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core28:殻の外へ翼を抱きしめて

 

 『-10分後に隔離壁内部、ベルリンの森が自爆します。最大威力、推定50メガトン。5分以内に脱出し輸送ポッドに搭乗してください-』


「ははは、アイヴィー・・・・・・。後5分で地上には出れないよ」


「-おい!今から迎えに行く、そのままじっとしてろ!-」


 シュミットが僕を助ける為に彼女達から視線を逸らすと突然レーザーを撃ってきた。何とか体を捻らせ回避するが再び弱りきった体が傾き隔離壁に倒れこむ。シュミットは拳を強く握り締める。


「-どうして・・・・・・。こんなに世界は広いのに、私たちの世界は小さいの・・・・・・逃げようとしたのに戻ってきてしまった。外は息苦しくて、笑うことだって出来ない、作られた命は作られた世界でしか生きられないのかな・・・・・・-」


 涙いっぱいの視界で遮りたいのは目の前だけなのか。一歩ずつ彼女達が近づいてくる。シールドを構えると何処からか飛んできた高速の弾丸が弾かれる。一発、また一発と。ローマンとドーラの弾丸だった。炸裂弾も彼女達の心には届かなかった。


 次に構えたレーザーが一発、一発と2人を打ち抜いていく。FLDには二人とも損傷大、戦闘不可と表示だけが切り替わった。届くのは拒絶だけだった。


『-ローマン機、ドーラ機を回収します。雷花機!投下します!-』


「-いい!?雪人!雷花で二人を回収、ファウストとシュツカートは自力で輸送機ポッドの脱出ポイントまで行くわ、あなたを狙っているから、なんとしてでもそこから脱出するのよ!シュミットと切断して!今すぐ!-」


「無理です」


「-いい加減、言う事を聞きなさい!!!-」


「-本当にバカ人は馬鹿なんだから、そこでじっとしてろってーの!-」


「あ、紅音?・・・・・・」


「-何をしているの!紅音!誰の命令なの!?あなたブラジルに向かったはずでは!?-」


『-紅音機、ブラックバード2から投下されました-』


「-誰の命令でもないわよ!雪人!アタシに入って来い!!-」


 シュミットから離れていく感覚がある。さっきまでは強く繋がっていたのに。守ると決めて硬く繋がっていたはずなのに。だけど紅音の声だけが全身に響き渡る。


「-行きなさいよ、私よりもアイツのほうがいいんでしょ。最初から知ってたんだから!ほら行け!!-」


 FLDが真っ暗になる。体の隅々から激痛と重力、生身の肉体の脆さを再認識する。神経なんて弱いもので繋がっているから心まで弱くなるんだ。でも諦めないと色彩が命を染めていく。


 目の前に-紅音機接続プログラムをインストール中-と表示されている。今頃、紅音の性格上、僕を待たずに空き放題暴れているに決まっている。かすかにコクピットに地上の衝撃が伝わってくる。


-プロトコル開放、接続中-


-3次元マップ再構築中-


-パイロットスーツ適合中-


-初期化-


-接続可能-


 呼吸を整える。深呼吸する度に激痛が走るけど痛みは痛みとして受け入れて、紅音に痛みを移してやるぐらいに、強く紅音を感じようとした・・・・・・。指先、両足、太もも、腰、背中、胸、そして脊髄から頭の中心へと。


「-あ!イッタ!ふざけんなってーの!!!ボロボロじゃないの!アタシに痛みをなすり付けんな!!!-」


 視界が共有されるとグルグルと回転し高速で隔離壁を移動していた。側面からの赤いレーザーが何度も体を掠める。


「-ぶっ殺すわよ!逃げんなってーの!!-」


 信じられない事に紅音は攻撃が出来ないのに彼女達を追い詰めていた。エンジン全開、アフターバーナーが何度も火を噴く。もう言葉での意思疎通は要らない、僕は視界は関係なく紅音の次の行動にあわせてトリガーを引くだけだ。何度もシールドで弾かれるけど、徐々にシールドが間に合わなくなっていく。


『-相性95%です。このペースでは直ぐにAICが危険値に達します-』


 相性か。紅音にはスパイラルシフトが無いから相性って関係あるのかな。そう思っていたら、どんどん繋がっていく。レーザーがスローモーションで見えて簡単にかわせるようになってきた。それにだんだん何も聞こえなくなってくる。


