core27:刻を加速させる鳥Ⅲ
アリアの位置を確認する。やっぱり敵なんだろうか。地下で僕達を殺そうとしたし人間が作ったコア生命体とはいえ元は地球を支配する為に遠い星から来た命。
僕にとってこの戦いは地球を守る為ではなく。今同じ時代に産まれた目の前に居る人たちを守りたいから。だから僕は全神経を集中させる。
「-オマエはなぜそんなに冷静で居られるんだ。こんなにヤバイ状況なのに、それに少し温かいしなんだか・・・・・・。と、とにかくアイツをぶっ殺すぞ!-」
「次はかなり危険な目にあうけど、僕を信じて」
「-うん・・・・・・-」
FLD上に全員の位置が表示された。アリアに近いのはファウストとシュツカート、シュツカートは損傷が激しく強引な戦闘は出来ない。僕たちもメインエンジンの損傷が激しく連続で飛べない。ドーラとローマンはここから1km離れた場所から狙撃の体制に入っている。この状況では連続攻撃なんか出来ないし一発勝負しかない。
右手に握り締めたコアマテリアルナイフが重く感じ、少しずつ恐怖と緊張が目の前の汚染された大気をさらに濁らせていく。
「FLDに作戦ルートを表示させるよ」
その攻撃ルートは全員での一直線の攻撃。さっきのローマンの援護射撃で思いついたんだ。
「-少年!本気か!私たちはスパイラルシフトはもう出来ないから、外したらいざとなっても援護できないぞ!-」
「-ユッキー!?1ミリでもずれたらシュミット死んじゃうよ!-」
「-私は外しませんから。雪人さん、信じてます-」
「-シュミットにもしもの事があったらオマエもぶっ殺す!-」
「僕を信じて!アリアが逃げようとしている。追うよ!」
焦りの風に押されて一気に加速した、高さ30メートル以上あるベルリンの隔離壁。沢山の実験と戦争の傷跡を隠し切れなくって作られ、過去と一緒にされた人間が作った壁。人々の心を分断し人々の存在を否定した場所。この戦いが終わってもここは本当にこのままでいいのだろうか。
ファウストが引き離されないように激しいレーザーを避けながら近づいていく。シュツカートも後を追いルートに少しでも外れないよう加速していった。
流石はエース。FLDのブーストの表示から分かる、最小限の力でどんどん近づいていき、僕達は付いていくのが精一杯だった。大量の赤いレーザーが隔離壁に着弾し爆発の中から飛び出したコンクリート片が弾丸のように木々を貫通し過ぎていく。
後数秒だ。ドーラとローマンも僕達の背後に付いた。ファーサイトとノクトヴィジョンが起動されFLD上に正確に位置情報が伝わってくる。視界で認識できない場所も全て。そう僕たちには全てを打ち抜ける翼があるから!
「-いくぞおおお!少年!-」
ファウストがアリアの上を取り急降下する、シュツカートが下から急上昇し最後の一発を撃つ。アリアはまったく動じず、シールドとレーザーで反撃してきた。単調な動きなのにまったく隙がない。二人が重なった瞬間-
僕達の背中のメインエンジンが強烈に反応する。殻を破った鳥が翼を大きく開き、翼の呼吸するかのように!全ての神経がシュミットと繋がった、命の螺旋を描き一つになった時、初めてシュミットが翼の名を叫ぶ!
「-時をも打ち抜け!流星の翼!!!-」
全てが光の線になり何も見えなくなる。みんなの温かい風が背中を押し加速する。ナイフを突き出し少しでも届くように。視界が開いてくると、ファウストとシュツカートがアリアの横を挟み撃ちにする。
既に目の前にはレーザーがありギリギリでかわしながら、ナイフを突き出すとシールドで弾かれた!
