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core26:刻を加速させる鳥Ⅱ

 頭の中でアラートが響く。『強制スリープモードに移行します』と感情の無い機械音が僕を守る為に反響する。汎用スーツの生命維持装置によって全身の感覚が無くなっていく。定期的に目が開く。目の前には黒い人・・・・・・。何故かそれはとても温かく感じる。そしてまた目が閉じる。


・・・・・・。


 次に目を開いたときには二人の少女・・・・・・。なんだか嬉しそうだ・・・・・・。だけど遠ざかっていく。なぜ行ってしまうんだ。僕を置いていかないで・・・・・・。


また目が閉じる。


・・・・・・。


 深呼吸をしてみる。全身の隅々まで酸素が届き脳へ反応を返す。右手、左手にビリビリと感覚が戻っていく。ここは何処だろう。体が傾いており座っているようだった。とても体中にフィットして心地いい感じだ。


 また目が開く。周りの音が聞こえてきた。だけど音ではなくこれは振動だ。鼓膜に直接感覚だけが伝わってくる。そして目の前には白い文字が映し出される。


隔離壁第7地区、シュミット。損傷あり。ミラージュシフト残り40秒、アンチレーザーフィールド残り10秒、コアマテリアルナイフ


「-おい!意識あんのか!?もういい加減、返事してよ!!-」


 返事が出来ない。呼吸は出来るのに声が出ない。自分が何処に居るのかは大体予想がついた。ここはコクピット。そして黒いパイロットスーツ。左側には汎用スーツがボロボロになっていてた。バッテリー切れだろうか二人が着替えさせてくれたのだろう。体の違和感から探ってみると、骨折部分の箇所だけがスーツで固定されたままだった。もう一度深呼吸をする。激しい頭痛が戦えと襲ってきた。


「あ・・・・・・。うん、そうだね。シュミッ・・・・・・ト。君に繋がるよ」


「-クッソ!無害でマヌケで!スケベなくせに!オマエが居ないと駄目なんだよ!こんなやつ倒せない!-」


 全身の感覚がリンクしていく。両足、両手の指先から肩まで、そして脊髄を通り頭の中心へ。視界がどんどんクリアになっていく。


「-うそでしょ!?ユッキー!?シュミットと繋がっているの!?-」


「-シュツカート!余所見するな!少年!遅いぞ!-」


 ファウストも一緒だ。完全に視界が重なる。高速で大気汚染の霧に包まれた森の中を駆け抜けている。少しでも間違えれば大木に衝突し大破だ。そしてレーザーに狙われ続けているアラーム音。警告の優しい電子音ではなくて大量のレーザーのせいで処理しきれず、エラー音のように聞こえる。駄目だ今は敵を見ちゃ駄目だ。背中に迫ってくる衝撃波、爆音はこれまでに無かった恐怖。だけど・・・・・・。


「逃げ待っているだけじゃ駄目だ。体制を立て直す。FLDにルートを構築する!」


「-早くしろ!止まったらドーラが狙われる!エース姉妹が張り付いているけど、直ぐに剥がされる。アイツ化け物だ!-」


 FLDの全員のルートを見ると第4地区に誘導になっている。通信障害が激しくドーラの位置がつかめない。そして超高速でジグザグに動き回るファウストとシュツカート、だけど肝心のアリアの位置があまりにもおかしい。二人の10倍以上の距離を一瞬で飛び回っている・・・・・・。


「-おい!どうすんだよ!あいつらだっていつまでも持たないぞ!-」


「ミラージュシフトの使い方を教えて!」


「-そんなの簡単に伝えられるか!!-」


「なら、シュミットが使うんだ!僕が接近戦をする!移動を任せるから!信じて!」


「-ううううんん!もう!好きにしろ!-」


 一気に方向転換しアリアが飛び回っているだろうという方向へと加速する。要は大量のレーザーが飛んでくる積乱雲の中に突っ込めばいい。怖いけど次第にエンジン音は心地よい音となりシュミットの翼が暗黒の雲に吸い込まれるように自然と羽ばたいた。


 FLDの情報からファウスト、シュツカートのスマートパルスライフルの残弾がどんどん減っていく。ブーストゲージもオーバーヒートギリギリでいつ止まってもおかしくない状況。スパイラルシフトは既に使用不可になっていた。地上や全てを遮る黒い隔離壁に足をつき翼の息継ぎをする度に速度が落ちていく。


「-ユッキー!もう持たない!-」


「-シュツカート無理をするな!前に出るぎるんじゃ無い!-」


 シュツカートがアリアに向かってジャンプするも小さな無数のレーザーが小さく愛らしい翼を打ちぬいた。加速を止められずバランスを失った体は無残にも隔離壁に打ち付けられて、30メート以上の高さから落下した。


「-シュツカートォオオ!-」


 ファウストが救助に向かう。あの高さから落下したら暫くは行動できない!緊急避難用のオートモードでもあのレーザーは避けられないし僕たちの距離からアリアまでは50メートル無駄弾は撃てないから行くしかない!!


