core16:夜空に君と
読みやすくしました。
朝食は昨日のバーベキューの残りでパンに肉が挟まっておりとても美味しかった。そして栄養ドリンク付き。今日は突然、紅音と一緒に新型のテストだというので楽しみだ。ウサギのロゴが入った半そでパーカーに着替えて装甲車に向かう。
エレベーターに乗り端末を取り出すと紅音からのメッセージが入っていた。『遅刻。ぶっころす。』遅刻って!?テスト時間聞いてないぞ。焦ってエレベーターから降りて駆け足で装甲車に向かった。
朝の日差しが気持ちいいのに、またあの蒸し熱い装甲車まで走った。後部の扉が開いておりマイクさんが待っていた。
「遅いぜ、紅音ちゃんポッドで缶詰状態だぞ。そろそろやばいんじゃないかなー、はははは」
速攻で紅音のパイロットスーツに着替えた。遅刻ってなんだよ、歯を磨いたがまだ口の中にバーベキューの味が残っているけど紅音にはそこまで共有されないよな。リナさんも走ってきた。確かコンビニに行くって言っていたが。
「ごめーん、今日のテスト朝早かったんだ。でも間に合うでしょ。後10分あるからそんなに慌てなくても大丈夫よ」
Tシャツにキュロット姿にサンダルだった。最近ラフな格好が多いな。まあ後10分あるなら大丈夫か。コクピットに入り気持ちを落ち着かせる。缶詰って言ってもまだ時間はあるから大丈夫だと自分に言い聞かせた・・・・・・。
「今日はアイヴィーがオペレーターだから、本番のようにがんばってね」
「了解です」
訓練内容はFLDに表示されるから聞かなかった。シフターシートが身体を包み込み、オレンジ色の光が点いてきた。始まる。目を閉じてパイロットスーツ越しに背骨から脳へとつながっていくのがわかる。もう少しだ。
「-FLDの目的、作戦ルート、時間を目視してください。現在の相性は40%です-」
オレンジ色で表示される。目的:ストライクユニットによる飛行訓練、時間制限:15分、武器:なし、ニューアメリカ艦隊ビッグキャットワンからの離陸および着艦
「ストライクユニット?戦闘機みたいエンジン付いて飛べるやつか」
意外なテストだったので思わず独り言のつもりだったんだが。脳に直接怒りの感情が流れてきた。そう紅音様だった。
「はぁあああ?アンタ遅刻しておきながら何勝手に一人で納得してんだってーの!」
あ、そうだもう繋がっているんだ。紅音に聞けばよかったんだが、そもそも遅刻してないと思うのだけど、言い訳になりそうなのでとりあえず謝る事にした。
「ごめん、遅刻してしまったみたいで。はは・・・・・・」
「-相性50%です。視界が共有されます-」
すると突然視界が共有されて、紅音が頭を左右にぶんぶん振り始めた!?うう、目が回る。目を閉じることが出来ないので強制的に視界がぐるぐる回る。
「罰だっつーの!わたしは別に視界OFFできるから、アンタはずっと目でもまわしろってーの!」
何だこれは。いったい僕が何をしたというんだ。確かリナさんも同じ映像を画面で見ているといっていた。た、助けて欲しい。視界がぐるぐる回るも紅音が歩き始めた。一体どこに向かっているんだ。
「雪人君、画面がものすごいことになっているけど、補足しておくわ。ストライクユニットはなんせ20年以上前に作られた第三世代の拡張ユニットなんだけど。それ一個しかないから大切にテストしてね」
さらっと流すところは流して。重要なこともさらっと言っている。誰かコレを止めてくれ。
「アンタ、ランスポーツでビリだったくせに。なにこの紅音様の超高速ユニットを偉そうに試そうとしてんだっつーの!私の足を引っ張ったら脳みそ爆発だってーの!」
ランスポーツの結果を知っていたのか。ローマンが言っていた通り紅音だったら上位に入れたかも知れない。紅音も出たかったのだろう。すると急に穏やかな感情が流れ込んできた。頭を振るのをやめてくれたので視界が正常になる。
