core24:殻の中は違う世界Ⅲ
3人を黒いアギルギアに入れると自動でエンジンと頭部が閉まって行き見えなくなった。この機体は傷だらけで至る所に白い文字でメモ書きのような物があった。機体の正面には丁度3人が居る場所にⅠ、Ⅱ、Ⅲと書いてある。そして翼には「Cerberus」と書かれていて少しだけ怖かった・・・・・・。
「-ありがとうございます。アギルギアの体も何もかも私たちにとっては初めてなので、初期セットアップがあるようです。数分で動けるようになりますので、先に逃げてください-」
床に座り込んだままの黒い機体の3人にドーラとシュミットが近づき強く抱きしめ、二人から大粒の涙が零れる。
「なに言ってんだ!一緒に逃げるんだ!5人で生きるんだ!家族なんだから!自由になって一緒にいろんなお洋服を着て、ご飯を食べて・・・・・・」
僕はこの部屋のコントロールルームを探す為に皆から少し離れた。外部と通信出来る端末を探す為だ。部屋の奥に照明が消えた場所がある。近づくと半開きになった自動ドアがあり、何年も使われてなさそうだった。強引に開けると目の前には真っ暗な通路があり汎用スーツのライトで照らし恐る恐る進む。とても不気味で風の流れも無い。足音が響き自分の心音が共鳴していくような錯覚。端末の恐怖の感情値がどんどん上がっていく。
20メートル程歩くと突き当たりにはドアがあり、また半開きだった。汎用スーツが壊れないか心配だけど腕と背中の伸縮を利用して少しずつ強引にあける。スーツから網膜に投影されている数値が重さ300キロと表示されていて、ちょっとだけ後悔した・・・・・・。ピピピとドーラから通信が入る。
「-おい!どこいってんだ!そろそろ脱出するぞ!-」
「ちょっと待って、あれ・・・・・・。何か居る・・・・・・」
「-え!?おい!-」
一瞬だった。強烈な閃光の中に少女のような人影が見えた。僕の身体にぶつかりそれはたいした力ではなかったけど逃げていった。記録画像を見ると目が赤く光る白い服の少女が居た。
「ドーラ!シュミット!そっちに白い服を着た小さな女の子が行く!捕まえて!」
記録画像を5人に転送する。
「-なんだコイツ!何で人がいるんだ!捕まえて全ての穴から吐かせてやる!-」
僕は追いかけようとしたが、目の前にはコントロールルーム。急いで端末を繋ぎ外部との通信を試みた。しかし繋がらなかったけど緊急警報の情報を入手できた。既にレンドルフ隊が僕たちの上にいる。そしてここよりも更に地下の「実験体」に異常があったと表示されていた。
「-どこに行った!居ないぞ!それにオマエ何勝手にコントロールルームにアクセスしてんだ!って、ここより地下があるなんて!!-」
「-先に逃げてください、この機体には異常がありますが動ければ音速で脱出できる程のパワーがあります。だからお願いドーラとシュミットそして雪人さんは逃げてください-」
「-アギルギアなら触れるから、担いでいくぞ!オマエ!戻って来い!-」
「分かった!待ってて!直ぐいくから!」
しかしさっきまで不気味で風の無い通路に不穏な風が吹いてきた。焦る。足が上手く動かない・・・・・・。ドンドンと爆発音がなり、警報が鳴る。
『緊急警報、侵入者の攻撃により防御システムを作動させます』
一度コントロールルームにアクセスしたお陰で僕の網膜にはこの施設のマップが全部表示された。そしてマップには沢山の部屋があるが、ドアの緑の表示が赤くなりどんどんロックされていく。これでは脱出出来なくなるじゃないか!
