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core22:記憶を景色に残してⅠ

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>読みやすいようにしました。

 端末から目覚ましアラートがなる。頭が重い。身体に痛いところは無いが寝たり無い気がする。ベットの中だった。部屋のライトは間接照明だけで薄暗く朝なのか夜なのか分からなかった。


「起きたわね、今は20時よ。ちゃんとご飯食べてシャワー浴びてもう一度寝なさい」


 リナさんが部屋を明るくする。身体を起こすも少し息苦しかった。少し外の空気を吸いたいなフランスで戦っている最中は身体をまったく動かしてないから、もともと無い筋力が更に無くなっている気がする。


「少しブラブラしてきていいですか?体がなまっていて」


「いいわよ、20分ぐらいで戻ってきてね。それとあの丘に行くんじゃないわよ」


「分かりました」


 服はパイロットスーツではなくウサギさんの半そでパーカーを着ていた。アイヴィーが着替えさせてくれたのかな。端末だけもって部屋を出る。レーザー防壁の隙間を覗くと外は夜だから当然暗い。エレベーター乗り場のライトが明るく眩しかった。エレベーターが到着し乗り込む。1階のボタンを押しドアが音を立てて閉じていく。この空間は嫌だな。降下していくこの感覚、似ている。投下した時と・・・・・・。


 ぐらっと目まいがしてその場でしゃがみ込んでしまった。怖い。早くここから出たい。一人でどこかへ行くのがとても寂しくつまらない空間だった。なぜだ一向に1階に着かない。目を閉じると小さな光が見えてきてその先にはあの少女がたっていた。そして少女の口が開く。


「けして引き返してはいけない、なぜなら私達はもう」


 エレベーターのドアが開く。心の奥底に少女がいるような気がする。思い出せそうで思い出せない。ということは僕はあの少女を前から知っているのだろうか。目頭を押させてこすった。まだエレベーターホールのライトが眩しく感じ、外に出てなるべく暗いところを通って夜道を散歩した。


 この道はローマンと歩いた場所、街頭の影は僕一人だけで丘までの道に出て下り坂を一気に走る。足に重みと重力を感じて。一歩一歩、アスファルトの硬さが足に跳ね返ってくる。痛く感じるがこれが当たり前の事なんだ。


 月を眺めながらまた沢山の人たちに会った今日を思い出す。みんなが無事で要られますようにと月に願った。またフランスでこの月を見よう、同じ月を。


 暫く走っては歩いてを繰り返しマンションへと戻った。体に疲労がたまり本当に疲れた。リナさんがエプロン姿で晩御飯を用意して待っていてくれた。


「走ってきたの?若いっていいわね、今日はスペシャル、トマトカレーパスタよ」


 とても美味しそうな香りと、いつものカレーふりかけを溶いた物だった。小皿にはタブレットが置いてあり、一生懸命作ってくれたんだな、温かいご飯は心と身体を温めてくれる、それに一緒に食べるご飯は美味しいんだ。


「いつもありがとうございます、ではいただきまーす!」


 パスタはちょうどいい湯で加減で美味しかった。リナさんもこれは大成功って顔で全部食べきり、おなかいっぱいになったので申し訳ないけどタブレットは食べれなかった。


「いいのよ、それは口にあわなっか時用だから」


「いいえ、リナさんの料理であれば、何でも食べれるのですが、走った後でタブレットまでは食べれませんでした。ご、ごめんなさい」


 リナさんは上機嫌だった。一緒に片づけをしてコーヒーを入れてくれた。それはとても甘く、苦いのが苦手な僕にはとても美味しかった。テーブルに二人で向き合って座る。


「雪人君、白い少女を見た?それはね殆どのパイロットが経験するのよ」


僕だけじゃないんだ、少しだけ安心したがいったいなんだろう。


「それはコアの記憶って言われているの。私達の敵であるコアが戦いをやめさせようとしていると言われているけど、もしかしたら何かを探している・・・・・・。まだ詳しくは分かってないわ。この前みたいにぶっ倒れる前に少女に出会ったら端末の緊急ボタンを押してね、すぐに駆けつけてあげるから」


