core08:刻を止める鳥Ⅲ
「-避けられた!完全に!どうしようファウスト!-」
「-あの、剣先に惑わされるな!-」
そうだ、と思い出し僕は端末越しに叫ぶ。
「剣からのレーザーの射角は45度程度だ!1秒に2連射できる。それにディレイタイムは1秒も無いよ」
「-それだけ分かれば十分だ、少年-」
ガタガタと揺れていたジャガーノートのエンジンが止まる。到着したんだ・・・・・・。え、これどうやって出るんだ。そう考えていると上から光りが差し込む。硬い手が頭に当たり強引にHMDを剥がされる。続いてシートベルトが外れた瞬間に両脇を持たれて上に引きずり出された。
「遅いんだってーの!」
紅音にお姫様抱っこされて3mの高さから地面に降りた。目の前にはいつもの装甲車。背後の扉が開く。マイクさんが中で待っていてくれ、無言で赤いパイロットスーツを投げつけれられた。
「これから手動で紅音をアンドロイドボディーからアギルギアに換装させる。雪人は着替えてコクピットでスタンバイだ。3分で終わらせてやる」
紅音が先に装甲車の中に乗る。すると中には・・・・・・。
真紅の機体が座り込んでいた。ヘッドパーツは無く。胸元が開いていて、あそこに紅音の脳が入るのか。
「見るんじゃないってつーの!早く着替えて中に入れってーの!見たらぶっ殺す!」
僕は真紅の機体を避けて装甲車の奥に入った。振り返ると紅音は後頭部に手をやり首の辺りから外れる。頭が真っ二つに開いていった。マイクさんは見慣れない手袋を付け始める。紅音に睨まれたのでコクピットの影に隠れて着替える事にした。
「アギルギアへの換装なんてやった事無いが、失敗するとマジで感電死するらしいからな、まあ。任せておけ」
「失敗!?早くしろっつーの!」
怒りの叫び声がコクピット越しに聞こえる。僕は4日ぶりにコクピットに入るんだ。いつもどおりの心地よい感触でシフターシートは恐怖から守ってくれるけど、命を守るのは自分自身だ。
ドアの隙間からアイヴィーが見えた。運転席に座っており僕がプレゼントしたロケットを握っている。そうだこの景色だ。いつも通りだと認識すると自然と心は落ち着いていた。
目を閉じる。完全に真っ暗だった。体の感覚を全て任せる。
すると両頬に誰の手だろうか次に唇に温かい物を感じた。これは?なんて心地よいんだ。全身の感覚が無くなっていく。
「-目標:特殊人型コア 1.8m メインコア不明。使用武器はスマートパルスライフル4発、アンチマテリアルナイフ、c1911ハンドガン、現在の相性は85%です-」
オレンジ色のFLDにはいつもの表示だ。だけどE.B.R.Sがないぞ。その代わり『ハイドラ』というものがあった。
「-相性85%です。視界が共有されます-」
紅音がすでに住宅街に突入していた。新しい感覚で体が軽い!
「紅音!?ハイドラって知っている?」
「そんなことは今はいい!E.B.R.Sは無いから戦い方を少し変えるわよ!ハイドラは使わない!分かった!?」
「え!?確かに体が軽いから結構動けそうだ!エンジンも凄い!」
「アンタ、前の機体は80年前の試作機よ!ただ同然でリナが持ち帰った骨董品!この機体はお姉様のと同じ物なんだから!いちばん強いんだから!ガンガンぶっ飛ばしていくわよ!」
「え!?えええええ!?」
視界が一瞬にして線になった。アフターバーナーを点火する。使用時間のゲージが長い。しかしなんて加速なんだ。
「-遅いよー!こっちは結構厳しいんだから!胴体中心にメインコアがあるよ-」
シュツカートからデータを貰う。右手の剣には○(レーザーコア)、左手に□(シールドコア)、胴体に△(メインコア)が表示されている。
「-目標は常に飛び続けられる。私たちの着地を狙って正確になって来ている。素直に着地するとやられるぞ。しかし癖が見えた。次で決めるからあわせて欲しい-」
「あわせてあげるけど。ふん、足を引っ張るじゃないってーの!」
紅音がファウストの要求をのんだ。相当切羽詰っているのが分かるからだ。緊張が走る。敵は飛び続けてこちらの様子を伺っていた。恐らく3人で同時に仕掛けるのは1秒程度だろう。
シュツカートとファウストで敵を挟む様に建物の上をジャンプしながら旋回する。ぼく達は地面を高速で走りながら常に目標から20mの近距離をキープした。
ノーモーションで襲ってくる2連射のレーザーをかわし続ける。地面に着弾し背中を衝撃波と瓦礫の破片が襲い続ける。回避限界のタイムリミットが迫ってきた。
やつは常に僕たちに釘付けになった!上空を見ずに2人のレーダーの情報を元に正確に地図からルートを割り出し更に加速させる。エンジンから爆音がなる!