「-くっそお!あいつらぶっ殺してやる!人の家を・・・・・・壊さないでよ!-」
シュミットの声が高くなる。恐怖や不安、そして悲しみの声。皆の所にたどり着くと黒いアギルギアは床に倒れていた。
「どうしてだよ!どうしてなんだよ!また触れなくなった!お願いだよ!雪人!なんとかしてよ!」
今までに無い表情だった・・・・・・。小さな白い手は黒い機体に触れられず、あと1センチ程で止まっていた。
二人は何も出来ず呆然と立ち尽くした。脱出ルートの部屋がロックされており、迂回しなければならない。黒い機体を捨てて3人を抱えたまま走り回れる程に汎用スーツには残りの力がない。どうにか動かせないものかと機体にアクセスしてみる。しかし3人を取り出そうとした所、アクセスが拒否されてしまった・・・・・・。
「-もう、いいんです。皆さんに会えて幸せという言葉知りました。もう目の前にレンドルフ隊が来ています。恐らく『アリア』と戦闘が始まりますから逃げてください-」
ロックしたのは3人だった。だけど僕は少し引っかかった。ふと質問をする。
「アリアを知っているの?」
「-アリアは2人・・・・・・-」
突然3人と通信が出来なくなる。通信障害と表示された。これは!?ガタガタと複数人の足音、振り返るとライトで照らされて眩しくてよく見えない。
「貴様らここで何をやっている。ん?もしかして貴様は暮葉雪人か!?ここで作戦が開始されている。直ぐに脱出しろ!ロジャー!3人を連れて行け!」
「ふざけんな!私たちの家を壊しやがって!」
シュミットとドーラの背中当たりから熱がこもった機械音がする。目が赤く強烈に光り、ロジャーの武器を焼ききった。そして二人で体当たりをして突き飛ばす。
「オマエは逃げろ!私たちとは関係ないだから!全てアリアのせいだ!ヤツをぶっ殺してやる!」
二人は8人はいるレンドルフ隊の包囲をかいくぐって、小さなエレベーターまで走っていった。マップを見ると地下のアリアまで直通のエレベーターだった。
「駄目だ!そっちは!帰れない!」
「来るなバカ!!」
3人でエレベーターに雪崩れ込む。追いかけてくるレンドルフ隊を目からのレーザーで追い払う。後もう少しでドアが閉まろうとした瞬間、ライフルを隙間に入れてきた。そして、1発、2発。僕の左肩に1発命中し衝撃で地面に叩きつけられた。
「なにしやがんだぁああ!」
ドーラがライフルを掴みミシミシと音をたてながら中に引きずり込んだ。ドアが閉まりエレベーターが降り始める。ライフルはひしゃげておりドーラの手が限界を超えた力を出したせいか、白いシルクのような肌から金属のフレームが飛び出していた。
「弱いくせに、無理なんかするな。オマエなんか直ぐに死んじゃうんだから。なあ大丈夫か?肩・・・・・・。いっぱい血が出ている」
「ありがとう、心配してくれて。ちょっと痛いけどこのスーツのお陰でだいぶ止血できたから、もう大丈夫だよ。ドーラは手は大丈夫?」
「こんなの何でもない、私の身体は機械よ」
「一緒だよ。人の体も機械の体も。その人自身なんだから」
「「・・・・・・」」
弾丸は鎖骨を砕いて貫通している。スーツの医療キットでは脱出中に動かせるようになるまでにならないな。網膜には銃創による緊急治療中と表示されていて、自動で左肩から首筋まで固定される。動きにくいけど痛みは直ぐに収まった。
エレベーターには何階とも表示されてない。一体どんな実験が行われているんだろうか・・・・・・。
「ねえ・・・・・・。皆でここから出れたら、一緒にいてくれる?」
シュミットがつぶやく、ドーラも同じ目をしていた。
「みんな歓迎してくれるよ、だってこんな時代に産まれた一緒の命だから」
「「約束だぞ!」」
エレベーターが止まりドアが開く。隙間から流れ込んでくる真っ黒な風。ドクン、ドクンと直接魂に響く。これは人の鼓動じゃない。共鳴できない音であり拒絶するべき振動。違う命のメッセージが僕たちの知らない世界で待っていた。




