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core12:灰色の風を纏う者Ⅱ

 ローマンから不安と恐怖の感情が流れ込む、僕はそれを押さえ込もうとはせず優しく受け止める。少しだけどローマンが落ち着いていくのが分かった。


 飛び回る姿がうっすらだけど一瞬見えた。ライオットアーマーでは勝ち目は無い。それは僕たちだけでもだ。


気づかれないように息を潜める。熱探知からレンドルフ隊が地上に出てきたのを確認した。彼らは直ぐに散開し、地上への出口を取り囲むようにフォーメーションを取り常にすばやく行動していた。


「-こちら雪人です。上空100メートルに人型特殊コア、黒い翼を発見・・・・・・。排除します-」


「-こちらレンドルフ隊、『ローズ・ロンバルトは起きた』繰り返す『ローズ・ロンバルトは起きた』2分で地上ルートで第8地区へ撤退する。援護願う-」


 ローズ・ロンバルト?作戦名だろうか。第8地区へ撤退は作戦成功時のルートであり、避難ルートでもある。しかし人型コアが徐々に増えてきて戦闘が激化する。


 遠くからでも聞こえる銃声。だけど無闇に連射している様子は無く的確に人型コアを倒しながら少しずつ前進していく。FLD上のルートの目的地は地下鉄。今いる灰色の森を東に抜けて廃墟と化したホテルを抜ける。ラントヴェーア運河を渡り地下鉄に入る。約300メートル程だった。しかし離れれば離れるほど僕からの射程距離は遠くなる。


黒い翼を捜すが見失ってしまった・・・・・・。


いや、この感覚は・・・・・・。


 灰色の風を纏い死の刻の歯車で僕たちを連れ去ろうとする者。けして触れてはいけない風が死神の鎌のように見えた。


しまった!黒い小さな影が目の前まで接近していたのに気づかなかった。


 ノーモーションで撃ってくるレーザー、全身へと襲い掛かる恐怖を力のばねにして、ロングボウを抱えながら地面を強引に蹴り立ち上がる。


「!!!」


 2連のレーザーがこの高さ30メートルはある隔離壁を半分ほどまで削る。なんて威力なんだ。老朽化したコンクリートが弾け激しく機体を撃ちつける。


視界がブレてバランスを失いながらも高速で走る。エンジン全開だ!黒い翼が後ろから追いかけてくるのが分かった。


「雪人さん!ロングボウレーダーを後ろに向けます!意識を合わせてください!」


 左肩のロングボウレーダーが背面を向く。すると僕の視界が重なり、ヤツを目で追うことが出来た!次のレーザーがが来る!もう感覚で判断するしかない!


 今までのコアレーザーはFLD上に○(レーザーコア)と緑色で表示され、レーザーを撃つときに少し○が大きくなる。撃った瞬間は白い○になるから、一度に大量の○が表示されても一目瞭然になるから便利だ。


しかし黒い翼はそれが無い。


 赤い閃光!駄目だ!避けきれない!ローマンが一瞬傾く。ほんの少しだ。頭上をレーザーが2発かすめる。本当に凄いと思った。初めてクモ型を倒したときもそうだった。ギリギリで最小限の動きで避けようとする判断力。これはローマンが完全に冷静さを取り戻した証拠だ。


 外れたレーザーが50メートル先の隔離壁を破壊しコンクリートと粉塵を巻き上げ目視でのルートが分からない。今は立体地図を表示する暇は無い。そして隔離壁の外にも下りることは出来ない。やるしかない!


「雪人さん、もう私は大丈夫ですから、やりましょう」


「超大型だって倒したんだ!やれる!」


 後ろから飛び続けながら不気味に揺らぐ黒い翼を常に視界に入れる。そして破壊された隔離壁のところまで来た。あと5メートル。ローマンがロングボウを構え粉塵の中にジャンプして突っ込んだ!そのまま前方へ回転し逆さまになりながら黒い翼をロックオンする。この一瞬で僕はトリガーを引く。


 一発撃ち込んだ銃身の根元から衝撃波が発生し粉塵を蹴散らす。青いレーザーのように一直線となった弾丸は黒い翼の肩をかすめたが倒すまでには至らずレンドルフ隊側へと吹っ飛んでいくのが分かった。


 アンカーを隔離壁に突き刺しやつのレーザーによって破壊された出来た隙間に隠れた。この隙間はちょうど1メートルほどの穴になっておりヤツが落ちた方を覗くことが出来た。


 直ぐにファーサイトを起動して隔離壁を透かしての壁の向こう側の黒い翼を探す。左肩からの高周波が響き焦りを煽る。


 レンドルフ隊は廃墟と化したホテルをすでに突破しあと100メートル。ラントヴェーア運河を渡ればもう地下鉄は直ぐだ。


どこだ、どこだ。次は絶対にはずさない!


すると、灰色の風の中に赤い一本の線が高速で目で追いきれないほどに暴れる。


だけど更なる恐怖が僕たちを襲った。やつはレンドルフ隊の目掛けて高速移動する。


「そんな・・・・・・。一瞬で全滅してしまう・・・・・・」


 ローマンがファーサイトを止める。そう次の一発で破壊する為に。右手を天に向けバレルバーストを2回撃った。


ドン!ドン!と隔離壁では十分すぎる程に爆音と明るい閃光。


僕達はここにいる!来い!


