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core29:真紅の鼓動

>読みやすくしました。

「-はぁあ!?そのままでいいってーの!アンタはそのまま横たわって私の邪魔しないように可愛いローマンちゃんと雷花ちゃんと、あのくそムカつく双子の無事でも祈ってろっつーの!-」


 紅音は優しい。大げさに見えてしまうような言葉だが誰よりも翼の芯から力強く、胸の奥に大きな光を隠している。お陰で僕は冷静さを取り戻した。


 紅音の言うとおり全てを任せる。ローマンのパイロットスーツだけど次第になじんできた。左肩にあるショルダーキャノン、左手のアンカー、右手のバレルバースト、いずれも紅音にはない装備だけど紅音は必死に理解してくれようとした。


 いつの間にか僕は目を閉じていて薄っすらだけど眩いゆらゆらとどこまでも昇る赤い命の光が見えてきた。


「-雪人君、今はアイヴィーがちょっと反抗期だからオペレーター補助は無しよ。代わりに教えてあげるわ、音速のブラックバード2から紅音を投下するからストライクユニットで敵上空を通過して囮になって少しでも時間稼ぎするのよ。そのまま帰還ルートに行って頂戴-」


大役じゃないか、皆の囮になるのか。だけど紅音は納得しないだろうな。


「-ふざけんなっつーの!旅行にここに着たんじゃないってーの!もうあったま来た!-」


 ズキンと激しい頭痛がする。頭蓋骨の内側から直接脳みそを締め付けられているようだ。紅音落ち着いて・・・・・・。


「-紅音投下するわよ!ニューアメリカ艦隊の大統領からの命令だからちゃんと言うことを聞くのよ!いい!?-」


 ガタンと目の前の扉が開き勢いよく投げ出された。背中のストライクユニットを全開にする。練習どおりの綺麗なフォームだ。大気が機体に激しくぶつかり爆音さえも聞こえない。すでに視界が針の穴ほどしかなく。切り裂いた空気の層が衝撃波となり、ジャミングワイヤーが機体に当たることなく散って行った。


 また紅音と二人だけの世界になった。するとストライクユニットのエンジンの細部までのイメージが頭の中に流れ込んできた。頭痛がまた蘇る。


「-絶対、絶対、絶対、ぶったたく・・・・・・。ばらばらにしてやるんだから-」


紅音はブツブツ凶悪な言葉を並べてそれだけで相手を倒しそうな勢いだった。


「-超大型が動き出したわ、中心から新型巨大タイタン出現!動けない味方の破壊を阻止して、無茶はしないのよ!!-」


 FLDには60体ぐらいの飛行型がその新型巨大タイタンを守るように旋回していた。目標は手が6本、サイズは80mぐらいだ。たった一人で戦う事になる。


 その黒く不気味な大きすぎるビルのような巨人は瓦礫の町を支配しても尚、破壊の限りを尽くし動けない者を容赦なく蹂躙する。恐怖の塊そのものだった。もう戦闘が始まる。飛行型が一斉にこっちを向いて星の数ほどの赤い閃光が視界を埋め尽くした。


「-一対一ならやれる!アンタが私の翼を支えてくれるなら!雪人!ちゃんとアタシの名前を叫んでよ!うぉおおおおおおおおおおぁあああああああああああ!-」


 ストライクユニットが新型巨大タイタンめがけて射出された!しかし視界がストライクユニットと重なる。これは紅音が動かしているのか!敵のど真ん中にストライクユニットが突っ込んで行きレーザーをかわしている。そして上空へと大量の飛行型を誘い込んだ!


 すぐに視界が紅音に戻る。目の前には新型の巨大タイタン、その背後には最終目標である超大型。アフターバーナーを全開にさせて突っ込む。紅音は僕が支えるんだ。任されているからじゃない。僕自身が紅音を守りたいんだ!


