core02:テストプレー
少しでも見やすくなるように修正しました。
朝は苦手だけど今日は何故か機嫌が良く早く起きた。またあのゲームがやりたいからだ。しかし突然の来訪者のせいで平和で何も変哲も無い僕の人生が変わるなんて夢にも思っていなかった。
ピピピと普段耳にしない電子音。インターホンが鳴っていた。セキュリティディスプレイには20代ぐらいのスーツ姿の綺麗な女性が立っている。髪はブラウンでセミロング。セキュリティスキャンの結果を見ると危険は無さそうだし。一体なんだろうか・・・・・・。
「あのー、Xウィンドウ社のリナと申しますが、アカウント名ブラインドシュート様でしょうか?」
アカウント名で呼ばれると恥ずかしいが僕で間違いないなさそうだ。あのゲームは本当に個人情報が盗まれるのか。一体どこまで僕の事を・・・・・・。
「今日はブラインドシュート様に次の最新アップデートのテストプレーをして頂きたく、参りました」
困ったやって見たいが怪しいし。それに昨日アップデートしたばっかりじゃ無いか。その為に自宅まで押しかけるなんて。
「すみませんが、学校なんで」
しまった。これじゃ登校時間になったら外に出ないといけなくなった。諦めて帰ってもらうしかない。
「ですが、昨日のアップデートでプレイヤーの皆様からの改善が求められまして、早急にテストしリリースしたいのです。なんとかお力添えを」
「まさか、今ですか?こんな朝に?」
「はい、一度だけです」
やっぱり逃げ切れないだろう。とりあえず話を聞いてみようかな。ゲームだから危険な事は無いと思うし。
「分かりました5分ほどお待ちください、着替えますので」
「承知いたしました。ここでお待ちしております」
即答だった。渋々制服に着替える。二重ドアを開け家から出てエレベーターを降りて1階のエントランスに向かった。スーツの女性に案内されたのはマンションの一階の駐車場でそこには大きなタイヤの8輪の装甲車だった。これは軍用じゃないのか。
「本当に一回なんですね?」
段々不安になって来たぞ。あんなゲームがここまでお金が掛かっているのか、それともこの車の中で開発されているのだろうか。
「雪人君、終わった頃には学校に着いてますからご安心くださいね」
住所を知っているぐらいだから名前を言われても驚かなかった。やっぱりもう逃げられないな。8輪装甲車の後ろのドアが開くと中には確かにゲーセンと似たコクピット型の筐体がある。
恐る恐る入ると女性型アンドロイドが居た。髪は黒くノースリーブのメイド服で目は青く光っていた。その隣には博士見たいな服を着た人。いや、こちらも目が緑色に光っているのでアンドロイドだろう。あと年齢の微妙なお兄さんがいる。
「俺はマイク、よろしくな!」
思わず目をそらしてしまった。リナさんから身体にフィットするという青いスーツを渡された。カーテンの仕切りもなく筐体の影に隠れて着替える。そして押し込まれるかの様に大型筐体の中に入った。シートはゲーセンのタイプとは違い全身が包まれしっかりと固定されている感触だった。
「指示はこちらで出すから言われた通りに行動して。成功するわ。必ず」
リナさんの少し口調が変わりかなりピリピリしている。テストプレーにしては何故か僕頼みのよう雰囲気だ。コクピットのドアが自動で閉まり目の前は真っ暗。シートに身体が馴染んで行きリラックスしているのが分かった、だんだん手足の感覚が薄れてきて体が軽くなる。自分の呼吸だけが聞こえた。
「-FLDの目的、作戦ルート、時間を目視してください。現在の相性は25%です-」
先ほどの女性型アンドロイドだろうかゲーセンとは違った声だった。緑色の文字で色々表示されている。
目的:敵ロボットヒューマンタイプ撃破、途中ルートの敵の排除及び回避時間制限:5分武器:ショルダーキャノンを使用。
