core04:青い機体
少しでも見やすくなるように修正です。
「起きて!雪人君、テストプレーよ!」
リナさんが目の前にいる。僕は床で寝ていたようだった。現実に戻り条件反射なのかすぐに起き上がる。テストプレーのわけが無いまた敵と戦うんだ。
少しでも探ってやりたい気持ちで逃げたいとは思わなかった。
「そこに朝食作ったから、5分で食べて1Fに降りてきて!」
リナさんは慌てて部屋を飛びだした。小さなテーブルの上には揚げたトーストのような物と缶詰のゆで卵が置いてある。なんだこれは・・・・・・。5分ってこれ食べれるのか?とにかく噛り付いた。しょっぱくて苦いゆで卵に酷い甘さの油まみれのトーストは最悪の味だった。
母親の味は覚えてはいないけど女性の料理ってこんなものかと思い噛み締めながら着替える。身だしなみもくそもないのに鏡をみるがいつもとは違う行動をしている自分がいた。動揺だろうかまだ気持ちに整理がつかない。部屋をすぐに出てエレベーターで1Fに降りると目の前には装甲車が待っていた。近づくと後ろの扉が開いた。
中にはリナさんは画面と話しているようだが聞こえない。しかしリナさんはこっちを見たと思ったら、早く乗って着替えてといわんばかりに目で合図する。マイクさんは慌てている様子だった。それとあの博士の様なアンドロイドは居なかった。
オペレーターのアイヴィーから青いスーツを貰う。コクピットの裏に隠れて着替えようとしたらよく見ると背中には電子機器の接続部分のようなパーツがあった。昨日は全然気づかなかったな。
装甲車のドアがゆっくりと自動で閉まっていく中、僕はぼっと装甲車の外を見つめる。おそらく逃げるのは簡単だろう。ゲームの操作だって僕が拒否したら成立しないのだから。だけどあんまり考えないことにした。僕はやるだけだ。ただそれだけだ。
「準備はいい?もう失敗は許されないわ」
ちょっと呆れてしまったと同時に笑みがこぼれてしまった。テストプレーって言葉と一致しない、その気迫、その一言だけでどこまで行くきなのだろうか、それとも『もうわかっているでしょ』という意味なのか。
「大丈夫です」
そう自分に言い聞かせてコクピットのシートに座る。自動でコクピットのドアが閉まっていくその隙間からリナさんがずっと僕を見つめていた。死にいくわけでもないのに。こんなに注目されたのは初めてかもしれない。
僕は特に目的もない夢も無いつまらないただの男子高校生。何のために生きているんだろうってこのためではない。そんな気分になってしまった。そしてまたあの真っ暗になる。足先から太ももへとゆっくりと感覚がなくなっていく。完全にフィットするシートの影響だろうか手の指先も感覚が遠くなっていく。
「-FLDを見つめてください。目的を確認後、時間を目視してください。現在の相性は15%です-」
女性型オペレーターアイヴィーの声だ。
目的はクモ型ロボット 6mの破壊。制限時間は7分、高速飛行艇からのダイブ。
装備はショルダーキャノン、これだけか。緑色で文字だけが表示された殺風景な画面。
「-視界が共有されます。現在の相性は30%です-」
目の前は空を飛んでいる。またヨーロッパの町並みだ。しかしところどころ煙や爆発の後だ。かなりリアルな映像だった。
「ダミー映像化処理の解除を要求します」
まただ。この機体の名前ローマンだろうか、綺麗で落ち着いた声が聞こえる。もしかしたら僕はこの声が聞きたかったのかもしれない。それに会話できるのだろうか。
「駄目よ作戦はこのまま続行。敵クモ型の撃破に集中して」
リナさんが冷静に答える。ダミー映像?この映像が?やはりただのゲームの映像ではないのか・・・・・・。作戦ルートの軌道上に乗ると制限時間が動き出す。
「-ローマン機投下します。目標まで2km、このまま巡航し30mまで接近してください。相性は45%です-」
いきなり作戦が始まったとりあえず指示通り巡航して接近だ。落下しながら風を切る音がさらに感覚をリアルにさせる。錯覚だろうか冷たさまで感じるようになってきた。
