core17:大きいのはお好き?
昨日の夜、紅音に端末を外に捨てられて、こんな朝早くから探す羽目になった。
アイヴィーにファイバーフォトを借りておおよその位置を特定したけど、公園だろうか小さな森林の中だった。強い朝の日差しがあらゆる緑の葉の色を最大限に引き出していた。てか、100メートル以上飛んでいるんですけど・・・・・・。
まだ朝露で冷たい砂利道を進むと公園の中心には銅像があり、柱を背にしてブロンズの兵士が立っていた。相当昔の兵隊だろう、服に銃だけアーマーなんて物は無かった。相当昔から人は人同士で戦っていたのか。今はアンドロイド、ロボットと一緒になって、地球外生命体と戦う。戦いの無い時代に産まれたかったな・・・・・・。
像の周りを回ると端末が落ちていた。拾い上げようと屈むと目の間にはアンドロイドの足。しかし細く綺麗な形と認識したが、なぜか僕の端末を踏みつけた。
「アンタ。紅音のパイロットでしょ、結構間抜けな顔しているわね。無害そうだわ」
また強烈なのが来たと思った。顔を上げると銀色の髪はショートカットでロストチルドレンの制服。紅音よりも小柄で目つきは鋭い。しかも2人いて見分けが付かないほどにそっくりだった。
「紅音とローマンのパイロット。雪人です」
胸元には小さなバッチ。よく見るとドイツの国旗だ。ドイツといったらファウストにシュツカートが居るし、ひょっとして同じ隊かな?
「な、なにじろじろ見てんのよ!コイツ、スケベだわ!」
「いやらしいわ!はじめての体をこんなヤツに見られるなんて!」
二人とも声がそっくりな上に動きも一緒。二人で胸元を手でガードした。アギルギアの制服は長袖でキッチリとしたジャケット。胸元もしっかり閉まっているのでいやらしい目になる事は無いと思うけど。
「違うよ!バッチ見てたんだよ、それに、そんなに見るもんじゃないよ!」
「「なによそれ!?このサイズで一番大きいのに!!」」
二人同時に叫ぶ。確かに胸は大きい・・・・・・。そうじゃない、まずい、初対面の人を完全に怒らせた。言い方がまずかったと思ったがそれは時すでに遅く真っ赤になった二人の『ぐーぱんち』を思いっきり顔面に食らった。たぶん今の僕はパンダのようになっているだろう。目が開かないけど逃げなきゃやられる!
「待てー!逃がすか!」
「シュミット!瞳のレーザー照準の出力を最大限に上げて、レーザーで足に穴を開けちゃいなさい!」
な、なんか凄い恐ろしい事を言っているんですが。何とか端末を回収出来たので走って逃げる。後ろを振り返ると目が赤く強烈に光りながら追いかけてきた。目から発射された赤いレーザーが真横の木に当たり、それはもう焦げる焦げる。思わず「ひぃっぃぃ」と情けない声を発しながら全力で走った。
悲惨だ。心臓が張り裂けそうなぐらいに息苦しく昨日から走ってばっかりだった。
病院の駐車場まで何とかたどり着く。後ろを振り返って探したけど足音も聞こえず、どうやらもう追って来てないようだ。
「顔に怪我されてますが、雪人さんはどうやら女難の相があるようですね、しかもロストチルドレン専用の」
アイヴィーは一体どこから一部始終を見ていたのか・・・・・・。何処かしら視線が痛い。
「紅音エンフィールドさんとマーガレットさんはニューアメリカ艦隊に戻られてしまいましたよ、それにメッセージがあります。『私がそっちに行くまでベルリンの隔離壁にもう二度と近寄るな。それまでちゃんと練習してけってーの』『スケベ』です」
あれ?紅音の声で喋っていたのに、最後の言葉が完全にアイヴィーの声なんですけど。なんだかまた痛い視線を感じる・・・・・・。アイヴィーと装甲車に乗り込む、マイクさんは眠そうだった。
「おう、雪人。よくローマンを助けてくれた。礼を言う。体がそんなにボロボロになるまで。しかも殴られた跡のような・・・・・・。リナがドレスデンの旧ツヴィンガー宮殿のアギルギア研究所で待っている、会いに行くぞ」
「ドイツまで来られたんですね、ははは、怒られるかもしれませんね」
「そりゃあカンカンだったからな、もう色々と怒りは通り越してるだろう。たぶんハードな事をやると思うぞ。なんせあのアギルギア研究所だからな、まあここポツダムから南に200キロ、その間シュミレーターで感覚を叩き込めよな」
「了解です」
アイヴィーから赤いパイロットスーツを受け取った。広げてみるとシンプルで神経か血管か、細かい線が沢山あるデザインだ。ローマンのように武器のアイコンは無い。
「3.5世代機はシンプルで武器は以前と変わりありません。コアエンジンが大型になり、ターボシャフトエンジンも改良されてます。アフターバーナーも2段階加速が出来ます。E.B.R.Sは廃止されハイドラが使用できます」
「ハイドラってなに?気になっていたけど」
「アギルギアのジャガーノートフレームからコア粒子を放出させて、フレーム自身が推進力持ちます。アフターバーナー無しで音速に達します」
「それって、大丈夫なの?粒子を放出するって事はフレームが減っていくって事?」
「はい、理論上3回までです。フレームの質量が減り耐久性が落ちます。過剰に使用すると高速移動と旋回でフレームが崩壊し機体がバラバラになります」
「そっか、いざって時の最終手段として練習しておくね」
E.B.R.Sはいつでも使用できるから便利だったのにな・・・・・・、それに今回は何度も使えないし。紅音が使いたくないのはこの事だったのか。パイロットスーツに着替える。何故かアイヴィーは僕の着替えをずっと見ていた。なんだか恥ずかしいな。それに何かニヤニヤしている。
「な、なに?」
「これは<人とのコミュニケーションツール:BL妄想列伝>というアプリなんです。基本無料ですが、エクストラステージは課金制です」
「なんだよそれ」
「ふふふ、日本に戻った時に将吾さんと会ったんですよ」
「それ関係あるの?」
アイヴィーはさあ練習始めましょうって態度で無言のまま助手席についた。将吾は元気なのかな。それにビーエルってなんだ?コクピットに入る。もう目をつむってもシフターシートにフィット出来る。ドアが自動でしまり淡いオレンジ色の光。全てを感覚の赴くままに。