なんだこれは簡単じゃないか。まあテストプレーだからか・・・・・・。そして段々と自分がここにはいない気分になってくる。
「-視界が共有されます。現在の相性は35%です-」
驚いた。景色は夜空でしかも飛んでいるんだ。風を切り裂く音が頭にビリビリ伝わる。眼下にはヨーロッパのような街並みでビル街の中心へとルートが示している。飛んでいるのに自分の機体のエンジンが動いてないと感じる。オーバーヒートゲージが全く動いてないないので機体の推進力で飛んで無いと分かった。
「作戦ルートに到達しました、ローマン機、投下します。」
ローマン機?確かにFLD表示されていたがこの機体の名前だったのか。と余裕をかましてたらマイナスGが襲ってくる。少しずつ加速し視界がどんどんビルの屋上へと近づいて行く。エンジン音が聞こえてくる。
「落下速度落として!エンジン全開で!屋上に激突するわ!」
リナさんも焦っているが、それ以上に焦っているのは僕の方だった。エンジンを全開にしようとするも思い通りに動かない!ビル内のデスクの上に雑誌が載っている所まで見える。
「やばい!間に合いません、げ、激突する!」
テストプレーなのにいきなりミスって申し訳なかったと思ったが機体がうまい具合にビルの屋上では無く作戦ルート通りの58階の窓を突き破る。見事に侵入に成功した。このローマン機が補正してくれたんだ。
「アースローミング投射、エコー」
突然女性の声がした。背中から敵探査、地形把握用の弾丸が発射されて床を貫通した。昨日のゲームの訓練通りだ。しかし誰の声だ?このローマン機が喋ったのだろうか。
あの女性型アンドロイドとは異なる声だった気がする。確かにこんな兵器満載のゴテゴテな機体でも女性の声で喋ったらファンは喜ぶかもしれないな。少なくとも僕は嬉しい。
そんな事を考えていたら作戦時間がどんどん動いているのに気づいた。
「-目標発見しました作戦ルートを表示します。相性は50%です-」
FLDの作戦時間が更新される。2分で撃破するのか。急がなければならない。ルート通り突き進む。
「-敵接近します回避してください。指示に従ってください。現在の相性は50%です-」
シルエットから銃を持った兵士がいるのがわかった。なんだ雑魚じゃないか。敵の前で止まる。エンジンはふかしたままだ、右手で銃ごと敵の腕を破壊し左手で頭部のメインカメラを掴み再度右手ストレートで頭をぶち抜く。しかしスコアが上がらない。いやスコアの表示が無い!?
「駄目よ!指示通り回避よ!」
リナさんが激怒する。時間が足りないのか直ぐにエンジン全開で突き進んだ。角をターンすると目の前には障害物[X]と書かれた長方形のブロックがあるが回避しきれない、あえなく激突して破壊してしまった。
「何てことを・・・・・・」
リナさんが再びつぶやく。
「作戦は続行するのよ、オペレーター目標は?」
リナさんが声の震えから焦っているのが分かった。
「-目標、作戦ルートから外れます、再計算しています、相性は53%です-」
新しいルートが出るまで作戦ルート通り突き進んだがまた敵がみえる。
「-敵接近、排除してください-」
さっきと同じ敵だった。一気に懐に近づき右手で打ち上げる。天井にめり込んだ所をさらに右手ストレートだ格闘ゲームで連続技をやっている気分だった。
「最小限で動くのよ、目標に逃げられるわ!」
リナさんにまた怒鳴られた。テストプレーだしエラーを探す為にやっているんじゃないのか・・・・・・?さらに加速しルートを高速移動する。強引に時間を縮めた。
視界が流れていく中、エンジンの高音が同時にビルの中や谷間を突き抜けて行く。
大きなフロアに到達しルートが変更された。正面の奥の大きなガラスを破り外に飛び出して空中で狙撃ってしろってかなり無茶だ。