やけに落ち着いている自分がいた。目標であるクモ型ロボットもかなりのスピードで直進しているのが分かった。今は完全に背後を取っているがあれがあのスピードで動きまわるのか。ゲーセンでの射撃訓練ではなかったパターン。
残り3分。
「-攻撃エリアに到達するまで、10、9、8、7・・4、3、2-」
エンジンが高回転し高音が爆音へとかわる。始まる。戦闘が。
「-1。攻撃エリアに到達しました。ダイブストリームは失敗しました。相性は50%です-」
ダイブストリーム?と思ったがどうでもよくなった。クモ型がこちらを敵と検知した。高速でジグザグに動き回る。クモ型の目の辺りから赤く光ったと認識したがもう遅い。赤いレーザーが顔をかすめた。自分では回避してないのにローマンが回避してくれたのがわかった。
「もっと接近します。攻撃をしてください」
ローマンからの指示はとても冷静だった。僕が移動するという事への意識がなくなった。攻撃、射撃してくださいという感覚が手にビリビリと伝わってくる。なぜか焦りの感情までもがローマン機から流れ込んでくる。かなり混乱した。今までに誰かの感情が自分と向かってくるとは。
目の前のターゲットマークがクモ型と重なりかけて赤くなるが、ロックオンがはずれ視界がぶれまくる。クモ型ロボットが大きく目の前に写るが全体がまったく目で追えない!足、足、足、赤いレーザーのフラッシュ!またローマン機がレーザーを回避した。
「-相性60%へ到達しました。攻撃を続行してください-」
とにかく攻撃しないと!このままの空気では駄目だ!一旦ジャンプしてクモ型が小さくなるまで上昇し視界に入れた。まだターゲットマークがアンロック状態だけどショルダーキャノンを発射する。
豪快にはずれ高速で発射された青い閃光がヨーロッパ風の町並みの建物を破壊する。
だがいいんだ。これで気を取り戻した。これはゲームだかならずやれる。新しい感覚にまだ慣れてないだけだ。ローマン機からの不安のような感情が薄まった気がした。
「この距離ではあたりません。接近と離脱を繰り返します。離脱の直前に攻撃してください」
冷静で落ち着いた声。言われても理解できなかったが、ようは懐にもぐりこみ攻撃し離脱する。それだけだ。エンジン音が全開になる。
オーバーヒートゲージがMAXギリギリ。地面に衝突してしまうぐらいの低空飛行とそしてターン、完全にクモロボットの懐に潜り込んだ!ターゲットマーカーが赤に変わろうとする。危険信号のアラート音が鳴りっぱなしでも気にせずショルダーキャノンを発射した。
同時にローマンがターンをする。背中越しにクモ型を見ると青い閃光が外れているどころか背後を完全にとられてしまった・・・・・・。
爪が僕達を襲う。背のエンジンをかばうように右手でガードしようと身体を捻るもその大きな爪が胴体正面をえぐるように直撃してバランスを崩し、建物に激突してしまった。瓦礫に埋もれて真っ暗になる。
「-胴体、右足パーツ損傷あり、作戦続行できます。相性は69%です-」
憤りがローマン機から伝わってくる。
次の瞬間。突然体が動かなくなり微動だにできない。頭、そして視線が勝手に動き横の大きな鏡に目をやる。
ここはホテルだったのだろうか。その大きな鏡には自分の機体の姿が見える。
「何をしているの。攻撃エリアにもどりなさい!」
リナさんが怒鳴るがそれはもう遅い。
鏡にはロボットではなく女性型の青い機体が映る。背中には小さな翼、髪の毛なのか金色で美しく瞳は赤くゆらゆらと輝いていた。
しかしすぐに鏡に映った青い機体がただのグレーのロボット兵器へと映像が切り替わる。
「ダミー映像化処理を解除してください、このままでは失敗します。タイムラグが0.1秒あります」
もうわかった。僕はローマンという女性と一緒に戦っているんだ。
「なんだろうと、僕は勝ちたい。それに青く美しいローマンさんでいいじゃないか」
無言になってしまった。
「リナ!解除するぜ。今回はマジで勝ちにいかねえと。爺さんが居ない今、こんな状況で失敗したら、俺達はおしまいだ!」
