core03:片色の窓の下で
ドイツに到着し離れのアパートの一室。僕はベット寝ていた、しかし身体にモゾモゾと硬い何かが当たる。これはアンドロイドの手だろうか。怖くて目が開けられない。
何故か両手を上げさせられて半そでパーカーを脱がされる。これは着替えだろうか。
アイヴィーはこっちには居ないし。
「よし」
この声は紅音だった。僕はぼんやりと目を覚まし声の方向を見る。目の前には機械の足。胴体と足はジョイントで繋がっており人間的な曲線は無く流線的だった。
さっきまで僕が着ていた半袖パーカーに紅音が袖を通すと金色のツーサイドアップが重なった。頬はうっすらと赤いけどヘッドパーツはフランスの時とは変わってなかった。だけど非常に目つきが悪かった。
「なにじろじろ見てんだってーの、それにヘッドパーツはフランスの時と同じとか思ったでしょ」
バチン。
僕の頭がヘッドパーツになるんじゃないかってぐらいに強烈な一撃だった。
紅音は半袖パーカーの裾を股のジョイントを隠すように下げる。再び目が合うと「ふん」と言いながらキッチンに向かった。テーブルの上には買い物袋。無言で朝食を作り始めた。
理不尽な攻撃で歪んだ視界にはレタスとペースト状の何かに例の肉の缶詰。
ペースト状の何かをおたまですくってフライパンで焼き始める。だんだん甘い香り。これはクレープ?いや分厚いからホットケーキだ!思わず僕は立ち上がってしまった。
紅音はそれに反応したのか、鼻歌を歌い始めて缶詰から例の肉を取り出しホットケーキの隣で焼き始める。甘い香りと肉の香りのコラボレーションが始まった。
綺麗な色に焼き上がる。ホットケーキの上にレタスを一枚を敷き例の肉を乗せて半分に折り皿に盛り付ける。一体これは・・・・・・?
「ほら、ニューアメリカよ」
テーブルにはニューアメリカと名づけられたホットケーキサンドのような物とホットコーヒーだった。紅音は僕の目の前に座りテーブルの上にひじ乗せてものすごく近くで僕をにらみつけた。尖った肘のフレームがガリガリとテーブルを削る。
すぐに僕は予備の半袖パーカーを着てイスに座り「頂きまーす!」叫んでかじりついた。
「美味しい!」
「当たり前でしょ、誰が作ったと思ってんだっつーの」
フカフカ温かく上品な甘さにレタスの冷たさが味を調えそして力を付けさせるかのように美味しいお肉が僕を元気にさせた。あっという間に完食しコーヒーを飲む。もう一個食べたいな。すると紅音の唇が動く。
「で?」
「で?」
思わずそのまま返してしまった。
「それで、何十キロ動けるんだってーの!?まさか約束忘れたんじゃないでしょうね?」
あ・・・・・・。(町中引きずりまわしてボロボロになるまで遊んでやるんだから)紅音は席を立ち僕のフードを掴んで軽く持ち上げる。
引きずられながらも僕は右手でテーブルの上の端末を回収左手で床に落ちた財布を回収した。
マイクさんとアイヴィーは装甲車に乗って、別の場所に用があるとの事で居なかった。紅音は何処に僕を連れて行くつもりなのだろうか。
僕たち居るアパートはニュルンベルクにあり、紅音の指定先はローテンブルグの資料館との事だった。タクシーで1時間程で着く。
ドイツはアンドロイドには多少寛容のようで、僕のパーカーを着たままでも法律には触れないようだった。金色の髪に着いて行く。
少し歩いてお城のような場所に着くとそこには痛々しい道具ばかり。
「ほら、コレに頭を入れるのよ」
立掛けられた木製の板には3つ穴があり頭が入るサイズの大きい穴、その両隣にも手が入るような穴。何故かあたりまえかの様に僕は頭と手を入れさせられる。ガチャンとロックされ完全に固定された。
「あははは!」
バチンバチンと頭を叩かれる。紅音のパーカーのポケットから落ちたパンフレットには、中世犯罪博物館と記載されいた。そうこれは拷問器具だった。
これから僕は拷問をされるのかと思うとゾッとした。案内板には次の拷問器具が書いてある。真に僕にとっては余計な順路の案内だった。トゲトゲのイスや回転台、三角木馬を僕だけが体験した。
すると、最後に『アイアン・メイデン』と書かれた、鉄製の棺のような人形があった。この中に人を入れてトゲトゲで拷問するようだが、流石にコレは体験しなくてもいいよね。と紅音を見た。
「ふん、なにこれ。1500年前から人間はこんなことやってたの?今と何も変わらないじゃない。ふざけんなっつーの」
紅音は急に不機嫌になり、僕達は拷問館を後にした。
「次は、ポツダムに向かうわよ、私の機体を貰うから。マイク達はすでに着いていると思うけど。それにちゃんとしたのも貰うんだから!見てなさいってーの!」
ちゃんとしたのを?そっか、アンドロイドの体か。今でも十分可愛いと思うけど腕を組んだりした時フレームが痛かったし、そういえばウィーンウィーンモーター音が鳴っていたな。
「いま、余計な事を思い出したでしょ」
紅音はそういって、肘のフレームの角で僕をガリガリと削った。紅音の手をとりタクシーに乗せる。アンドロイドの運転手から「お揃いの服で、ラブラブですね」とありきたりの台詞を僕達は流した。
後部座席の二人の間には隙間があった。お互いが背を向け窓の外を見ていると、窓ガラス越しに目があう。窓の外にはどんなに距離があってもずっと繋がっている空があるから。