その程度で防げるとおもったのか!ドーラの砲弾が真上から2段加速してアリアを直撃しシールドで防がれたが、物凄い爆発と衝撃波で動けなくさせる為の攻撃。全てがコマ送りに見える中、翼を更に加速させる。
アリアの全身から小さなレーザーコアが出現し全方位でレーザーを撃とうと強烈に赤く光りだす!
「君は殺される為に作られたんじゃない!人々の心と分断された命なんだ!ここで眠れ!!!!!!!!!」
「行くぞ!シュミット!」
「「命を分け与えろ!!!!流星の翼!!!うおおおお!」」
アンチレーザーフィールドを大きく展開した。大鷲が翼を広げ威嚇するかのように。翼が赤く大きく光りアリアを包み込む。レーザーが消滅しそのままアリアに抱きつき動きを止めた。気のせいかアリアの胸の中心から鼓動のような物が聞こえた。ゴメンよ・・・・・・。もう眠るんだ。
感覚で分かる。ローマンがトリガーを引いた。1キロ先からでも0.3秒で到達する弾丸。僕達の頭を撃ちぬくコースだ。アギルギアの頭はメインカメラやセンサーしかない、頭がなくなっても死ぬわけではないから。
弾丸が背中のアンチレーザーフィールドを通過していく。アリアはシールドも出せない・・・・・・。誰もが倒したと確信した瞬間-
「-どうしてオマエが!?なにやってんだよ!-」
ドーラが叫んだ。振り返ると背後には黒く大きな機体。彼女達が弾丸を弾いた。一体なぜなんだ。アリアがもがき黒い翼で僕達を再び叩き付け、絶望という隔離壁に再び戻された。
「-ふざけんなよ!何してんだ!-」
シュミットも叫ぶだけど何も通じない。
「-少年!アリアが逃げたぞ!急上昇した!もう追えない!-」
「-ユッキー!もう駄目だ、エンジンが焼き付いちゃったよ!なにそのアギルギアみないなの知っているの!?顔が完全にロボットみたいだよ!怖いよ!-」
「-雪人さん気をつけてください!アイヴィーから通信です!-」
『-隔離壁内部のメインプログラムが異常を起こしています。内部で何かが起こってますのですぐに脱出してください-』
「-まずい雪人!!逃げろ!自爆プログラムだ!アリアどころじゃない!エイブラムスが追っているから今は逃げろ!-」
「僕の体はもう動けないんです」
「-おい!私が迎えに行くから。私から切断して少しでも距離を稼げ-」
すると彼女達が近づいてきて隔離壁の上に立つ。そのフォルムは隔離壁と同じ色、この殻の中で生まれた雛。運命に逆らえず命令に従う番犬かのような目つきだった。
「ユキヒト・・・・・・ハイトの遺伝シ・・・・・・オリオンのコドモ・・・・・・。オマエはココでシぬ・・・・・・」
「僕がオリオンの子供!?どうしたの三人とも!」
急に頭に激痛が走る。この感覚はあの時の・・・・・・。ブチンと神経と切断された。全て色の無い世界。強い砂嵐の中、命の瓦礫の上で踊る白い服の少女。君は一体誰なんだ。
『最初からここには君の望む物は無いんだ。目の前の敵を倒してオリオンへと』
「彼女たちは敵なの?」
『戦うんだ』
砂嵐が強くなり段々と感覚が戻ってくる・・・・・・。色、音、体温、光りが差し込んでくる。
「-おい!!!オマエ!今死んでたぞ!!!一体なんなんだよ!もうわけがわからないよ!私を一人にするな!!!-」
目の前の敵は、2メートルぐらいで黒く大きな機体と感じた。右手にはライフル、左手にはシールド。翼には「Cerberus」と書いてある。ロボットの顔だけどどこか寂しそうだった。僕は彼女たちを敵と認識してしまったのだろうか。
ビリビリと神経に伝わってくる。悲しい。とても悲しい。怒りでこの気持ちを踏み潰してしまったら、もう僕は僕で居られなくなる。全てを受け止めて全てを悩んで、考えて答えを出す。君と。
「僕は死なない!」




