core25:休息の流れ星Ⅰ
>読みやすいようにしました。
この基地から半径100キロメートル以内に超大型が発生するらしい。ここを中心とし戦うとの事だった。補給は自国のテントに行かなければならないので、メセルと別れる事にした。
「妹よ。ピンチの時には必ず駆けつけます。ですが、どうか無理をしないでください」
メセルと目が合う。同じ国で作られたから似ているとはいえ、こうやって触れ合うと本当に姉妹じゃ無いかと思う。するとメセルからメッセージ通信が入ったが一瞬だったので僕には見えなかった。深い絆で結ばれている。僕だってメセルの為ならどこまでも行くよ。必ず。
メセルは何度も振り返りながら自分のテントへと向かっていく。戦いの準備へと。僕達もまたルート通り日本のテントを目指すとそこには雷花が立っていた。
「お、お姉様!?あのお姉様に似た機体は誰ですの?しかも、お姉様の機体情報が氷の雷帝から希望の翼になっています。ぬぐぐぐ・・・・・・」
あ、なんか面倒な事になりそうだ。すかさず僕から将吾に通信を送る。
「ここからは、みんなで戦う事になるけど。必ず一緒に帰ろう」
「マジかよ、今基地にいるんか!周りは敵だらけだぞ。危険だったら必ず逃げろよ!」
確か将吾は旧新宿都市に居るんだったよな。日本に戻ったらみんなでご飯を食べよう。そんな事を考えてたら緊張が少し緩んだ。しっかりとローマンと一緒に呼吸と整え、目の前まで接近してきた雷花に目をやる。
「お、お姉様!?」
雷花が覗き込む。ローマンは雷花を胸に抱きこみ。額と額をくっつけた。
「私達はみんな家族よ。この気持ちと身体を大切にしなさい。私の一番目の妹よ」
雷花が黙り込んで頷いた。身体の温度と心音だろうか、直接伝わって来てだんだん恥ずかしくなって着てしまった。補給を受ける為に手を繋いでテントに入る。中はかなり広く暗いが奥まで50メートルぐらいはあるだろうか縦長だった。整備車両にあったカプセルが幾つも並んでいた。
「-これより調整に入ります。切断します。現在の相性は76%です-」
目の前が真っ暗になりFLDには文字だけが表示された。全身の筋肉の繊維からみしみしと悲鳴が伝わってくる。長時間は身体に相当負担だった。メセルのパイロット、イヴァさんは女性だしもっと辛かっただろう。僕はここで倒れるわけには行かない。コクピットのドアの隙間から光が差し込む。リナさんが手を取ってくれコクピットから出てそのまま座り込んだ。
「お疲れ様。装甲車の中で暫く待機するわ。ここは基地のはずれだからローマンのテントまで500メートルはあるし生身の人間が基地をうろつく訳に行かないから。それにもう作戦会議が始まるからモニターの前で座って休んでなさい」
アイヴィーから甘く温かい紅茶を貰った。とても美味しい。暫くすると目の前の複数のモニターに会議室に沢山の人が映った。ニューアメリカの大統領エイブラントという人が説明をしている。
超大型は発生から24時間後に第二形態になる。その状態になったら、フランスもアメリカの二の舞になると。それを阻止する為、陽動作戦を仕掛ける。イギリス本土からの新型弾道ミサイル、ニューアメリカ艦隊からの新型巡航ミサイルがレーザー攻撃の囮となり、アギルギアで接近するまで時間を稼ぐそうだ。
倒し方はいたってシンプル。アギルギア達で接近し敵上部の大型コアシールドを破壊。そして宇宙兵器リベレーターで破壊するという単純な物量での短期決戦だった。リベレーターとは太陽レールガンという代物で全長300メートルのソーラーパネルで常時充電している。全長19メートル、直径1.5メートルの劣化重量質量弾を超高速で発射する。
それにレニオズという大陸間大型レールガンもイギリス本土で待機しており同時攻撃も可能との事だった。
一方ドイツ機はドイツ側を守る為に、新型の量産型が大量に待機し最前線は現行機体がもっとも得意とする空中空母からの急降下電撃作戦を展開するとの事だった。あのファウストとシュツカートも空からの攻撃に参加するのだろう。
ロシア側はシャルトルに基地を作り待機となったようだ。そして1時間に及ぶ作戦会議は終わった。
