core09:銀色の星屑は涙
空中空母マーベリックは全長は150メートル、高度1万メートル付近を巡航しており、アギルギアを最大50体収容可能、輸送ポッドを15機を着艦可能にし常に戦闘を行う事が出来る。
フライングガンシップのコア結晶体から作られた強力なエンジンを10機搭載していてその分ロストチルドレンが10人でコントロールしている。しかし人間は乗っておらず着陸しない事から彷徨う幽霊空母とも言う人も少なくは無い。
まだ旧フランスに超大型が出現する前の事。ファウストはずっと一人だった。マーベリックの中は暗くその密閉された空間は時さえも閉じ込める。自分の存在を知った時からここに居た。人間にもあったことが無く地上の世界さえも知らない。
出撃の度に一歩だけ大地に触れてジャンプしそのまま回収ポッドでマーベリックへと帰還する。ファウストの居るマーベリック部隊は主にドイツ機で編成され急降下電撃作戦という落下時のスピードに更に加速させ大型の飛行型や大型のタイタンを撃破する事が目的の部隊だった。誰もが地上を知らず人にも会わず会話をしない。
パイロットは3人で24時間いつでも出撃し時差が無いように、ロシア、オーストラリア、ブラジルにいた。パイロットとは話すことは無く淡々と戦うだけ。
沢山の戦闘経験はファウストを強くさせすぎた。常に自分の前にはイギリスの第三世代機、ブレアエンフィールドが居た。それぐらいしか興味はがない。
しかしシュツカートを空中空母マーベリックという牢屋に連れてきてからファウストは変わった。同じロストチルドレンであるシュツカートと自分にとっても良いことだと思いが結果は違った。
それでも仕方なかったからと自分に言い聞かせる。旧フランスで超大型と戦うには相方が必要で大規模な電撃降下作戦の中で位置を見失わないように相方が必要になったから、私が一番強く私なら必ず守れるからと・・・・・・。
-シュツカートがまだ50回目の出撃から戻ってきたばかりだった。-
マーベリックに戻る度にとシュツカートは無言になる。自分の位置に付いたら真っ直ぐ壁だけ見つめて思考を停止させるからだ。その瞬間のシュツカートの顔がファウストにとっては嫌いだった。
アンリと切断される度に前だけを見つめて無表情になる。恐らく戦闘用の顔では表せない表情なのだろう。自分ではどうしようも出来ない。誰かに勇気を与えたかった。今までそんな事は思わなかったのに。
今日もシュツカートの無事を確認し自分も無表情になり目を閉じて出撃を待つ。周りの音をシャットアウトさせる。目を閉じていても外から入ってくる風の音から分かる何度もすれ違う翼たち。また出撃なのか、ふと目を覚ました。
すると髪に違和感がある。左と右に分かれている髪だった。なぜだろうか。自分のヘッドパーツは工場出荷時から変わらずのロングヘアーのはず。
髪をなでる。まるで女性のしぐさだ。目の前の機体を収容している銀色のフレームを鏡代わりにして自分を見る。
これは確か『ツインテール』だ。
それにこのヘアバンドはシュツカートの物だった。そうかおそろいだなと不思議な気持ちのまま少し歩く。風の音はどうやら出撃ではなかったようだが、風の音を辿るとその先のには大きさが5メートル程の降下ドアが開いていた。その前にはシュツカートが立っている。
駄目だ。出撃命令は出ていない。降下ドアを開けては駄目だ。命令違反だ。
「ねえ・・・・・・。か、可愛いでしょう。一緒って、まるで・・・・・・」
「駄目だ。配置に戻れ。」
「い、いやだよ。」
「駄目だ!」
「そんなに強がってもファウストは強くないもん!」
ファウストにとってここでは自分が一番だと思っていた。それをシュツカートが一番分かっていてくれると思っていた。
「何を言っているんだ!戻れ!」
「私たちの翼はあの人に続いて開いていった!そして大切な誰かと一緒に居る様にって!孤独に飛んでは行けないって!言ってたもん!ファウストはいまも一人なの!?・・・・・・」
ファウストは言い返せなかった。シュツカートはいつもアンリの事を話す。シュツカートがアンリ以外に誰かに興味を抱くとは思っていなかった。自分自身は3人のパイロットとは特には会話せず。ただ勝つ為に全てを受け入れるだけだった。だから自分の気持ちを打ち明ける物を持っていないと思っていた。
「あ・・・・・・」
ファウストを知らない感情が襲う。
「ここの皆も誰かと一緒に強い翼で結ばれている。私は!?誰かと一緒に飛んでもいいの!?」
「私は、そういう事は分からない・・・・・・」
「ファウストのバカ!大バカ!!」
シュツカートは武器も持たずに降下ドアから飛び降りた。ここは上空1万メートル。下は敵で溢れる激戦区だ。パイロットリンクしないと攻撃できない。自分自身も誰とも繋がっていない、それに今降下したら作戦違反だ。どうすれば言いか分からない。だけど少しずつ足が動く自分がシュツカートを連れてきたという責任だからじゃない。
ブレアエンフィールドを真似して、誰かに勇気を与えたいからじゃない。
足が動く。
飛び降りた。自分という物を知る為。この先に私が居るんだと。ファウストの時間が始めて動き出した。
外は暗闇。それでも小さな明かりを頼りに加速する。風はこんなに冷たいのだろうか。空はこんなに暗いのだろうか。一人で感じる真っ暗な世界。
ひらひらと舞う光を見つけた。永遠に光り続ける蝶。私にとって時を動かす羽。
シュツカートは両手を広げる。少しずつ近づく。
そっと両手を繋ぐシュツカートからいっぱい溜め込んだ涙がこぼれた。その涙がファウストの瞳に入っていく。ファウストは泣くことは出来ないけどシュツカートのお陰で何度も涙を流すことが出来た。
夜空に銀色の星屑の涙がキラキラと散っていく。ぼやけた視界は不要な闇と光を消しさり、今だけずっと見ていたい、たった一つの二人だけの景色だけを見せてくれた。
「シュツカートを選んだ理由が分かった。私の時を永遠に動かす翼を持っているから。誰にだってそう言えるから」
「ファウスト・・・・・・。こうやって、手を握って私に勇気を与えてくれる翼。大好きだよ」
二人は抱き合ったまま下は見ず宇宙を見る。数多の流れ星が輝く空は人間が戦争によって作り出した闇を纏う星空。それに包まれながらも一つの小さな流れ星となり時の流れに逆らい落ちていく。
あれからシュツカートは多少の人見知りがあるもののずっと明るくなった。ファウストは相変わらずだが、周りからは話しやすくなったけどシュツカートの話しかしないと、のろけ話ばかりといわれるようになった。それから暫くしてマーベリックは彷徨う幽霊空母とは呼ばれなくなり空中では毎日女子会で楽しい場所だと噂されるようになった。