紅音の緊張がMAXになった。仕掛けるタイミングだ。指先に電気信号がビリビリと伝わってくる・・・・・・。
今だ!上空を向き黒い翼を視界に入れる。ジャンプしてアンチマテリアルナイフを高速で投げつけた!
5メートルほど上昇した所で動きを読まれないように身体を捻らせてアフターバーナーを使用して急降下する。すさまじい衝撃と共に着地した瞬間体を慣性で滑らせながら、スマートパルスライフルを全弾連射した!
目標目掛けて青い稲妻を纏った4発の弾丸がナイフを追い越す。今までの敵なら避けられない程に正確だった。
そして完璧だと感じさせる二人の戦闘センス。合図する必要は無い。完全な挟み撃ちの状態になりシュツカートとファウストが加速する!
「-もう逃がさないんだから!アンリ!一緒に言って!-」
「-分かっているよ!シュツカート!!-」
アンリが反応する!
「「-解き放て!永遠の翼!!-」」
「-流石だ少年、そして紅音!君達をたたえる!時を動かせ!勇気の翼!-」
恐らくナイフ、4発の弾丸と二人のスパイラルシフトでも捕らえられないだろうと直感した紅音は、一瞬で冷静になり急停止した。勝利までの攻撃ルート、雷のような一本道を組み立てた。僕の全身の隅々まで伝わってくる。
そして爆発させる!
「うぉおおおおお!絶対!ぶったたく!」
再度ジャンプしてアフターバーナーで加速した!ありがたい事に敵はレーザーをファウストに向けた!ファウストに当たるはずはない。そんなもの!
黒い翼を中心に2人つのクリムゾンレッドの翼が超高速ですれ違う!お互いの攻撃は当たらず、シュツカートが僕たちが投げたナイフを掴み敵に投げつけた!剣に当たりはじかれ回転する。
一瞬怯んだ!そして僕たちの目線は黒い翼と同じになる場所まで上昇した。メインコアに手が届くほどに。
不気味に赤く光るメインコアと目が合う。紅音が足を伸ばして身体を高速回転させる!
「何回!何回!避けてんだってーの!いい加減!くたばれええええええええ!」
レーザーを避けながら体を回転させアンチマテリアルナイフを蹴りつける。視界は0だけどメインコアへと突き刺さる感触があった。そのまま回転しながらぼく達は上昇していった。眼下には散っていく黒い翼。
「なんてやつなのよ!アレ!ふざけんなっつーの!」
「-紅音ちゃん、ユッキー有難う・・・・・・-」
「-私たちのスパイラルシフトを2度も避けるとは・・・・・・。礼を言うぞ少年、そして、紅音-」
「ふん!」
紅音も僕も感じた。いや皆だろう。3人同時攻撃はアギルギアでは限界に近かった。他の機体達では対処できないだろうと。
「-目標コア撃破しました。装甲車へ帰還してください。現在の相性は89%です-」
上空はすでに他の輸送ポッドが来ていた。シュツカートとファウストを迎えも着ている。ぼく達は逃げるように装甲車まで最短距離で移動することにした。
この敵との遭遇がこのドイツでの僕たちの運命を分けることになるとは思いもしなかった。




