core23:記憶を景色に残してⅡ
>読みやすくしました。
「大丈夫よ、今回はロシアのアップデートだし、紅音はそういうのは無いから。雪人君との思い出はあるけど、戦い方を忘れてしまうって事よ・・・・・・。ごめんね。ローマンは一旦前線を外れることになるわ。今から超大型戦に間に合わない・・・・・・か・・・・・・」
沢山の思い出が、ローマンは言った。温かい翼が欲しいと。そうだ直しに行けばいいじゃないか。呼吸が荒くなり端末が赤く光る、極度の興奮状態だと僕に言っている。そんなこと知ったことか。
「分かっていると思うけど、フランスのメッス基地は無人よ。この件は修理ポッドでもどうしようも出来ないの、あそこに行くには危険すぎるからね」
マイクさんが画面を見ながら、うなずく。
「なるほどな、今回の戦闘システムアップデートは第五世代の最終調整って事か、第四世代のすべての経験と記憶を吸い取って一人勝ちしようって魂胆か。ふざけている」
リナさんが僕をなだめようと納得させ受け入れさせようと僕の肩に手を当てた。恐らく、戦闘の記憶だけじゃない・・・・・・。何かを隠そうとしているのが分かった。
「雪人君、紅音で行くしかないわ。それにローマンの戦闘の記憶がリセットされた以上、ランスポーツの時の様に高速移動できないわ。シミュレーターだけでインプットさせて取り戻すのに一ヶ月は掛かる。ローマンを日本に戻してからではとても無理よ・・・・・・」
「僕には、出来ません。出来ない!初めて守りたい人が出来たんだ!それでも命を危険にしてまでも、僕が日本に居ても死ぬ気で戦ったんだ。ローマンと戦う事に意味があるんだ!」
「駄目よ」
現実を受け止められなくなり、僕は逃げ出してしまった。今までもいつでも逃げられた。初めての時はゲーム感覚だった。次にローマンを知る事により世界が変わった。そして誰かを守りたい。誰かと一緒にいたい。それだけだった。
小型自転車で思いっきり走り出す。どこに行くわけでもなく、思いっきり漕いだ。意識してなかったが、この丘に到着していた。そうだ、ここは空港になっている。ここから飛行機でいけないのか。
しゃがみこんだ、アスファルトが熱く両手を火傷したがこんな痛みなんとも無い。ローマンが僕とすごした日々を失うなんて。すると陽炎の中からまた少女が現れた。
「私の記憶、君の記憶、出会ってはいけない」
思わず、端末の緊急スイッチを押した。このタイミングを待っていたのか装甲車が猛スピードでこちらに向かってきた。端末からリナさんからの通信がある。
「返事をして!死んでは駄目よ!意識を保って!」
僕は知らぬうちに右手で自分の首を絞めていた。苦しい。手が勝手に。意識が飛びそうだ。
「僕は死なない!けして死なない。誰かをみんなを助けるんだ!君だって!」
すると少女は笑顔で消えていった。装甲車を僕の横につけて、リナさんが凄い形相で僕に向かって走ってきた。水をかけられ胸倉をつかまれて立たされた。
「だから私達は家族だって言ったでしょ!早まるんじゃないの。あいつらは君の心のスキに入り込んでくるのよ」
マイクさんも車から降りてきた。
「まじかよ、俺らには見えないけど、コアエンジンに似た反応があった・・・・・・。雪人、狙われているのか?」
アイヴィーがロケットを握り締めたまま、オペレーター用のファイバーフォトを僕に向けた。そこには地図とルートが表示されていた。
「ここに輸送機を呼ぶことが出来ます。1日でイタリアへ、北上し2日でメッス基地に到着できます。非常に危険な地上ルートですが」
リナさんはあきれた顔で、アイヴィーのロケットを手に取り開いた。こっちを見る。
「作戦違反で済まされるレベルじゃないけど、ローマンなしではこの戦闘で私達は活躍できないからね。紅音を連れ出して援護させるしかないか・・・・・・」
そっとリナさんがため息をつき、マイクさんもあきれた顔だった。2人とも反対するような態度ではなかった。
「了解しました。輸送機を手配します。30分後に到着します」
アイヴィーが装甲車に戻っていった。ありがとう。またひとつ貸しが出来てしまった。リナさんが僕の頭をなでる。ぐしゃぐしゃと、少し安心して涙がまた出てしまった。
「白い服の少女との干渉が強いかもしれないわ。君の記憶を見させてもらうわよ。ちょっと痛いから我慢しなさい。直ぐにコクピットに入って」
装甲車に乗る。見た事の無いパイロットスーツを渡された。色は真っ白で骨や筋肉、神経のようなラインが入っていた。着替えてシフターシートにのる。自動でしまるドアの隙間からリナさんがゆっくりと怖いことを言った。
「脳みその中ほじくりまわすから。鼻とかから血が出るけど、我慢するのよ」
すべてを覚悟した。別に鼻血が出ようと、目玉が飛び出そうとかまわない。ローマンの為なら。すぐに始まった。真っ暗になり。光が点滅する。激しい頭痛と全身の中を何かが駆けずり回るような不快感が常に襲った。それは長く。永遠に苦痛を感じた。
もう体が自分の物じゃない様だった。身体に激痛が走る。終わったのか・・・・・・。
「お疲れ様。アイヴィー介護してあげて」