 隔離壁の側面から目の前の1メートルの穴を覗き込む。左手のアンカーを外し壁の外側で両足で踏ん張った体勢になった。エンジンを微調整し姿勢を保つ。


ローマンは身体を壁に押さえつける為にエンジンコントロールに集中する。1ミリずれれば、100メートル先は10センチずれる・・・・・・。


 僕はロングボウを両手で構え左手は銃身を強く握り締める。右肩へ銃を押さえつけるようにした。


 僕たちに気づいたヤツが近づいてくる。この距離を詰めてくるのは一瞬だ。視界からヤツが消た・・・・・・。


あと5秒程で接近するだろう。100メートルぐらいで僕たちを目視しレーザーを撃ってくる筈だ。


あと4秒・・・・・・。


 ファーサイトを起動する。FLD上に映し出された緑の画面には右側から高速移動してくるのが見えた。ロングボウレーダーの冷却装置が悲鳴を上げて止まってしまった。ファーサイトが停止してしまう。


でも方向さえわかればいい。


目の前に来たら引き金を引くだけだ。やつが開けたこの穴は地獄へとつき返す為の穴。


あと2秒・・・・・・。


「この一撃で必ず倒す!」


「もちろんです!」


だんだんと二つの光の螺旋が見えてきた。この感覚だ!今求めているのは!


あと1秒・・・・・・。


 灰色の風に変化が見える!背中のエンジンが反応する。幾度と無くロストチルドレンとパイロット達が世界を守ってきた翼。そうスパイラルシフト。


「「撃ちぬけ!希望の翼!」」


背中のエンジンが強烈に反応し僕達は完全に静止した。それは時さえも止めるほどに正確に超スローモーションでわずか1メートルの穴の中で100メートル先の1cm程にしか見えない赤い光りの点が現れる。


完璧に捉えた。望遠に切り替える必要も無く。


トリガーを引く。


 こちらの稲妻の如く撃ち出された小さな弾丸は小さな点を木っ端微塵に破壊する。しかし同時に打ち出されていた赤いレーザーが青い閃光とすれ違い恐怖を感じる暇も無くここまで到達する。


 ロングボウを破壊しながら支えていた左手をえぐった後、右手を完全に打ち抜き僕たちを地獄へと突き落とした。


「しまった!ローマン!」


 僕がギリギリまで粘ったせいだ。スパイラルシフトが停止し視界が天を向くエンジンはクールダウンに入り壁の上に戻れるほどに力は無く、左手はアンカーごと破壊されしまったからもう戻るすべは無い。


 無常にも少しずつ通信が途切れる。灰色の風に包まれ酷い電子汚染の世界へと落ちていく。


「雪人さん!!」


ブツ・・・・・・。


 心臓が張り裂けそうなぐらいに大きな深呼吸を何度もした。両手、両足から感覚が戻り、目の前は真っ暗だった。全身から冷や汗が噴出す。視界がまだ完全に戻らない。


「雪人!そこで待機していろ!救助ポッドは呼べない」


「-こちらレンドルフ隊、状況を把握した!ジャガーノートを貸す。電子汚染の中でも動けるが大気汚染は防げん!-」


「-それだけで十分です、有難うございます!-」


 僕はコクピットから飛び出す、まだ感覚が完全に戻ってないけど、ふらふらになりながら装甲車内の防護服の柱のところまで来た。


「雪人、ここからローマンを回収するには装甲車で25分で北上しメッセダムの地下鉄から入る。そこから徒歩で40分でベルリン工科大学に入り地上ルートで行く。恐らくローマンはナノウィルスに侵されている可能性がある。アギルギアは耐性があるが抗体プログラムが古い」


「つまり何をすればいいんですか!?」


「そう焦るな。プログラムをアップデートしてナノマシンウィルスを焼ききった後、エンジン全開で隔離壁の上まで脱出だ」


「グリッツ隊長から連絡がありました。ジャガーノートをメッセダム地下鉄前に待機させるが隊員は手配出来ないとの事です。」


アイヴィーがロケットを握りながら、不安そうな目で僕を見つめていた。


「ありがたい。ジャガーノートを一人乗りに変形させれば攻撃範囲と機動性が落ちるが、地下鉄内を移動可能な状態に出来る」


「一人乗りですか・・・・・・」


「ここは俺が行きたい所だが装甲車内で対抗プログラムを生成する。地下鉄内で暗号通信ブースターを撒きながらジャガーノートで地上に出ろ。周辺のナノマシンウィルスのデータを集めて抗体プログラムを完成させる。それとアイヴィーは行けないからな」


「雪人さんすみません・・・・・・。私は電子汚染に耐性が無く防護服も着れないので足手まといになります。ですが直ぐに行ける様に準備してますから」


「マイクさんもアイヴィーも有難う、今度は僕がローマンを助ける番だから、皆に助けてもらってばっかりだから」


「そう力むな」


 僕はパイロットスーツのまま防護服が入っている柱の前で待機した。端末の充電をしながらx-ウィンドウ社のページからジャガーノートのマニュアルを読む。そうだ紅音はどうしているのだろうか。射撃なら得意だけど操作までとなると少し不安だ。装甲車の振動よりも僕の鼓動の方が早く感じる。だけどそれを認識すると意外にも簡単に落ち着けた。

必ず助けるんだ!



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