リナさんから何とか許可を貰い、徒歩でローマンのテントを目指した。もうすっかり夕暮れで視界が悪く各国の機体のランプがキラキラと光とても幻想的だった。端末を片手に日本のテントについた。自分の目で見た場所だったのですぐにローマンの前にたどり着く。すると雷花が近づいてきた。とてもやさしい表情だった。
「またお会いしましたね。お姉様越しでも。ちなみに今は将吾さんとは繋がってません。たぶん寝てますよ。少し羨ましいです。一緒に居てくれるなんて。でも私はお姉さまが一番ですけど。あまりべたべたされては困ります」
言うだけ言って、雷花は立ち去っていった。日本のテントは機体は少なく後数体だけだった。ローマンはカプセルに入っていたので話すのは無理だろう・・・・・・。少し残念だった。カプセル越しからでもその息遣い、翼の鼓動が分かる気がした。ローマンの指先をみる。ここからでも自分の指先と重なるような気がした。一緒に動かしたから分かるんだ。戦闘が始まったら身動きが取れなくなるのですぐに立ち去る事にした。
戻る途中にドイツのテントを見つけ、恐る恐るテントを覗くと目の前にはファウストが立っていた。
「こんな所にパイロットが居るとは。軍法会議物だな。とは言っても今は一人でも欠けては困る。戦闘が始まったらここから出られんぞ、少年」
なんだか怖い。銀髪のツインテールに黒い機体。とてもカッコイイよく美しいがとても威圧的だった。しかも装備はフル装備だ。大きな補助エンジンに背丈を越すライフル。気まずいのですぐに戻ろうとしたが。ファウストの後ろから金色の髪が・・・・・・。
「おいやーーーああ、これはこれは今話題のローマンさんの恋人じゃないですか」
飛びついてきたのは予想通り金髪のツインテールに小柄な黒い機体のシュツカートだった。うまい具合に綺麗にファウストのヘッドロックが決まった・・・・・・。シュツカートも補助エンジンが付いておりいつでも出撃できる状態なんだろう。今は僕一人だけでなんだか恥ずかしい。それに話題になっているのか!?恋人?
「ちょっと、恋人って、勝手に噂にしちゃ駄目だよ」
「まーまー、いいじゃん。それと知っていると思うけど、私達とパイロットの恋愛は禁止って言われているけど。あれ?もしかして知らない?」
そんな決まりがあったのか。知らなかった。ちょっとショックだった。
「うっそだよー!そんな残念な顔しないでよー。好きになったら関係ないじゃない?ねー、ファウスト」
ヘッドロックの締め付けが強くなったのかシュツカートの顔がゆがみ始めて喋れなさそうだった。
「ううう・・・・・・。それと内緒だけど、私達の新型の量産型には注意してね。あれはもう・・・・・・。うぐぐぐぐ。顔が壊れる・・・・・・」
「それでは少年。戦場で会おう」
ファウストがシュツカートを無理やり引っ張ってテントの中に戻って行った。早く戻ろう、拳に力を入れながら来た道を戻る。基地はポッドの出入りの音で周りの音は殆ど聞こえなかった。横を見ると黄色のアギルギアの周りに沢山集まっていた。数十機居るだろうか。何かが始まるようだった。すると端末にリナさんからのメッセージが入る。
『せっかくだからそこで端末越しに聞いてなさい』
端末の接触通信機能を使った。そうすると歌声が聞こえてくる。とても美しい歌声だった。悲哀に満ちた歌。この声はライラだった。『この大空に恋を置いてきて、大地であなたを探す。けして重なる事の無い色、そんなキャンバスにタイトルをつけるのは私だろうか、完成の無い景色~』そんな歌詞だった。僕もこんな気持ちが分かるようになるのだろうか。ローマンや紅音、そして出会った人たちを振り返る。
装甲車に戻り、輸送ポットが居ない方向を見ると綺麗な夜空だった。日本で見る星とは違うのかな。見上げていつものように流れ星を数える。あれは遠い昔、人とアンドロイドとの戦争の爪跡。殆どの衛星が破壊されゴミとなった。それが今でも落下し流れ星となる。人は海も地上も空も宇宙をも汚す。だから宇宙からコア生命体が来たのだろうか・・・・・・。