前が殆ど見えなくなっていた。すべてがぼやけて大量の鼻血だろうか体中が血まみれだったのは分かった。よたよたとアイヴィーにつかまり移動する。
シャワー室へ案内しますと言われて装甲車を出ると地面がガタガタと揺れる。ここは輸送機の中だろうか室内にあの大きな装甲車があるのがうっすらと見えた。
非常に寒く早くシャワーを浴びたい。アイヴィー越しにマイクさんから通信が入った。
「お疲れさん、記憶からやつらの位置が少しだけ見えただけだが、これは凄い収穫だったぜ。しかしやつらに記憶を埋め込まれたな」
アイヴィーとシャワー室に入る。アイヴィーが僕のパイロットスーツを脱がした。ちょっとまって。するすると裸にされてしまった。アイヴィーもメイド服を脱ぐのが見えた。体中に染み付いた血を流してくれる、少しずつ視力が戻る。するとアイヴィーが僕の左手を取って僕の目をふさいだ。ゴメン見るつもりは無かったんだ。
「この後はすぐにシミュレーター訓練が始まるとの事です。私もサポート致します」
シャワーから出て新しく用意されたのは青いパイロットスーツ、これはローマンだ。装甲車までアイヴィーに再び案内してもらった。リナさんから端末にメッセージが入る。歩きながらメッセージを見た。
『ローマンの戦闘の記憶を取り戻しても、身体に染み込んだ二人の経験は完全には取り戻せる保障は無いわ。更に新しい戦闘システムだからローマンが付いていけないわ。いい?雪人君が強くなるしかないの。』
「そのつもりです、僕に出来る事、出来ない事でも全力でやります!」
「その意気込みよ」
地獄のような訓練が始まった。休憩は殆ど無く新しい戦闘システムでの基本訓練の繰り返しだった。バレルバーストのマスター、アンカーを使った攻撃、ショルダーキャノンの着弾するまでの次の行動。休憩は体の異常を検知して強制切断をされる時ぐらいだった。コクピット中でそのまま仮眠を5分だけ取る。タブレットをアイヴィーから貰い。少しでも多く練習した。
「教えてなかったけど、もうイタリアに到着したわ。訓練してから26時間よ。ありがたい事に途中までライラのお友達が援護してくれるから、会っておきなさい」
もうイタリアについていたんだ。ライラの友達?心配してくれたのか。装甲車から降りるとヨーロッパの町並みだったがすでに戦争の爪あとがある。煙がそこら中にあがっていた。しかし機体は誰も居なく男性が立っていた。
「よう、俺はライラのパイロット、ディティーノだ。ライラから話を聞いた。ずいぶん厄介な事になったな。だが俺はお前を信じる、俺だって同じ事をしていた。ライラはローマンのそばになるべく居るが明日には最前線に行かなければならない。途中まではあの子が援護してくれるから、まあ大船に乗ったつもりでガンガン飛ばしてくれよな」
ディティーノさんの後ろにはローマンに非常に似た機体。そう、彼女はメセルだ。
「お姉様のピンチと伺いました。最後までお供します。少ない私との思い出を少しでも失って欲しくはありません。あの暖かい手、私は絶対に忘れませんから」
メセルはフランスに配備される前はイタリアの基地で訓練していたとの事だった。イタリアにいる時はライラに走り方を学んだそうだ。前回の戦闘で修理ポッドがイタリアまで来たとの事で再出撃を待っていたそうだ。リナさんがメセルの機体に手を触れる。
「ローマンと似ているようだけど、これはヴァリアブル装甲ね、こりゃ頑丈だわ。紅音の出撃は取りやめたから、あの子は予定通りイギリス側の海から行くわ。じゃーメセルちゃんよろしくね」
ぽんぽんとメセルの身体を叩くとすぐに装甲車に乗った。メセルを装甲車の上に乗せて警戒してもらう。話を聞くとロシア人の女性パイロットだった。ロシア製純正のローマンを大切にして欲しいとメッセージを貰った。
みんな仲間だ、同じ敵に立ち向かい助け合う気持ちが自分の弱さを支えてくれた。僕の記憶から引き出した情報を頼りににイタリアからメッス基地までの安全だと思われるルートを走る。
途中で道路が破壊されており進めない道もあったが、アイヴィーの運転のお陰でスイスを抜け10時間程で後1キロまで到達した。途中で何度かクモ型と戦闘になったが、メセルが撃破してくれた。
その中で難民に出会い沢山の人々に触れた。メセルもローマンと同じく最初は工業ロボットとして訓練しその後は最近までずっと爆撃機の中で一人暗闇で倉庫で待機していたと。誰も話相手がおらず僕たちに出会い、いきなり姉妹として家族として迎えてくれたローマンはなんとしてでも助けたいとパイロットのイヴァも同じ気持ちだと教えてくれた。リナさんが起きる。
「後1キロだけど、メッス基地はみんな前線に向かってしまったわ。防御が薄いから、気合入れてくわよ。何度も言うけどメセルちゃんの武器はショルダーキャノンのみだから威力が高すぎて援護が受けられないわ。私とマイクでローマンの記憶の結合とアップデートを3分でするから、雪人君はいつでも動けるようにスタンバイして」
「分かりました。リナさん、マイクさん、アイヴィー、そしてメセルも、皆お願いします!」
「了解よ!」
「任せておけ!」
「お姉様と皆様を必ずお守り致します!」




