core21:電子の空と風の彼方に
「-これからアギルギア同士による2on2の模擬戦を行います。レーザーライフルとアンチマテリアルナイフを装備、弾数は無制限です。スパイラスシフトは使用できません。胸中心のメインターゲットに当てた方が勝ちとなります。制限時間は3分、各自ウォーミングアップを開始してください-」
「ユッキー、相手は4世代機の最新型だよ。基本性能は変わらないけど、特殊兵装があるから注意しなきゃ、模擬戦だからといって禁止されてないと思うよ」
「それはいったい?」
「シュミットは透明になるミラージュシフト、ドーラは巨大な大砲グスタフカノンを持っているよ、私も見たこと無いけど警戒しなきゃ」
「-少年。これは私たちドイツ機の戦いだ。だがどんな時でも必ず勝つ、約束する-」
「あ、ファウストどさくさにまぎれて、愛の告白だぁああ!」
「う、うん、僕も頑張るよ!」
「-模擬戦開始まで、5、4、3、2、1・・・・・・-」
「-Get Ready!-」
前回と風景は同じで規則正しいドイツの町並みだが、MAPが広く3000x3000だった。味方の位置は分かるけど、相手の位置は見えない。
まずは建物の影に隠れる。ファウストは側面から回りこむようで左側へ向かっていった。すると警告のアラートがなる。これは!?レーダーには小さな点が僕達に重なるぐらいに接近していた。これは弾だ!頭上に小さな砲弾が見えた。
遠くからドンっと発射音が遅れて聞こえてきた、もうすでに撃っていたんだ。
「ユッキー!これは炸裂弾かもしれない!建物に突っ込むよ!」
とにかくシュツカートを信じて正面の建物に突っ込む。頭上で砲弾が爆発して無数の弾丸がばら撒かれた。建物を貫通するほどに強力で、中に入っていた僕たちの直ぐ側を複数の弾丸が通り過ぎていく。
危なかった。もし逃げようと後ろに下がったらイキナリ撃破されていた。ファウストのレーダーを見るともう500メートル以上前進している。
「ファウストは接近戦する気だから、このまま正面からドーラ狙うよ」
「-シュミットが必ずどちらかに張り付いてくる。私がシュミットを引き付けている間に、先にドーラを叩け!-」
「了解だよ!」
正確に狙いをつけて建物を貫通してくる砲弾。だけどどうやって位置を特定しているんだ。特殊兵装は他にもあるのだろうか。ローマンのロングボウレーダーのように・・・・・・。
もしかしてファーサイトか!なるべく建物を盾にして地上を高速移動する。エンジンを最小限につかい気づかれないように。シュツカートはふわふわと動いているように見えるけど、ランスポーツ時の軽量化されたローマンの最高速度と変わらないスピードだ。凄い・・・・・・。
「ねえ!彼女達もロングボウレーダーあるの?ファーサイトとか」
「それは第四世代のヴァルキリーフレームしか装備出来ないから、ドイツ機の最新型は装備出来ないと思うよ。あ、ノクトヴィジョンかな」
「え?ヴァルキリーフレーム?ノクトヴィジョン?」
「紅音ちゃんのジャガーノートフレームはコアエネルギーの放出だけど、ヴァルキリーフレームはコアエネルギーの充電だから溜めたコアエネルギーでロングボウレーダーを使えるんだよ。あの子達は確か違うフレームだったような」
「ノクトヴィジョンというのは建物を透かすの?」
「えーと確か・・・・・・」
「-建物を透かせて目標を測定し砲弾に位置情報を知らせて正確な攻撃が出来るんだ。撃つ角度が60度程度ずれても砲弾自身が軌道修正し着弾の誤差は5メートル以内と言われている。撃ちっぱなしが出来る高性能の兵器だ、ただし重量があるので高速移動は出来ない-」
「じゃあさっきの発射音が聞こえた頃には、その場所にはもう居ないって事?」
「-そういう事だ、砲弾はミサイルのようにレーダーに探知されにくいからギリギリまで気づかない-」
何気なくシュツカートと二人で空を見るとまた小さな砲弾が見えてアラートがなる。
また炸裂弾だろうか。だけど最初とは高さが高すぎて、とても僕たちを狙っているとは思えない。ミスショットかな。
「これは違う!ジャベリンモードだよ!HEAT弾だ!砲弾が加速するから間に合わない!」
また射撃音が遅れて聞こえてくる。シュツカートの回避ルートが正面の建物を2棟突っ切るルートだ。とても僕たちの加速が間に合わない。頭上で爆音が聞こえた。真っ赤に光る砲弾が加速して急降下しくてる。一瞬で僕達へ直撃するだろう。
FLD上の爆発の危険サークルが僕たちを中心に半径40メートル。たとえ直撃を免れても危険サークルから一瞬で脱出出来ない。そうだやるしかない!