「-まずいわ!雪人と紅音を切断して!-」


『-切断不可能です、AICが105%を越えました-』


「-リナ!雪人と紅音を助けられるのか!それにAICってなんだ、一体あいつらはどうなっているんだ-」


「-相性の本当の名称がAIC。100%を越えると精神が相手の脳に残留してわずかな領域を自分の脳として使用できるの、だからお互いが相手の脳を使用する事によって、スパイラルスルー現象が起きる。今、二人で論理的に4つの脳を動かしている状態になって、光りの動きさえも認識できるの-」


「-相手に精神が残留って危険じゃないのか!?-」


「-そう、とても危険だから第四世代はスパイラルシフトを使い一気にAIC値を下げるのよ、皆スパイラルシフトは必殺技のように使っているけど、とても危険なのよ。紅音の第三世代はそれが無いから、自分がどっちだか分からなくなる。相手を完全に支配してしまったら・・・・・・。または相手の中に残ったまま強制切断されたら・・・・・・。死ぬわ-」


「-上等じゃないの!雪人を私の中で殺してやるっつーの!!!-」


『-脱出限界時間残り2分です-』


 FLDを見ると雷花がドーラを輸送ポッドに移した。それに気づいたのか彼女達の黒い機体が死の翼を広げ加速してローマンを狙い始めた!罠だろう、でも追うしかない!しかしとても追いつけるようなスピードじゃない。それにアフターバーナーはもう何度も使えない。


「雪人やるわよ!」


「分かっているよ」


 全身が燃え上がるように熱く熱くけして止まない炎が視界を包み込む。光さえも赤く染め、真紅の機体のフレームからマグマのような粒子が噴出し、エンジンから灼熱の翼が全ての物質を燃やし始めた。


「大空も、世界も、何もかも紅く染めてやるってーの!ぶっとべええええええええええええええ!」


-ハイドラON-


 FLDがたった数文字だけになる。大気の層を突き破り体がバラバラになりそうなぐらいにミシミシと音を立て始めフレームが紅く染まり超高速移動する。起動修正なんて不可能だ。一瞬で1キロ先に到達した。ローマンの首を掴み持ち上げる黒い機体。外すわけがない躊躇いも無くトリガーを引いた。シールドで再び弾きローマンを投げ飛ばした。


「ローマン!逃げるんだ!」


 しかしよく見るとローマンの胸から下がなくなっていた。まずいまずい。あんな状態では逃げられない。


黒い機体の背後に紫色の稲妻が見えた。あれは!?


「-この距離なら外しませんから!私たちの明日と希望と共に咲け!紫電の翼!!-」


 超接近戦で雷花のトンファーキャノンが爆音を立てて火を噴く、何度もサイドステップでフェイントを仕掛けて黒く硬い装甲にダメージを与える。火花が悲鳴のように散っていく。


 紅音は足元に会ったロングボウライフルをとって雷花を援護しようとするが一瞬で空高くに逃げられてしまった。


「-あんなの届かない!!-」


「雷花はローマンを救出して!僕が追うから!」


「-お願いします!!!雪人さんどうか逃げてください!-」


『-AICが110%を越えました切断不可能です-』


「-おい!オマエ切断しろ!助けに来てやったぞ!-」


コクピットの僕の体が揺すられる。駄目だ今は駄目だ。


「-ふざけんなっつーの!アタシの体に触るんじゃないってーの!な、なによこれ雪人の体!?-」


FLD上に一瞬彼女達が映った。あの方向は最初の場所、僕が居る方向だ!


「-行ったり来たり!ほっんとムカつく!絶対、絶対、絶対!メッタメタにして、バラバラにしてやる!またぶっ飛ぶ!行くぞ!-」


-ハイドラON-


 また視界が線になる。丁寧に予告してくれたけど突然のハイドラ。また全身が燃えるように熱く痛くそれでも求める力。半分加速した場所で紅音が止まる。


『-脱出限界を過ぎました。死亡が確定しました。紅音機回収ルートへと変更します-』


 紅音のイライラが収まった。でも脳がフル回転し続ける。


「-アイヴィー!切断して!紅音だけでも救出よ!シュミットも逃げなさい!-」


 リナさんが叫び続けるけど何の感情も僕達に届いてこない。胸を締め付ける。痛い痛いよ紅音。全神経が離さないと薔薇の棘が絡みつくかの用に食い込んでくる。


「私の中で死んでよ!!だけどヤルと決めたら最後までヤルわよ!」


「あはは・・・・・・。そうだね。最後の仕事だ」


 黒い敵は僕達の上に到達していた。ハイドラでも直ぐには追いつけないし、シュミットまでもやられてしまう。最後の選択肢は一つしかない。紅音に僕を残したまま僕はもう一人の約束した人に会いに行く。


「-雪人さん・・・・・・。分かりました。既に全てを受け入れてますから-」


 君の視界が欲しいんだ!精神だけをローマンへと繋ぐ。目の神経がブチブチと音をたてて千切れていく。もう目で見る夢は無いから。今必要なのは力なんだから。


「-雪人!!アタシの目玉でも何でもやるから!その視界をもってこいってーの!-」


 光の中で2つの命が螺旋を描き1つへと重なっていく。雷花に抱きかかえられたまま、ゆっくりと背中の翼が大きく開いていくのが分かった。三人で叫ぶ!


