core14:幾つもの闇を越えてⅠ
僕達は予定通りメッセダムの地下鉄入り口に到着した。人は誰も居なく殆どが廃墟と化したビル。だがここはベルリン。最新の技術が集まっていた場所とはとても思えないその変わり様は時代について行けなかった人さえも寄せ付けなかった。
隔離壁に埋もれた地下鉄入り口があり、目立つようにジャガーノートが無防備に置いてある。威圧感、圧迫感が同時に襲ってきて、ここは二度と戻ってこれない場所とご丁寧に教えてくれた。
僕は再び防護服を着る。暑苦しいけどこれを着ないと死んでしまうだろう。マイクさんから暗号通信ブースターが入っているスーツケース程の箱を貰う。旅行でも何でも無いのに・・・・・・。
中に入っている暗号通信ブースターは直径2センチ程でボールのような形をしており、小さな筒に沢山入っている。自動的にボールが落下し自走し互いの距離を調整するようになっていて、使用者は気にする事は無いという。
「危険だと感じたら全力で引き返せ、戦わなくていいからな」
「ジャガーノートは一度使った事ありますし、大丈夫ですよ」
「余裕だな、しかしどうやって操縦する気だ?さっき後部座席側を調べてたそうだが」
「簡単ですよ」
ジャガーノートは第二世代機。対コア生命体兵器として開発された。タイタンが発生するまでは主流で大量に製造されたがタイタンが登場してから状況は変わった。タイタン1体に対し10機以上でないと倒せない事からジャガーノートの需要は減り、小回りが利き高速移動が出来る人型兵器アギルギアが開発される事になった。
3メートルある機体の背後に回る。搭乗用のワイヤーを使い背後のハッチから入った。一人で戦争でもするような気持ちになってくる。中は窮屈なのを知っているので防護服を収縮させて生命維持機能以外をOFFにした。
そして生命線でもある暗号通信ブースターをハッチに貼り付けた。
「おお、マジか背後で操縦するのかよ、相当戦闘になれてきたな」
「ローマンや紅音と一緒に戦ってだんだん分かってきました。感覚が直接伝わってくるんです、その全てが自分の経験になっていく気がして来て・・・・・・」
「むちゃするなよ」
「行ってきます。必ず戻ってきますから」
「雪人さんがローマンさんを連れてくるのをお待ちしております」
アイヴィーの言葉はどこか悲しそうだった。一人だととても怖いけど皆がバックアップしてくれるから、少しの会話だけでも勇気を貰った。ジャガーノートの背面の操縦席に入り防護服を着ていてもシートベルトをきつく締める。誰も正面に乗って無くてもバックアップモードで操作が可能だ。
マニュアルどおり機体をしゃがむように小さくさせる。二足歩行は出来なくなるけど小さなキャタピラで進め、小回りと旋回性能は下がるけど射撃性能は変わらない。
ゆっくりオートで地下の階段を下りていく、所々機体が擦れるけど強引に進んだ。地下に入っていくと鉄のゲートで封鎖されているが左手の工作用のアームで破壊して進んだ。
そのまま更に下っていきホームから線路に降りていく。中はとても暗いけど赤外線スコープで遠くまで昼間のように見渡せた。障害物はなさそうで順調に行けそうだった。通常地下は排水設備が止まると水浸しになり通行は不可能。だけどここは電気が通っているのか。雨漏りはあるけど浸水してなかった。もしかしたら誰か住んでいるのだろうか・・・・・・。
「どうやら順調のようだな。そのまま予定通り30分で地上に出そうだ。しかし隔離壁なんて物をよく作ったな。重度の汚染なら渋谷も酷いが結局何もせずに放置している。ほら、雷花のパイロットの将吾はいまだに汚染されている旧新宿都市に暮らしているからな。」
「将吾もツクバにくればいいのに。僕だったらすぐ死んでしまいそうです。毎日のように酸性雨が降る町なんて」
「アイツ、オリジナルだぞ」
「え!?じゃあ余計に寿命が縮んでしまうのじゃないですか?」
「たぶん80歳まで生きられないだろう、雪人もオリジナルだろう?」
「そうですよ、もしかしてマイクさんはセカンドですか?」
「セカンドだが、昔、新宿や渋谷でだいぶ無茶したから150年は生きられないだろう」
「そうですか」
「それに、リナはサードだと思うぞ」
「サード・・・・・・。今幾つなんだろう」
「なんせ、コア生命体の研究もやってたらしい。アメリカが放棄されて、暫くの間日本でブランクマスターをやっていた。それで俺と新宿で出会ったんだ。銃を突きつけて私に着いて来なさいって。強烈だったぜ。はは、内緒だぞ」
「それって軽く100歳越えですか!?」
「そうだぞ、まあサードは250歳まで生きられるからな、外見は20代から変わらないから、一体今幾つか分からんな」
「ブランクマスターってアンドロイド規正法のやつでしたっけ?」
「そうだ違法改造されたアンドロイドを片っ端から大口径の銃をぶっ放して破壊する。それでならず者の俺が捕まったってわけさ」
「身の危険を検知しました、私の半径500メートル以内に近寄らないでください」
「足を洗ったさ!本当にアイヴィーは最近表情が豊かになったな、昔は無表情なアンドロイドにいろんなニセAI突っ込んで無理やり人工知能って言って売ってたんだ。アンドロイド戦争の第三次世界大戦は本当に悲惨だったからな。なんせ人口が1/6に減ったんだぜ、そりゃ大規制されるぜ」
「授業で少しだけ習いましたが、アンドロイド戦争は400年以上前の話ですよね。2400年ってAIロボット産業革命によって、『生体マテリアルの逆転現象』が起きた。確か、火星移住とか太陽炉とか、世界的に法律と基準が追いつかない事が一度に起きて混乱した時代だったとか」
「今じゃ信じられないが、人間の食料を燃料にして電気造った方が儲かる時代で、東京の都心じゃあ少数のアンドロイドの為に多くの人間が働いて居たからな、金持ちは高度なアンドロイドを独占、一般の人間は家畜、田舎の農家は皆、発電農家」
「凄い時代ですね」
「やりたい放題だったからな、人間が出来る事は全てアンドロイドが出来る時代。子供作るよりもアンドロイド作った方がいい。産まれてから老後まで全て世話してくれる、女よりもアンドロイドってな」
「いらしい視線をキャッチしました。過去の思い出に私を重ねて、何かを妄想している目です」
「ちょっ、ちょっとまてよ!!ちげーよ!」
「マイクさん!アイヴィーから離れてください!」
「だから!確かに見てたけど変な事は思い出してない!」
「僕達はローマン救出に専念してますので、邪魔しないでください」
「分かった。分かった」
暫く地下鉄の線路にそって進みベルリン工科大学前の地上に出れた。マップ上では目の前に大学が在る筈なのに凄い大気汚染で十数メートル先が見えない。防護服のヘルメットに映し出された表示には大気汚染レベル8。ヘルメットを取ったら5分も持たずに死ぬレベルだった。