「分かりました。気をつけます」


いつもどおりリナさんが先にシャワーに入りにいこうとした。するとクルッと振り返る。

「一緒に入る?」


つばをゴクンと飲みこんでしまった。またこの人はからかっているんだな。


「そんなに浮気性じゃあ、スパイラルシフトできないわよ、もう残念ね。もったいない」


 どうしてそういう事をするんだ・・・・・・。そんな僕の動揺した顔を見て満足そうにリナさんはシャワーに入っていった。確かにスパイラルシフト僕達にも出来るのなら使いこなしたい。スピードは倍だろうかかなり早かった。


 そうだ忘れてた。ファイバーフォトを取り出す。Linaでログインしたままなので戦場のログをたどった。フライングガンシップ撃破、ファウスト、シュツカート、ライラ、ローマンによって撃破。尚、中型レーザーによって撃墜された輸送ポッドは6名全員死亡。ファイバーフォトを操作する僕の指が止まってしまった。もっと強くならなきゃ。僕達だっていつかやられるかもしれない。繋がる前、切断された後だって怖い。みんな無事でいて欲しい。涙をぐっとこらえた。


 必死にスパイラルシフトのページを探した。詳しいことは書いておらず。2倍の速度で動け、体感時間も2倍になる為、敵が止まって見れる。しかし持続が2秒~4秒程度。エンジンのクールダウンに時間がかかり連続で使用できない。


 それだけか。パイロットによる白い少女のページがあり、やはりみんな同じようだった。突然現れ、意味不明な事を言って消えていく。僕は暫くファイバーフォトの操作をやめて上を見ていた。たまにぶれる手の感覚が繋がっている時の事を思い出す。不快感では無くこれは一緒だったという証。


そうだ端末からみんなにメッセージ送れるんだ。二人にメッセージを送る。


『元気ですか?』


とたった一言だけ。するとすぐに返事が返ってきた。


『ばーか』


『ありがとうございます、元気ですよ』


 たった一文だけど嬉しかった。もう一言送れないかな。操作しようとするも送れない。どうしてだ。するとリナさんの部屋の明かりが点き、ドアが開いて隙間からリナさんが顔を出した。


「愛を確かめあうのはいいけど、それ軍事回線だから、一日一回までよ。高いんだから。ぶつぶつ・・・・・・」


 凄く眠そうだった。再び部屋の電気が消えて寝てしまった。恥ずかしい。まさか見られていたのか。無駄にマイクさんからも返事が返ってくる。気を使うかの用にアイヴィーからもメッセージが来た。


『着替えが少ないので、新しいのを用意願います』


 やっぱり僕を着替えさせてくれたのはアイヴィーだったのか。なんだか恥ずかしさが2倍になり布団の中に潜り込んだ。なんだ2人だけに送ったんじゃないのか。世界が一周し夜が明ける。朝になり恐る恐るエレベーターに乗る。今まで気づかなかったが屋上のボタンがあった。特に用はなく出かけたので屋上のボタンを押してみる。


 屋上には沢山のプランターがあり緑一色だった。こんなに素晴らしい所があったのか。するとアイヴィーがいる。ひとつの鉢植えに水をやっていた。


「おはようございます。雪人さん」


「昨日はありがとう、そのなんだか僕は気を失ってしまったようで」


アイヴィーはその鉢植えの前にずっと立っていた。他のと鉢植えの色が違う。もしかして。


「それはアイヴィーの?」


「これはリナさんから頂きました。水をやると育ち花が咲き枯れ、種となる。繰り返しです。これで5年目です」


花の下には蔦のような草があった。それも育てているのだろうか。


「この草は私と同じ名前、アイヴィー、花言葉は永遠の愛です。しかし私には愛はありませんし言葉の意味を知っていても感じる事も出来ません。私は愛を感じる事は出来るのでしょうか?」