マイクさんの声だ。しかしローマン機からの感情がシャットアウトされたような感覚に陥った。大丈夫か?相性ってこの感覚のことなのか?そしてリナさんが叫ぶ。
「敵クモ型コアを破壊して!ここは世界の最前線、旧フランス!パリを中心に崩壊へと進んでいるわ!このままではアメリカの二の舞になる!コア生命体を倒すのよ!もうわれわれ人類は引かないわ!」
「-ダミー映像化処理、解除が許可されました。解除します。相性71%です。フォースアシスト、アサルトアシストを受けることができます-」
もうなんでもいい。向こう側にいるクモ型ロボットはもうロボットではなく。赤黒く不気味に光るクモのような生き物だ。この感覚はプレッシャーじゃない、生きるんだ。僕の人生はこの戦いの成功の先にあると確信した。
「もう、迷わないでください」
落ち着いた美しい声で僕へと伝えてくる。ローマンの感情が再び流れ込んできた。初めての感覚だ。背中にエンジンが2つあると認識してさらに高回転し激しい振動、高音そして爆音へとまるで自分の身体のように伝わってきた。
「いい?雪人君、簡単に説明するわ。あの黒い体は超高密度質量のコア細胞で覆っているの、迂闊に攻撃を当てると爆発的に細胞分裂して膨み硬化する。そうすると弾丸が通らなくなるから注意して。必ずメインコアが一つ。クモ型は胴体の中央にあるからそれを破壊すれば倒せるわ」
リナさんは簡単に説明してくれたつもりだと思うけど、今は理解する暇が無かった。敵からの赤いレーザーがこちらを狙っている、だけど不思議とあたるという未来は見えない。体が自然に傾きかすりともせず避ける。右足から踏み込み体がふわっとした後、エンジン全開で急接近した。クモ型の上をとる。絶対倒してやろうとその意識だけで。
視界がぶれまくる。上空を取った途端にクモ型の全体が見えた!胴体の真ん中に身体の中で不気味に薄暗くうごめく赤いコアのような物があった!
FLD上には△(メインコア)と表示されている!ターゲットマークが△(メインコア)を捉える。完全なロックオンに切り替わった。
「ぶちぬけぇぇぇええ!」
おもいっきり叫んだ。左肩にあるショルダーキャノンの青い閃光が敵の胴体を完璧に打ち抜いた。
ショルダーキャノンの爆風と衝撃波を回避する為に後ろに飛んだが間に合わず吹き飛ばされたけど、なんとか地面へと強引に着地した。
「-目標敵コア破壊を確認しました。帰還ルートを検索中です。現在の相性は71%です-」
もう後には戻れない。僕自身がやってきた事、それはローマンとの戦いだけじゃなく、リナさんの朝食もマイクさんの行動もオペレーターの指示も初めて理解した気がした。
FLDの情報量が少しづつ減って行く。そう、ローマンの場所は旧フランスのまま。
だけど僕は日本に居るんだ。僕は何故か上を向いていた。
「-帰還ルートはそちらではありません、どうやら日本のようです、この機体、メンテナンスが必要のようですね-」
心でもみられた?確かに戦いの中で、感情が流れてきたから僕の感情も感じるのだろうか。急に恥ずかしくなった。『日本で会えるのかな』と言いたかったが、真っ暗になり、FLDだけになった。
呼吸が荒くなる。指先、腕、足先、太ももそして胸へと血液の熱さ体が重くなり、やがて痺れがくる。汗が額から流れ落ちる。日本にいたのに日本に帰って来たと感じた。孤独では無かった。
ここは僕一人しかいないコクピット。外側からの光がさしてくる。もうここから出るのか、終わったんだ・・・・・・。するとリナさんが見える。
「雪人君、これから忙しくなるからよろしくね。君はもう私達の一員なんだから。そして・・・・・・」
コクピットのドアが自動で開いている中、装甲車の中は薄暗く小さな無数の灯り。その向こうにリナさんが穏やかな顔で、そっと僕に囁いた。
「おかえりなさい」
1番暖かい言葉。ただ嬉しかった。いつか自分も言ってみたいそんな暖かさだった。
たった7分の戦闘だったが何時間にも思え、もう何も考えれなかった。