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core04:永遠のダリアⅠ

 シュツカートのパイロットはアンリ、フランス人だ。

旧フランスに大量の人型、クモ型コアが出現し始めて直ぐに次の超大型出現の候補となった。国を挙げての全国民の大移動が始まる。我とぞさきに逃げ惑う人。なんとしてでも祖国を守ろうと立ち向かおうとする者、淡々と世界の終わりを待つ者。


 ネット情報は規制され、噂が大気汚染まみれの視界を更に濁らせていく。それは死を直面する時に訪れる恐怖よりも強く精神を蝕む。


 その中で唯一正確な国からの情報は僅か20センチ四方の封筒。メッセージカードと往復の切符が入っている。ただそれだけだった。


 その時アンリは15歳、家族とは離れて小さなアパートで暮らしていた。アンリの朝は早く外の空気を吸うため、いつもどおりポストを見ると見慣れない封筒。その中にはオーストラリア行きの切符。まだ幼すぎる小さな手が震える。


 そう、家族でも行き先は別々になる。変更手続きをすれば家族と同じ国への切符を貰えるらしいが、一体いつ届くか保障は無かった。最近、近くで戦闘があったようだったので直ぐに非難しなければならない。


 両親には電話でオーストラリア行きと伝え、電話越しに聞こえる母の鳴き声。抑えても自分も押さえきれなった。学校に行く気分では無くなり、父から貰った木製のイスに座る。木は体温に反応しアンリを優しく包み込んだ。パリからセーヌ川沿いを下り散歩した事。最後まで歩き強くなったなと褒めてくれた事を思い出させてくれた。


 そして壁に飾った蝶を見る。自分で昆虫採集し標本にしたコレクションだった。でもこれは持っていけないだろうと諦めようとしても視界に入る。


 僕も同じケースに入った蝶だ。小さなピンで押さえつけれられて、飛ぶことは出来ないんだ。


 アンリは一つ一つ蝶をケースから取り出し、紙で出来たボロボロのお菓子の箱に入れていく。後で埋めようと・・・・・・。何かの期待だろうか自然ともう一度手紙を見直す。シャトーに一度集まる事になっているようだ。それにタクシーチケットも入っている。しかも明日までにだ。


 アンリのいる場所、パリからシャトーまでは車で一時間程だ。今は交通規制酷く車は価値が無い。周りの国では検問が行われていて許可があるタクシーで無いと国外に避難は出来ない。


 ここに長く居れば苦しくなるだろう。必要なのは着替えだけでお菓子の箱につめた蝶を持ち、普段行かないパリの中心へと向かう。沢山の人、流れ行く別れ。家族が離れ離れになる人だろうかいつまでも抱き合っていた。子供であろうと独りでさまよっている。


 小さな体のアンリでは人混みを突き進むことは難しく、大きな鞄にぶつかりながらもタクシー乗り場を目指す。それは行列だった。


 途中で蝶の入ったお菓子の箱を落としてしまい、大気汚染によって視界を霞ませる強風が蝶をさらって行く。死んだまま羽ばたく蝶。ただそれを追いかける事は無く、同じ死者達の行進の中で鞄を抱きかかえしゃがみこむ。何も考える必要は無い。人々の声がサイレンの様に遠ざかっていく。


 ただひたすら自分の番を待っていた。3時間程でタクシーがアンリを乗せる。シャトー行きのチケットを渡すと運転手はびっくりした様子だった。


「昨日も1人子供を乗せたんだよ、君もか・・・・・・」


 アンリは何を言っているのか理解できなかった。車のガラスの向こうに過ぎていく人達、徒歩やリアカー、自転車に荷物を紐で縛り移動する人。段々と時間が経つにつれて減っていく。


 そう、こっちには空港は無い。「頑張れよ」と、タクシーの運転手から飴を貰う。目の前には大きな壁に囲まれて様々な機械が置いてある施設だった。


 アンリは機械が嫌いだ。両親があとは端末が生活を支えてくれるといい残し居なくなったからだ。学校と生活の為にと、世界共通で国民に配布されるが学校に行く時にしか使わない。クラスメイトからもアンリはいつも連絡が取れないと言われ仲間はずれにされる。だから友達は居ない。その小さな機械は非常に冷たく、その温度では何も支えてくれなかった。


 嫌いな金属の奥から科学者のような白い服を着た男性が出迎える。言われるがままに、手紙を渡し大きな建物の中に案内されると、沢山の子供達が2メートルはあるかという黒い箱の中に入っていく。異様な光景だった。


皆、家族と引き離されたんだろうか、命ある瞳ではなかった。


 今度は大人の女性から全身を包むような黒いスーツを受け取った。回りを見ると男女構わず同い年ぐらいの子供が大勢の前で着替えている。逆らう事はなくアンリも着替える、小さな体では抵抗しても無駄だと分かっているからだ。


 着替えが終わると順番に、大きな黒い箱に入る。中は真っ暗だが分かりやすいように必要な箇所だけが順番に光る。アナウンスに従い不気味なシートに身体を預けた。


 しかし意外にもそれは、全身を包むようにフィットするシート。目の前が真っ暗になり、体温や音、匂いが分からなくなり、段々と身体の感覚が遠くなっていく。


「-FLD(フロントラインディスプレイ)中央の目標を注視してください。現在の相性は5%です-」


目標:高速移動訓練、及び高高度からのダイブストリーム


 アンリは不機嫌でしょうがなかった。皆の前で着替えていきなりゲームをやるんて、どうかしていると思った。だから機械は嫌いなんだ。さっきの女性も目が青に光っていたしロボットだろう。


しかし目の前には練習と表示されたグレーのボックスが一瞬で消えて、視界全体にノイズが走る。何かが始まる。


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