core05:ロストチルドレンⅠ
>改稿内容 旧イラストを削除
>文章を読みやすくしました。
あれから一旦僕のマンションに帰してもらった。最低限の物だけを持って来なさいと言われても10分しか無いじゃないか。デスクからカード類に端末を取る。散らかっているけど必要な物は少ない。本棚
にはしばらく読んでない本ばかりだ。
本と一緒に挟まったアルバムと家族の写真。しばらく会ってない父親には合宿とだけでもメールしておこう。制服から半袖パーカーにGパンに着替え肩掛けのリュックを背負う。ボロボロのキャップを被り安
いシューズを履いた。
別に顔を隠す為では無いがこれから行く所は普通の生活が出来ないと知っていたから、それにパイロットスーツにも直ぐに着替えなければならないだろう。
リナさんマイクさんアイヴィーのいる装甲車へと向かう。周りにはだれも居ないのでちょっと安心した。装甲車のドアは分厚く入り口は高さもあり乗り込むのには慣れが必要だと思った。すると中はやけに暑
い・・・・・・。早速キャップをとった。
「お待たせしました」
「おかえり。暑いのはお金が無いからよ」
リナさんはそう言うと団扇でパタパタと仰ぐ。Tシャツ姿で結構スタイルがいいんだなと見とれていると目があってしまった。
「そろそろローマンが旧フランスから帰ってくるからね」
どんな事を話せばいいんだろうか・・・・・・。車内のすみに座り込み考え込もうとしたが前に目線をやるとスニーカーなリナさんが近づいて来た。手元には赤いパイロットスーツ。
「ローマンではしばらく戦闘出来ないから、こんどは紅音になるわ。アギルギアは第三世代。ローマンよりも一世代前だから古いけどかなり高速よ。ちょっとアレだけどね。これからやってほしいのは
紅音のシミュレーション訓練よ」
ちょっとアレって相性の問題なのだろうか?
「もうダミー映像じゃないんですね?紅音を先に見たり話す事は出来るんですか?」
とりあえずリナさんから赤いパイロットスーツを受け取った。これも同じなのだろうか色以外変わった様子もない。
「そういうのは相手の中に入ってからのお楽しみじゃないの?」
明らかにからかっているのが分かった。戦闘中はどうせ視界が同じで姿は見れないし、ビルとかのガラス越しに見れないかなって思った。
マイクさんから紅音専用のテストモードになっていると伝えられた。コクピット内の明るさが違う。優しいオレンジ色に包まれた感じだ。緊張は必要ない。
正面はFLDだけになり真っ暗になる。表示がオレンジだ。ローマンや前の訓練は緑だった気がする。ゆっくりと目の前に文字が表示された。
目的:高速飛行訓練、接近戦、射撃訓練。
装備:スマートパルスライフル、アンチマテリアルナイフ、c1911ハンドガン
「-これよりシミュレーター訓練を行います。相性は70%固定です。フォースアシスト、アサルトアシストはありません。-」
なんだ?オペレーターの声はアイヴィーではなかった。戸惑いがあるが逆にこっちが本当のゲームなんじゃないかと思う。コクピットのシートに身体が馴染んでいくとたちまち吸い込まれるような感覚でとてもこ
こち良い。
しかし70%%固定って最低条件って事なのかな。リナさんのあの感じだと相性が上がりにくそうで難しいのかな。
「気づいていると思うけど紅音とは繋がってないわよ。訓練用のオペレーターでただのアナウンスになるわ。アイヴィーの補助が無いから自分で判断して行動して。まあやれば分かるわ」
コクピット内でリナさんの声が響くとまだ日本にいると感じさせられた。
「体で覚えろですね」
だんだんと目の前の視界が頭の中の視界に切り替わっていく。周りの雑音も無くなり完全に入ったという感覚になった。
トレーニングルームと表示された殺風景な空間はすべてがグレーボックスでアウトラインはすべて青く光っている。他には障害物や進入不可と書かれたボックスと建物。天井は見えなく空というものはない
。おそらくシミュレーターだから天井は無限にあるのだろう。体の感覚はローマンの時と変わらないな。
少し目線が低いのは機体が小柄なのかもしれない。あたりに機体が見れる鏡でもないかと期待したがそもそもシミュレーターだから意味がないか。映ったとしてもどうせロボだろう。