「紅音!君の勝つ為の強い翼が欲しい!ぶち抜くんだ!」


 6本の腕から中型レーザーが発射された、だけどそれは当たらないんだ。アフターバーナーを停止させる。慣性移動に移行する瞬間だ。もうバランスもくそもない!目の前は赤い光に包まれて何も見えなくても、何も出来なくても強引に切り開く世界がある!負けない為の戦いじゃない、僕達は勝つ為の戦い方を知っている!


「「E.B.R.S!!」」


 二人で叫ぶ!オレンジ色の球体は完全な円であり、空間であり、全てを拒絶した宇宙、人の頭ほどしかない一直線の道筋が死の破壊の赤ではない、真紅の光を示していた。


 オレンジ色のドームが開いたまま、強引にアフターバーナーを全開にする。それでもオーバーヒートゲージギリギリを保ち、紅音の繊細なエンジン制御が完璧に働いた。豪快に6本の中型レーザーは外れ爆発で瓦礫を竜巻のように巻き上げた。もう10メートル。


「-雪人!一度張り付いたら、逃げられないってーの!引くんじゃないわよ!-」


「分かっている!紅音!行くぞ!」


「-何えらそーに!こいつら全部ぶったたいて、木っ端微塵に粉砕したらアンタを町中引きずりまわしてボロボロになるまで遊んでやるってーの!-」


「望むところだ!」


 アンチマテリアルナイフを左手に構えた、右手のスマートパルスライフルは敵のコアの位置を覚えている。メインコアを探るように全弾連射した。敵はその4発の青い閃光を纏った弾丸をコアシールドの中心で捕らえきれずギリギリで防いでいた。


EBRSが散っていく中、ただ一点、強引に守った場所、人間で言う心臓の箇所だった。あそこにメインコアがある!このまま急上昇してやつのコアに到達した時にはエンジンは焼きつくだろう、もちろんEBRSなんて使えない。


今行ったら勝利か死しかない。心の引き金はそう簡単には引けなかった。


「-あんた何!?アタシの事かばってんの?バカ?アタシが死ぬわけないっつぅーの!アタシとあそこまでデートしろぉおおおおおお!!-」


 視界がぐんと上がった!もう引けない!エンジン全開だ!6本の腕が襲い掛かる。巨大な影からは逃げることが出来ずそれでも倒す事しか考えられなかった。先手必勝、先制攻撃、とにかく先に当てた方が勝ちだ。


 あと5m。自然とスマートパルスライフルを捨てて、C1911ハンドキャノンに持ち替えた。一本一本の手に向けて弾丸をねじ込む。射撃音は6発同時というぐらいにあっという間に打ちつくした。数発はシールドで防がれる。だめだ距離が届かない!あと1mだけなのに!強引にメインコアに左手を突き伸ばしてアンチマテリアルナイフを投げた。しかし力が足りず食い込んでも黒い肉の塊で止まってしまう・・・・・・。


ドンッ・・・・・・。


 一瞬で真っ暗になった。鈍い音と共に世界が回転して僕達は瓦礫と同化した。危険アラートが鳴り止まない。両手はバラバラ、足も殆ど動かない。


「-あはは、駄目だった。私。動けってーの、このポンコツ・・・・・・。ねえ動いてよ・・・・・・-」


 声が出ない。紅音、紅音。声が届かないよ、紅音。お願いだ。逃げるんだ。身体に振動がだけが伝わってくる。少しずつ視界が見えてきた、空は黒く、この世の終わりのような景色だった。耳に違和感がある。紅音ではない何かの声だ。これは天使だろうか・・・・・・。


「-よくがんばりました。私の高貴な妹よ。勝利を求め、美しく羽ばたく翼、この目に焼きつきました。後は私に任せなさい-」


誰だろう、機体情報にはブレアエンフィールド・・・・・・。紅音を妹と呼んだ!?