「-ルート変更しました。空中で狙撃してください。現在の相性は51%です-」
かなりキツイぞ!たしかショルダーキャノンは直撃すれはかなりの威力だかいくら弾速が早くても誘導しないから直撃させるのは難しい。行動を読んで爆風で巻き込むしかない。
「雪人君!アシストなしでも直撃させるのよ!」
アシスト?リナさんが再び叫ぶ。助走をつけてジャンプし空中での対空時間を長くする為にブーストを残すんだ。ガラスを木っ端微塵に破壊し外に飛び出た。作戦ルートのラインに完全に重なる。
直ぐ下の目標をロックオンした。エンジンからブーストを噴かし少しだけふわっと綺麗な弧を描くように。これなら攻撃がブレない。ターゲットマーカーが完全に重なるが直ぐにマーカーが外れてしまった。地上の敵ロボットは突然走り出してしまった。このままではまずい。作戦ルートは隣の50階建てビルにつっこむ様になっているのでこのまま空中で決めたい。
ブーストをさらに噴かして少しでも滞空時間を伸ばす。再びターゲットマーカーが緑から赤になる。よしいけると思ったが。
「破壊するのよ!これからの世界の為に!」
え?リナさんの言葉に少し戸惑った。しまったっと思った時には遅かった。ショルダーキャノンから発射され青いエネルギー弾が敵を目掛けて飛んでいく。しかし誘導しないので外れるのが分かった。
そして直撃しなかった。強烈な青い閃光が爆発へと変化し目標を火力で巻き込んだはずだが・・・・・・。衝撃波と熱風で景色が歪む。そして埃で目標が見えない。しかしなんてリアルな映像だ。思わず感心してしまった。
「-目標ロスト。作戦失敗です。帰還ルートを検索します。相性は45%です-」
やってしまった。前のビルの窓を突き破り室内へと侵入し少し歩いたあとエンジンをクールダウンさせ一旦停止した。
「敵コアの破壊出来ませんでした」
またあの女性の声だ。やはりこのローマン機が喋ってるんだろうか。大人しい感じの綺麗な声。
「ダミー映像化処理がアシストを邪魔します。解除を要求します」
ダミー映像?敵コアって、あのアメリカを崩壊させたやつらの事じゃないのか?学校で習ったし、僕が小さい頃からテレビで散々やっている。100年前からの人間の宿敵。身体の感覚がだんだん自分へと帰って来る。忘れていた手足の感覚、肺に溜め込む酸素。身体中が熱くなる。
目の前は真っ暗でFLDだけだ。コクピットの外が騒がしい。マイクさんの焦り声が聞こえていた。
「しまった、ネック博士が作戦失敗を見切ってライセンス解除しやがった!このままじゃデータを削除される!リナ!端末かしてくれ!爺さんから吸い出してみる!」
作戦失敗って不安になってきた。テストプレーってゲームオーバーだろうとエラーを見つけたり正常に動けばいいんじゃ無いのか。
コクピットのドアが完全に開き室内の照明がかなり眩しい。ぼんやりとだかネック博士という爺さん型アンドロイドが横たわっていて頭の隙間からケーブルが出ていた。先にはマイクさんがシリコンPCに端末を置いて仮想PCを構築し始めた。
「雪人!端末を貸してくれ!リナのじゃ古くて処理速度が間に合わない!」
コクピットの裏に置いておいたカバンから急いで端末を渡す。
「サンキュー!最新機種じゃないか、これなら強力なCPUになる!」
シリコンPCという名の通りペラペラな下敷きの表面にCPU、MEMORY、SHDと書かれており、それぞれの上に複数端末を載せて強力な簡易コンピュータを構築するものだが、かなりセンスがいるので学校でも使えるやつはほとんどいなかった。
データの吸い出しだろうかみるみるうちにゲージが溜まっていく。
「雪人君、気にしなくていいのよ。でも今日は帰れないわ、まだ協力してね」
リナさんの目が本気だった。テストプレーはおそらく嘘だったんだろう。僕は本当に存在する見えない敵と戦っていたのかもしれない。