正面にルートが表示された。まずは助走からのジャンプだ。ローマンは一回のジャンプで最大100メートルほど飛べると思うがどれほどだろうか。
体中からエンジン音がなる。ドドドドドと。エンジンは両ふとももに1機ずつと背中のメインエンジンがあり点火したが・・・・・・。
一瞬で視界が天を向いてしまった。まだ助走中なのにあまりにも加速が突然すぎてバランスを崩してしまった・・・・・・。豪快にこけてしまい正面のルート表示が初期値にもどった。
機体を制御できるのかよりも走れるのか?が正しいと思った。何度も走る、転ぶ、ジャンプしても真っ直ぐ飛べない。ただただ繰り返す。
ルート表示が無情にも58回目と出る。肉体的疲れがなのでストレスがたまる一方だ。これだけ走ってジャンプして転べば普通なら動けなくなってあきらめると思うが肉体的疲れは無い。意地なのかまだ
集中力が続く。そして再び走りだす。
「やっているようね、かれこれ2時間ぐらいかしら。上手く走れるようになるには暫く掛かりそうだわ。いったん休憩しなさい。実際の戦闘は長くても10分よ」
2時間もやっていたのか、確かにローマンの時の戦闘は7分程度だったし、これじゃあ使い物にならないな自分が・・・・・・。
「紅音はね、10歳のころ事故で頭部以外がめちゃくちゃなってしまったの」
突然リナさんの声のトーンが変わり話始めた。
「その時偶然、日本でアギルギアが手に入り移植者「ロストチルドレン」の候補探しが始まったの。でもすぐに移植できるわけではなく開発中の技術だったから、一旦は通常のアンドロイドを改造した体で
生きるための訓練が始まった。でもほかにも候補者がいて、たくさんの揮いにかけられたわ。紅音は走ることさえもできず。ただただしがみつき、歩き続けた・・・・・・」
リナさんはその時の研究者の一員だったと明かした。ロストチルドレンとは健康な脳と脊髄のみになり脳のサイズの外骨格で覆う。特殊な液体を充満させる事によって延命できる。
アギルギアのコアエンジンは現在の技術では人の背中に付けるサイズしか作れなく、エンジンはプログラムやアンドロイドAIでは制御出来ないのでロストチルドレンと直結し、コントロール出来る様になった
との事。
しかし人とアンドロイドの戦争、第三次世界大戦の後はアンドロイド規制や改造人間などには厳しく、ロストチルドレン単体での攻撃が許されないので攻撃などの主導権を持ったパイロットが必要とな
ったという。
ロストチルドレンは沢山の候補者がいて選ばれなかったら、そのままアンドロイドの体で生きることを選択できるが高額で維持が出来ないとの事だ・・・・・・。紅音は親も親戚もいないせいで選ばれなけ
れば待っているのは死だった。
ちょっとアレというのはこういう事だったのか、ローマンもたくさんの候補者の中から選ばれたのだろうか・・・・・・。
「ちょっと気がおもくなっちゃったかな?でもね紅音は強いわ、今のアギルギアは241機でほぼすべてが第四世代よ。稀に第五世代の試作機が戦場に出てくるらしいけど、その中で第三世代は紅音含め
てたったの3機よ」
なんだか専用機みたいで嬉しくなってしまった。ローマンは第四世代の量産型で紅音の完全上位機体との事だが、きっと紅音も強いのだろう。それにもう一機居ると思うと少し安心した。
「紅音はE.B.R.S(エンハンスド・バトル・レンジ・システム)に絶対的な信頼があるから、使いこなすのよ。第四世代のアシスト系の元となったシステムだから、沢山練習しなさい」
頭の中で目を閉じる。目の前のトレーニングルームは画面に映っているわけではなく、夢のように頭の中に描かれている。ローマンと共有された視界も同じだ。呼吸を整える。指先の神経に触れる空気
を感じた。これは自分の手の感覚じゃない。
そして手を空に上げると目から脳へと映り込んだのは紅く綺麗な手だ。ロボットではない。おそらく紅音の手だろう。今なら走れると背中のメインエンジンに力を入れる。両足のエンジンにも丁寧に扱う。
初めて女性に接するつもりで、慌ただしいエンジン音がみるみるうちに心地よい音へ、そして規則的に振動する。答えてくれたんだ。紅音とはつながって無くてもわかる。たとえシミュレーターだろうと。