この絶望の景色をその白銀の機体で打ち消し、この絶望の状況をその美しい金色の髪であしらう。爆風や黒煙、自然の流れをもが、規律正しく彼女に敬意を払うようだった。


「-私がここに居るのは、全ての命と時を分かち合い、全てをささげる覚悟がある。皆と共に輝く光を求めるのは、自然の理だろうか!そう人間だからだ!共に歩もう!全てを導け栄光の翼!-」


 背中から二本の大きな翼の炎が全てを切り開く、稲妻のごとく強烈な閃光の後に轟音が鳴り響いた。新型巨大タイタンは紅音と僕によってすでに数本腕のコアは破壊してある。


 あっという間に接近して右手の拳で僕達が突き刺したアンチマテリアルナイフという、強い意志の塊を敵メインコアに叩きつけた。その大きな黒い塊の隙間から栄光の光がさす。それは神々しく勝利の光だった。


意識を取り戻したのか、紅音は薄っすらと僕の視界に重ねる。唇をもが重なるような感覚だった。


「-お、お姉様・・・・・・。ごめんなさい。私駄目だった。こんな私でもちゃんと支えてくれる人が居たんだよ。お姉様・・・・・・-」


 あまりにもか弱い声だった。ブレアエンフィールドを心から信頼しているのだろう。安心感に包まれていた。しかしその白銀の機体もボロボロで翼が折れていた。もう限界だったんだろう、落下のスピードが速すぎた。


するとエンジンを逆噴射させて落下の衝撃を和らげようとパイロットの気持ちが伝わってきた。瓦礫の山の頂上に着地し倒れ込んでしまっていた。するとリナさんからの通信が入った。


「-聞こえる?-」


 同じ装甲車に乗っているのになぜかまだ遠くから話しかけられている感じがする。優しくも気遣っているが焦っている声だった。


「-流石、ロイヤル機といったところかしら。すぐに再起動してあの超大型レーザーを邪魔してイギリス本土のダメージを軽減させた上にニューアメリカ艦隊の損害も抑えたわ。あれまで倒しちゃうなんて。やっぱ紅音ちゃんのお姉様ね。いい?もう時間が無いの。作戦再開よローマンに切り替えるわ-」


「そんな、紅音は!?このままほうって置いたら、やれれてしまう」


「-雪人君、覚悟は出来ているでしょ?今、私達パリに着いたわよ。本当に私も馬鹿みたい・・・・・・。私が紅音とお姉さん回収するわ、後はローマンでチェインドライブで戦うわよ-」


何がなんだかさっぱりだけど、死ぬつもりは無い。自分の命だけじゃなく、皆で戦っているんだ。自然とまた唇が紅音と重なった。


「-雪人、ローマンと一緒に私の分もぶったたいて帰ってこいってーの-」


「もちろんだよ。紅音。必ず戻ってくる。そして一緒に帰ろう、君の翼も乗せて」


 顔と胸が熱さでいっぱいになるそんな安心感でいっぱいだった。紅音が背中を押してくれたんだ。気持ちを入れ替えて気を引き締めた。すると待っていたかの様にマイクさんが張り切った様子で説明してくれた。


「-さーて派手にかましますか。生き残ったアギルギアが再起動した所に超大型の身体から大量のジャミングワイヤーが放出された。通信不良で上のドイツ機達はかなり苦戦しているから時間の問題だ。地上部隊はほぼ全滅。ユリア、ジュリアがローマンと雷花を背負って地下まで退避してくれたんだ・・・・・・。ここからは衛星通信は出来ない。俺ら装甲車ごと近づいてチェインドライブで一気に上って、やつの上部シールドを破壊する。失敗イコール全滅だぜ!気合入れろよ!-」


 全てが真っ暗になり何も聞こえなくなった。ああ、紅音から切断されたんだ。耳鳴りだけが虚しく残る。この瞬間が一番嫌いだった。


涙が溢れていた。紅音もまだ諦めてない。切断されても胸に強く痛く残っている。

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