「シュツカート!僕に任せて!」
シュツカートが阿吽の呼吸で身体を反転させ空を向く。これから僕達を貫通しようとする砲弾を完全に捕らえる。二人でレーザーライフルを突き出した。
「ユッキーーーー!?」
紅音のEBRSを思い出す。結果はどうであれ今まで全てに反応出来た。この砲弾は正確すぎるほどに僕たちを完全に捕らえているから、逆に狙う必要は無い。
レーザーライフルの銃口に30ミリの砲弾が触れる瞬間、赤い光で覆いかぶさり砲弾を溶かしてく。
「凄いよ!ユッキー!HEAT弾を打ち落とすなんて!」
何とか直撃しなかったけど僕達は建物に突っ込んでしまった。直ぐに体制を立て直してドーラを捕らえないなと。向こうは僕たちを見ているが、そんな凄い兵器を連続で使えないはず、今がチャンスだ。
まだ側面に回りこまれて無いと思う。ファウストが左側から攻めているから、僕達は右側へ回り込んで、挟み撃ちにするしかない。僕たちのルートの表示をファウストに知らせた。
「-挟み撃ちはいい考えだが、まだシュミットが隠れたままだ。こちらの位置を正確に把握している-」
「それなら、逆に教えてやろう!」
「え?ユッキー!?」
建物の上に上がり、弾数無制限のレーザーライフルを居るだろうと思われる方向に連射した。爆発で視界を遮る。ファーサイトの弱点はレーダーに頼ることだと思う。ノクトヴィジョンも同じだろう。ファウストと対戦した時とは違って、相手はレーダーに映らない。だからレーダーの少しの情報に頼ってしまう。
視界とレーダーのほんの僅かな誤差を生み出す。
建物の上を使い距離をあっという間に短縮させ右側面を取った。オセロやチェスで言うなら角。この場所なら攻撃の位置を限定し絞り込める。
ファウストは左の角を取った。最初僕たちが居た場所を正面に向くようにして陣地を逆転させる。さあ撃って来い。
ドン!と射撃の爆音が聞こえる。まだ砲弾は着弾してない!近い!建物を何棟も貫通して2時の方向からせまってきた。となると中心に居るのか。
「ファウスト!一緒に行くよ!」
FLD上のファウストのルートは恐らくドーラを捕らえていた、ファウストのレーザー攻撃が絶え間なく続く。ファウストは建物の上を移動して、いつでも高高度からの攻撃を仕掛けられるようにしていた。
このまま一気に叩けるのか。僕達は地面を高速移動してドーラを追い詰める。
あと50メートル。目視でドーラを捕らえられた。とても大きな大砲だ。スマートパルスライフルと長さは同じぐらいだけど、丸くて大木のようだった。
ドーラがこっちを向き目が合った・・・・・・。気のせいか少し笑っていたようだった。僕だって楽しいよ、だって思いっきり羽を伸ばして加速して飛べるんだから!
「ユッキー!なんだが楽しそう!全力で行くよ!」
シュツカートが更に加速した。この感覚はスパイラルシフトの一歩手前ぐらい、翼が開く瞬間の超加速だ!一気に距離を詰める。あと10メートル!
