく。さっきまではここに居たのに。ぽたりぽたりと離れていく。何故こうなってしまったのか分からない。そして何だったのかさえも分からない。


 光の点が集まり形成されたのは人の形。それは私では無く目の前の事だった。白い服に綺麗な青い瞳が私の前に座っていた。この狭い3メートル四方の部屋に二人だけが座れるイスとテーブルだけ。女性の唇がそっと動く。


「おはよう。お寝坊さん、きっとあなたは報われるわ。長い長い時間はたった一瞬の為にあるから、自分の心を信じなさい」


 そう言って女性はゆっくりと席を立ってどこかへ行ってしまった。とても優しそうな人だった、もっと話したかったけど追いかけないのは次の男性と話さなけばいけない事を知っているから。


 男性は目の前に映し出され、表情もなくいつも通りの言葉で私に説明する。


「ランクが上がりました。おめでとうございます。次のステージに進みますか?失敗すると戻ることは出来ませんが、それでも進みますか?」


「進む。私は止まらない」


 男性が消えた後、目の前の壁に扉が出来る。私はいつも通りあそこへ向かう。扉の隙間から色の無いただ真っ白な光に導かれ、到着したのは巨大な楕円形の施設。


 ここは走る為のコースと沢山の障害物。私はここでいつも一番なんだ。複数のアンドロイドが集まってきた。一度も会話した事は無い。どうせ次にはいないから。


 10回目の100メートル走。だんだん私に迫ってくるやつが出てきた。最初は10メートも走れずに脱落していく者もいた。私だって最初は一歩進む度に激しい頭痛と目眩で何度も倒れ込んだし、地面に顔をこすりつけて這いつくばってでもゴールした。でも今は100メートルを5秒で走れるし高さ3メートルの壁だって手を着かずに飛び越せる。緊張する事も無くいつも通りスタートラインについた。


 隣には5人の無表情のアンドロイド達。すると近くから声が聞こえてきた。


「ねえあなた。動きがまるで人間のようだけど自分を人間だとでも思っているの?」


 どうしてこんな事を言ってくるのだろう。私は人間だ。いやその筈だ。気を取られてしまいスタートの合図に反応出来なかった。出遅れてしまい何とか後を追いかける。負ければおしまいなのは何度も見てたから知っている。


 5秒で終わる勝負。ビリだったけど2秒で4人を抜いた。加速していき風を切る感覚からいつもと違う空気を感じ取った。これはトラップだ。目の前のさっきの奴を抜かそうとしたけど一瞬ためらったのは正解だった。


 下から人のサイズの鉄柱が、天に向かって勢いよく飛び出す。アンドロイドの身体は鈍い音と共にバラバラに砕け散っていった。そうよ、どうせみんなおしまいなんだから、私が一番なんだから。


 横から飛散してきた残骸を払いのけ、前に突き出した右足を軸に体をひねり回転させる。下から飛び出した鉄柱は私にふれる事無く真上に飛んでいった。また一番だった。私は振り返る事なくまた、あの部屋に戻ろうとしたけど、今日だけは違った。


 他のレースで誰かを破壊したガラスの障害物の破片達が、清掃しきれずに散乱している。徐に拾い上げて目の位置まで持ち上げ、光の反射で自分を映し出す。


 表情なんて物は無く他のアンドロイドと同じ。目の前を閉ざす事も、呼吸をする事も、歌を聞く事も出来ず、何もかもが伝えられない無いただの鉄の顔。


 ここは色も匂いも音も無く、まるで命が存在しないかのような世界。だけど私の胸の中にある、紅い光の鼓動は運命のように、心を染めていき、大気を震わせ、見たことのない花を咲かせる。それは人の心臓そのものであり、誰かに出会う為に生きているんだ。


 私はガラス片を投げ捨てて、またあの部屋に戻る。


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