「「「-届かない光なんか無い!闇を作り出す暗黒の光まで届け!!私と、君と、いつまでも!希望の翼!!届けぇえええ!-」」」


 左目だけがローマンと重なる。ファーサイトが起動し完全に敵を捕らえた。次に紅音の右目と重なり、目の前の何枚もの隔離壁が透けて見える。


-貫通可能-


 紅音が目の前の隔離壁に衝突する高速で移動していく中、僕は紅音に戻り左手のロングボウのトリガーを引いた。青い閃光そして衝撃波の後に爆音が、遮る物を、人の心を分断する忌々しい隔離壁を何枚も貫通していく。敵に当たる瞬間に僕達も再び加速した。


 ハイドラの紅い光が弾丸を追い隔離壁に開けた狭い穴を強引にこじ開けていく。そしてスマートパルスライフルを追い討ちで連射した。初弾のロングボウの弾が胴体に着弾し、敵はバランスを失うも立て続けに打ち込んだ弾丸をシールドで弾く。


あと15メートル。


レーザーが右手のスマートパルスライフルを弾き、持ち替えたナイフさえも撃ち落とされる。


あと10メートル。


 感覚だけで撃ち放ったロングボウが敵の頭を砕き吹き飛ばす。しかしカウンターで撃ってきたレーザーが紅音の頭を破壊する。何も見えない・・・・・・。


 紅音は天才だった。敵に超高速で激突コースだったのを頼りにロングボウを捨てて左手を突き出す。すると左手が解けていく感覚が伝わってきた。そうだレーザーにそって相手をつかめばいいんだ。


 残った右腕で相手の右腕のライフルごと掴み、左腕のシールドを足で押さえつけて馬乗りになった。上から地面に向けて押さえつけるようにアフターバーナーとハイドラを全開にする。


 最高時速1300キロまで到達出来るパワーを持っているが、敵もエンジンを全開にして逆らう。飛び立つ雛の翼を力でねじ伏せる!


正気を取り戻したのか。彼女達から接触回線での通信許可が来た。


「「「-私たちの翼は醜く重い、生きている限りこの鋼鉄の翼は永遠に枷となる-」」」


紅音が答える。


「-翼は鋼鉄なんかじゃない!鉄よりももっと重く硬い意思!自由にそして永遠に羽ばたき続ける!運命という枷のあるつまらない世界を貫く為の翼!!-」


「「「-もういい、終わりを告げろ!漆黒の翼!-」」」


「-こんな私でも雪人が教えてくれたんだ!一緒に飛ぶことを!私は最後まで飛び続ける!!オマエたちにも教えてやる!!本当の重さを!!!!うおぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!-」


 真紅のフレームが溶け出し体がバラバラになっていく。全身が紅くなり装甲限界と表示されアラートが響き渡る。痛みは電子の記号となりもう伝わらなくなってきた。彼女達を地面に叩きつけ押さえ込みヘッドパーツがあった場所に手を差し込み強引に胸の装甲を引き剥がした。


前が見えなくとも3人の脳があるのが分かった。


「-一人ずつ握り潰してやる!-」


「紅音だめだよ!紅音!!!」


すると彼女達はは抵抗を止めた。見えないけど何故か悲しい鼓動が聞こえた。


「「「-そう、どうしてでしょうか。あなたがとても羨ましいです。それにまだ希望があるのなら・・・・・・-」」」


一瞬気を許したとたん、ドンっと衝撃が伝わった。ボロボロの真紅の機体はシールドで弾かれ、紅音は地面に倒れ込んだ。


「-今よ!紅音と雪人を引き離して!!!輸送ポッドを緊急着陸よ!雷花!引き上げて!-」


『-AIC100%!強制切断します!-』


真っ暗になった。無理やり引き剥がされた。僕の全身から血が噴出すのが分かった。痛みが限界を超えたんだ・・・・・・。


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