だけど仕掛けはもちろん用意されていた。高速で流れる視界の中、大気の層に歪みが見えた。
「え!?光が歪んでいる!?」
「シュツカートまずい!」
目の前の光りの裂け目から小さな剣先があられた。僕たちの胸の中心のコアターゲットにアンチマテリアルナイフが突き刺さる瞬間!
「-この時を待っていた!-」
ファウストの赤いレーザーがナイフを弾く。光の歪みから現れたのはシュミットだった。レーザーライフルは持っておらずナイフ一本だけ。
僕は直ぐに身体を横に回転させ蹴りで突き飛ばした。シュミットは建物に吹っ飛んでいく。ドーラが反応し完全に僕たちを捕らえていた。回転と蹴った反動で動きが止まっている体勢では避けられない・・・・・・。
10メートルの距離では反応しきれない。グスタフカノンの銃口から衝撃波を発した後、砲弾が姿を現す。完全直撃コースだ。
「-TIME UP-」
目の前には砲弾ではなく、『TIME UP』と表示され砲弾は僕達のメインターゲットをすり抜けて行った。実戦だったら負けていた・・・・・・。胸の部分はロストチルドレンが居る場所。頭を失ってもメインカメラが無くなるだけ。胸は絶対に守らなければならない。
「あはは・・・・・・。ユッキー、あれは死んじゃってたよ私。シュミットにドーラ強いじゃん、でも引き分けだね」
「-シュツカート前に出すぎだ-」
「シュミットの位置を知ってたくせに!ずるい!ずるい!」
「-囮にするわけが無い。私の大切な妹だからシュツカートは必ず守る-」
「ファ、ファウスト・・・・・・う、うん・・・・・・」
「-なーにいちゃいちゃしてんだ!?私たちの勝ちみたいな物だから、コイツ貰うわね-」
「え?」
なんか身体に違和感が。早く切断しないと。FLDの表示が真っ暗になり、いつもとは違う感覚が僕を襲う。視界がまだぼやけているけど、銀色の髪が眩しくゆらゆらとしており、唇同士が触れるぐらいに近づいていた。ちょっとまって!二人が僕のパイロットスーツを脱がそうとしている。
「ちょっと、だめだよ!」
「こら!暴れるな!遺伝子情報よこせ!」
「こいつ!私の胸触った!ドスケベ!」
「おお!?これ出るんじゃない!?」
「うあああああああ!やめてくれー!」
何とか二人を押しのけてコクピットから転げ落ちながら脱出した。すでに上半身はパイロットスーツが脱がされていた・・・・・・。なんて強引なんだ。
「雪人さん、一旦休憩になります。お食事をご用意しておりますので、大広間に集まってください」
アイヴィーが今の出来事を無かったかのように着替えを渡してくれた。シュツカートとファウストが僕を引っ張り揚げて立たせてくれる。
「残念だけど、戦いはまた後でだよ!」
「しょ、少年、服を着るんだ!」
「う、うん・・・・・・」
なんだか疲れっぱなしだ。シュミットとドーラはとても不満そうな顔だったけど、僕よりも食事の方に興味があるようで、アイヴィーに先に着いて行った。よかった助かった。
「お腹すいたよ、ちゃんとしたものを食べてない気がする」
「へぇ、私この体初めてだから、食べ物って楽しみだよ!ね!ファウスト」
「そうだな、私はアギルギアの体しか知らなかったから。アンリの話を聞いて少し食べたいと思っていた所だ」
「はぁ。アンリ今頃寝てるかな~。ちゃんとご飯食べてシャワー入って歯磨いて寝たかな」
「シュツカートはアンリ大好きなんだね」
「う、うん。会ったことは無いけどずっとずっと繋がっているから」
3人で窓の外を見る。空は曇って居るけどその先に輝く夜空はちゃんと見えた。どんなに目の前が濁っていても。どんなに恐怖や不安が視界を遮っても。
どんなに離れていても、この空はいつも誰かが羽ばたいているから。