すると背中に何故か視線を感じた。そうだこの感覚は・・・・・・。


「-雪人さん!援護します!突っ込んでください!-」


「ローマン!?マイクさんと!?」


「-任せろ雪人、ローマンとのリンクは脳みそが爆発しそうだぜ!-」


 FLDにファーサイトの情報が来る。とても正確な位置情報で壁が遮っても電子汚染された雲の中でもクリアに形が見える。黒い大きな翼。死を風代わりに羽ばたき飛び続ける。


「-後、10秒でミラージュシフトを使う!何も見えなくなるから感覚で攻撃しろ!-」


「え!?」


「-光さえも捻じ曲げるんだから何も見えないし何も聞こえないに決まってんだろ!?-」


 頭にファーサイトの情報を叩き込む。実際に見ているわけでは無いので数値でしかなくマップ上のルート情報だけだ。


「シュミット、君の翼には名前はあるの?」


「-私たちにはそんなものない!だって名前をくれる人が居ないんだもん!自分の名前は自分でつけた。ドーラだって一緒!-」


「なら僕が叫ぶよ!」


「-はぁああ!?なんでお前が!もう行くぞ!5、4、3、2・・・・・・-」


・・・・・・。


「1!!おおおおお!命を分け与えろ!流星の翼!!!」


「「-うぉおおお!!!-」」


 アリアを視界に捉えた瞬間、目の前の世界が歪んだ。何も見えず何も聞こえず。ただ黒より暗い世界だった。その中で加速するが孤独じゃない。でも今はシュミットと繋がってないはずだ。だけど分かるんだ背中の翼が羽ばたいていると。右手の感覚が戻ってくる。コアマテリアルナイフをシュミットが握りしめている。君はもう一人じゃないんだ!!


 視界が世界を切り開いていく。剣先には一つの弾丸。この大口径の弾丸はローマンのロングボウだ。僕たちの軌道に重なるように打ち出されていた。音速をはるかに超える弾丸を目視できるほどまでに加速し認識していた。ミラージュシフトはスパイラルシフトのような力を持っている。


 アリアと目があった。二度目だ。大口径の弾丸が音も立てずに小さなシールドで消えていく。シールドにかすりながらもナイフを突き出す。避けられはしない。だって僕たちの翼は君の黒い翼よりも大きいのだから!!メインコアだろうか胸の中心にある大きな赤い心臓のようなコアにナイフが刺さる瞬間―


「-くっそ!こいつ!これでも反応しやがるのか!-」


 シュミットの方が気づくのが早かった。手や足やレーザーだけが武器じゃなかった。黒く大きな翼によって叩きつけられた!視界がぶれ背中に激痛が走る。あっという間に隔離壁に叩きつけられた。まずい・・・・・・。行動不可能だ。


「シュミット!シュミット!返事して!」


「-くっそ、大きな声で叫ばないでよ!-」


FLDにはメインエンジン損傷大、戦闘不能、自爆可!?と表示されている・・・・・・。


「-私たちには帰還ルートなんか無い。帰る場所がないから!-」


 体がまったく動かない。いや動こうとしないんだ。何も出来ずに巨大な力に支配され続け慣れてしまい、少しでも逆らえば強制的に押さえつけられる運命だと受け入れてしまっている。


「ねえ、シュミットなんで鳥には翼があるんだと思う?それは自由とかじゃなくて、自分達で勝ち取った力なんだ。誰かに決められた運命なんか無い。僕たちでもこの世界にまだ切り開ける道があるんだから」


「-オマエはいっつも説教ばっかり、だから嫌いなんだ、このままじゃ一人じゃ生きていけないじゃないか!-」


「説教か・・・・・・。あはは・・・・・・。僕は小さい頃から端末と二人きりで過ごしていたから誰かに怒られた事なんてないや、人と一緒に居られるほどに成長できたのかな。もしそうだったら君達のお陰だよ」


 少しずつ姿勢が戻る。右足から立ち上がりエンジン音は悲鳴を上げている。叩きつけられた体はミシミシと音を立て恐怖の重圧に反発し力を増していく。


「-まだ、アンチレーザーフィールドがある。一発勝負だ!-」


「-シュミット!無茶をするな!-」


「-ドーラにローマン、そしてエース姉妹。いや、ファウストとシュツカート。協力してくれる?-」


「僕からもお願いだ。この力ならいけるかもしれない」


「-急に強くなったな。少年の力か?私は信じているぞ-」


「-私の機体もボロボロだけど一発勝負ならいけるよ!-」


「-雪人さんの天才的な作戦ならいける気がします-」


 一呼吸をするとみんなのエンジンの息遣いが分かるほどに近くに感じた。チームワークというレベルを超えた世界で戦ってやる!!!


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