core22:殻の中は違う世界Ⅰ
大広間に案内されると知らないスーツ姿の男性が居た。丸く大きなテーブルの中心に座る。恐らくここの人だろう。リナさんはその人の隣に座り話しかけていた。
「どう?うちの雪人君は凄いでしょう、お望みのデータは得られたかしら」
「まあ、そう急ぐな。まだディナーは始まってない」
「そうかしら」
みんな席に着く。シュミットとドーラはその男性の隣。アイヴィーは食事の手伝いをしている。僕の隣にはリナさん、シュツカートにファウスト。マイクさんは来なかったようだ。
テーブルには沢山の花と綺麗な模様のテーブルクロス。部屋は明るいのにテーブルの上には蝋燭が並んでいて、小さな火がゆらゆらと心を落ちかせてくれる。
「ようこそ、アギルギア研究所へ。もうシュミレーターでの訓練をしているようだな。挨拶が遅れたが、私はここの所長カールナインだ」
次々と運ばれてくる料理に皆は目を光らせていた。ファウストは落ち着いた様子だったが、恐る恐るナイフとフォークで小さな果実を口へ運ぶ。殆どが一粒程度の料理で花で飾られていた。僕のは量が多くとても食べきれない。
しかしリナさんは料理に目もくれず。カールナインを見ている。
「ねえ、カールナイン。もうおなかいっぱいじゃないの?」
大きな手が止まる。
「今日の私はあっち側なの」
「ああ。この食事では物足りないな」
リナさんの目つきが変わった。場の空気が凍りつき全員の手が止まる。一体なんの話をしているのだろうか。するとシュミットがカールナインの背後に立ちリナさんを指差して叫ぶ。
「アンタ。さっきから何を言いたいのかわかんないんだけど。何か文句でもあるの?」
ちょっとリナさん・・・・・・。
「あら、分からないの?食事ってのは大勢でしないと満たされないのよ、特にこの男はね」
「はぁああ!?」
ドーラも席を立ちいらだつ。
「リナ君。一体どちらが本業なのかね」
「もう時間が無いの。ベルリンの隔離壁内部からなにかイケナイ物が起きちゃったみたいだけど」
するとドーラが反応する
「え!?カールナイン!隔離壁内部で何をやっているの!?」
リナさんの口調が強くなる。さっきから何かとんでもない事を探っているようだけど。
「悪いけど、あなたのお目当ての研究所は水爆で白紙にさせてもらうわ」
皆一斉に席を立った。リナさんの目が本気だった。水爆って核爆弾じゃないか!
「リナどういう事だ!?隔離壁に一体何があるんだ!」
ファウストが噛み付くとシュツカートは怖くなりファウストの後ろに隠れた。一瞬にしてディナーは恐怖の席と変わった。
「どうやらタイムアップのようだな。確か君は柊灰人の助手だったようだが、今日はブランクマスターとして来たのか?そして彼を見つけるとは恐れ入ったよ」
カールナインが僕を見る。柊灰人・・・・・・。父さんの昔の名前だ。父さんが言っていた。『私の昔の名前を知る者には気をつけろ』それにリナさんが助手だったなんて。いったい何がどうなっているんだ。
「残念だけどタイムアップにさせるつもりは無いわ」
「くくくく。100年以上掛かった。天才柊氏の夢を叶えられるまでに、一体どれだけの時間を費やしただろうか!」
「柊の夢じゃないわ、あなたの幻想よ」
「ちょっとオマエラ何いってんだ!隔離壁内部には私たちの家がある!家族だって居る!攻撃するなら容赦はしない!カールナインどうなっているんだ!」
シュミットとドーラが手を繋ぎカールナインから離れる。
「家族だと!笑わせるな!お前らはただの人工物だ!ロストチルドレン・・・・・・。はははは!物は言いようだな。この人間モドキが!」
全員凍りついた。するとカールナインが行き成り席を立ち、眉間に指を当てる瞬間・・・・・・。
バン!と乾いた破裂音が隣で聞こえる。リナさんが大きな拳銃でカールナインの胸を打ち抜いた。カールナインは2メートル程吹き飛び倒れこむ、血は白と赤で交じり合う。この人は機械化されているんだ。
「マイク!来て!アイヴィー準備して!」
すると待っていたかの用にマイクさんが外のガラスを突き破り、大きな箱を持ってきた。アイヴィーがカールナインの頭にヘッドギアのような物をかぶせる。
「リナ!説明しろ!」
ファウストの声が震えるのも無理も無い。ベルリン隔離壁での大きな闇。そして自分達を人間モドキと言うアギルギア研究所の所長が胸を打ち抜かれて倒れているから。僕だって他人事ではない。とても怖い。
「柊灰人博士はコア生命体を殲滅させる為の最終兵器『アギルギア』を設計し消息を絶ってしまったの。残った研究者達がわずかな設計図を頼りに完成させようとしたけど、現代の技術では不可能だった」
「ちょっと待ってください!リナさん!今のアギルギアは!?未完成なのですか!?」
マイクさんとアイヴィーがカールナインの頭にケーブルや機材を接続させている。恐らくデータのバックアップを取るんだろう。
「そうよ、皆には悪いけど、今のアギルギアはカールナインの指揮の元に作られた未完成よ。完全なアギルギアの設計図『ローズオブナイト』は柊博士が持ったままと言われている。そして問題なのがアリア計画と呼ばれるもう一つの究極兵器よ」