 僕には難しい質問。僕自身だってスキだって気持ちは分かるんだけど、愛とかは分からない。自然になるものだろうか。


「雪人さん、私は今まで洗濯、日曜大工、治療、着替えなどしてきました。これは命令でしたがその中に愛はあるものなのでしょうか」


 それは全部僕の事だな・・・・・・。確かに何でもしてもらった。僕にはアイヴィーに何もしてあげてなかった。


「その、やさしい人じゃないかな、そうだ、これをあげるよ。そこに立って」


 家から持ち帰った銀のロケット。端末のカバーに挟んだままだった。中には家族の写真があるが一度だけ上書きが出来る。アイヴィーと並んで写真を撮とった。中のフォトフィルムを裏返し端末に当てて上書きする。


「これを首からかけるんだ。アイヴィーの髪は黒くて綺麗だし、この銀のロケットはとても似合うとおもうよ」


 ゆっくりとアイヴィーの首へかける。青く光る瞳と目が合う、その先には僕はどう映っているのだろうか。


「かわいらしい物をありがとうございます。大切にします」


 暫く屋上を散歩した。アイヴィーのほうを見るたびに手を振ってくれた。可愛くて思わず赤くなってしまった。そろそろ朝御飯だ、アイヴィーと別れて部屋へと戻る。


 リナさんがいつもどおり、短パンに上はパジャマ姿で朝食を作る。平和な一日が始まろうとしていた・・・・・・。


ビビビと大きなアラートがリナさんの端末から鳴った。悪い予感だった。慌ててリナさんが端末を取る。


「どうしたのマイク!?」


「やばい!ロシアの本社が戦闘システムをアップデートした!コクピットのデーターサーバーのプロテクトを無視して勝手にインストールしてやがる!ネック爺さんがいない今、対処できねえ!」


 ネック博士は初めての戦闘で失敗して会った次の日には居なかった。リナさんが慌てて、はだしのまま装甲車に向かった。僕も付いていこうとしたが、火がかけっぱなしだったので部屋を戸締りしてから装甲車へ向かった。


 装甲車のドアが開きっぱなしだった。リナさんとマイクさんが叫ぶ。アイヴィーはただ立っているだけだった。マイクさんが頭を抱えて僕に言った。


「すまん・・・・・・。ローマンでの戦闘は出来なくなった、戦闘の記憶はすべて飛んだ・・・・・・」


 理解出来なかった。何を言っているか分かるけど、分かろうとしなかった。頭がまともに思考できなくなった。コクピットの裏の蓋が開いており、サーバーと呼ばれるマシンにケーブルが幾つも繋がっていた。リナさんは後ろのイスにもたれ掛かる。ため息をついた。


「今まで、私達の事は何も説明してなかったけど、どの会社もネック博士といわれる、アンドロイドが居なければならないのよ。機体、コクピット、博士のセットなの。博士が居なくなり、だましだましこの箱で小細工して運用していたのよ」


そう言ってリナさんはサーバーを蹴った。だけどそれでどうして記憶がなくなるんだ。


「ローマンの記憶は?どうして?」


何を言っているか分からなくなってきた。マイクさんが説明してくれた。


「簡単に言うと、ローマンがアギルギア側の戦闘の記憶領域にアクセスできなくなったんだ、復活させるにはエンジンと脳と脊髄を繋ぐ部分に直接施しをしなければならないんだ。このままでも出撃は可能なんだがな。戦闘記憶の領域に暫くアクセスしないと消えてしまう。通常はそんなことが無いようにネック博士が戦闘の記憶をバックアップしていて、非常時は記憶を戻すという流れだ。こんな箱ではローマンの戦闘の記憶を保存しきれないからな」


「紅音もですか!?」


 こらえていた、涙でいっぱいになり前が見えなくなってきた。リナさんがそっと拭ってくれた。


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