「それがなんだってんだよ!あそこには私たちの家族がいるんだぞ!」
「そんな・・・。私たちのアギルギアが未完成だなんて・・・・・・」
シュツカートの瞳から涙がいっぱい零れ落ちる。
シュミットとドーラは今にもリナさんを攻撃しそうだった。ファウストとシュツカートはショックのあまり止まったままだった。
「カールナインが研究している、人工コア生命体兵器『アリア』これは絶対に作っては行けないの。アギルギアはコア生命体の最終進化を止める為の兵器。必ずコア生命体の進化とアギルギアの進化が対にならなければ行けないの。どちらかが先に進化しては行けない」
「全然わからない!!」
シュミットとドーラは混乱して叫ぶ。僕だって叫びたい。
「敵は生命体、知能が無いんじゃないのよ!知能そのものが存在しないの」
リナさんは皆を説得するつもりは無いように見えて、自分の正義を言っているようにしか聞こえない。マイクさんが顔を真っ青にして、リナさんの手を掴む。
「リナ!まずいやっぱりこいつ『アリア』を一度作っている。一体失敗して、2体目がもう目覚めたぞ!」
「そ、そんな・・・・・・、アイヴィー!エイブラムスに繋いで!」
「了解です・・・・・・。どうぞ繋がりましたよ」
「エイブラムス!お前知っていたのか!『アリア』は捕獲できない!してはいけない!」
「-もうすでに時は動き始めていた。旧フランスで超大型を倒す前から我々はカールナインを追っていた。レンドルフ隊からのサンプルではアリアが完成したか確証が取れなかった。そして、現時点の情報を持って『アリア』を捕獲する-」
「捕獲は不可能!!アギルギアを有りったけ出動させて!」
「-殆どの機体はブラジルに到着して出撃は不可能だ。レンドルフ隊が隔離壁に到着した。捕獲失敗時は今ドイツに居る機体で対応しろ、状況に応じて水爆も使用する。以上だ-」
「くそぉお!雷花とローマンを出撃させて!ファウストにシュツカートもお願い!捕獲なんて無理よ!柊は言った。オリオンと共に!と」
「分かった!輸送ポッドを手配する!」
「ふざけんな!あそこには私たちの家族がいるんだ!」
シュミットとドーラが飛び出して行ってしまった。僕にはどうしようも出来ない。だけど、このままなんて嫌だ守りたいんだ。もう誰も悲しませたくないから。
「まってシュミット!ドーラ!」
「雪人さん、行っては行けません!」
「雪人!ローマンで出撃よ!」
「少しだけ!ちょっと待ってください!」
初めてリナさんに逆らったかもしれない。僕は二人を追いかけた。扉は重く僕に行っては行けないと知らせるようだった。階段を上り屋上に出るとそこには輸送ポッドが飛ぶ準備をしていた。
「なんで付いて来るんだ!お前には関係ないだろ!」
「僕は君達の家族じゃないけどもう誰も失いたくないんだ。この先は危険だから。だから一緒に戦って欲しい。僕が必ず守る盾になるから!」
「私たちにアリアなんて関係ない。私たちの家を攻撃するなら打ち落とす」
「駄目だ!リナさんの言った事が本当なら、皆やられてしまう!」
「うるさい!私たちは少しでも長く生きたいんだ!お前たちと一緒にするな!私は知っているんだ、どうせ作られた人間だ!人間モドキなんだ!」
「違う!もう一緒に過ごして、一緒に食事して、同じ時間を感じた。はじめから立派な人間だ!一緒に生きよう!」
シュミットとドーラの目から大粒の涙がこぼれた。こんな事の為に涙があるんじゃない。沢山感じて、嬉しい時の為に流して欲しいんだ。輸送ポッドのエンジンが点火される。二人は後部ドアの上に立つ。悲しい顔だった。
「まって!」
僕は何も考えずに走り、輸送ポッドに入り込んでしまった。
「「コイツ、本当のバカだ!」」
「あはは・・・・・・」
後部ドアが閉まっていく、輸送ポッドが動き出し加速し始めた。端末から通信が鳴りっぱなしだリナさん激怒しているだろうな。
「-雪人!ローマンを出撃よ!-」
「もう輸送ポッドに乗っちゃいました、彼女達の家族を救出します」
「-呆れた。生身でどうやってあそこで生き抜くつもり?はぁ・・・・・・。いずれあなたのお父さんの事は話すつもりだったわ-」
「父さんだって知ってたんですね。あの時僕を選んだ理由はそれですか、僕は設計図なんて持ってませんし知りませんよ」
「-正確には柊博士の子供を捜したんじゃなく、アギルギア適合者を探したのよ、半分偶然ね。半分はビンゴするだろうって思ったわ-」
「僕がアギルギア適合者・・・・・・。そうだとしても、なんでここまで自分が動くのか分かりません。もう自分の意思を信じて決めますから」
「-終わったらお仕置きじゃ済まさないからね。雷花とエース姉妹でアリアを倒す。いざとなったらマイクでローマン出撃させるわ-」
「-まじかよ-」
端末の通信を切った。いけない事をしてしまったと思う。後戻りはもう出来ない。シュミットとドーラは手を繋いで立ったまま無言だった。話しかける言葉は無く僕は自分の事に集中しなければならない。