FLDのルート上に重なる夜景。どこまでも続く海に波の音が通り過ぎていく。美しい灯だけを優しく揺らし死の恐怖だけを沈め命だけを浮かび上がらせる。
僕は実際に一度も海を見た事が無いので暫く眺めていたい。紅音と見るこの特別な景色と時間ははとても心を穏やかにしてくれた。この艦は空母だろうか滑走路があり紅音はルート表示どおりにゆっくりと歩いていく。そう、これから訓練が始まる。気持ちを身構えた。
「-これよりストライクユニットの飛行訓練を行います。現在の相性は67%です-」
FLDの表示にストライクユニットのメーターがある。アフターバーナーとEBRSの表示が変わりに消えている。EBRS使えないのか、となると戦い方がガラリと変わるから徹底的に身体に叩き込まないといけないな。訓練ルートの開始位置についた。
「行くわよ。ばか」
紅音はそっと呟く。両足のエンジン音から少しずつ力を入れていく。メインエンジンからもいい音が出てきた。リラックスして丁寧にまっすぐに飛べるように。今日は泳ぎにここにいるわけではない。二人で飛ぶ為に着たんだ。
FLDのアイコンから推測するとストライクユニットは大きな翼がついており、大きなメインエンジンが二つ付いているようだった。肩の辺りから大量に吸気しストライクユニットを点火させた。徐々にエンジン音が大きくなる。アフターバーナーより凄い爆音だ!!
「行きます!」
いつも通り右足から一気に踏み込み走り出した。FLDに表示されたジャンプポイントまでめがけて走って加速する。顔に当たる風がだんだん強くなりポイントに到達する寸前で思いっきりジャンプする。そして同時にストライクユニットのエンジンを全開にした。
視界がぐんぐんと上がる、紅音自身の強力なエンジンとまったく異なる速度と高さ、一瞬で高度が100メートル、200メートルと。なんて強力なエンジンなんだ・・・・・・。振り返ると離陸した空母が小さくなっていた。空を飛ぶのがこんなに気持ちいいとは。
「アンタ、なに楽しそうにしてんだってーの!これ嫌!嫌ったら嫌だっつーの!」
どうしてだ、すると紅音がストライクユニットを切り離そうとした。危険アラートがガンガン鳴り始めた。感情と軌道が不安定になりこのままでは紅音自身がまずい。なんとかしなくては。とは言っても僕自身がエンジンを制御することは出来ない。それがアギルギアだからだ。
「-危険です。空母へ帰還ルートを設定しました。現在の相性は40%です-」
大失敗だ。ストライクユニットの制御が難しいのか?もともとアギルギアのエンジンはコア生命体のコア結晶を使用している。それを制御するコンピューターが作れないからロストチルドレンを採用し、初めて空を飛べるようになったんだ。さらに他のエンジンを制御するなんて難しいのだろうか。
紅音が可愛そうだ早く帰還しよう。僕は空母の方を意識してルートを確認した。危険アラートがなりっぱなしだ。
「-紅音、雪人、駄目よ訓練は続行。ルートを加速訓練ポイントまで修正して-」
20年もの前のユニットを引っ張り出して来て訓練する程やばい状況というのは分かるけど、紅音の嫌な気持ちが僕の心へ浸透していく。この受け入れた不快感。何とかしてあげたい。
「-加速訓練ポイントへルートを修正しました。現在の相性は35%です-」
紅音が黙ってしまった。感情がシャットアウトされとても冷たく一人で飛んでいる。こんな真っ暗な海の上で孤独にさせたくない・・・・・・。
かすかに紅音の指先の震えが僕の指先に伝わってくる、何度も僕に助けを求めるかのように。さらに機体のエンジン音も段々弱くなってきた。このままでは駄目だ。
「紅音!紅音!一人にはさせない、どこまでも一緒だ。とにかくこの訓練だけ終わらせよう。君は一人じゃ無いんだ!紅音!」
飛行ルートがガタガタになっている。振り返ると訓練ルートのラインに対して実際の飛行ラインがめちゃくちゃだった。僕ではエンジン制御は出来ない。だから少しでも一緒に飛ぼうと両手を翼のように広げた。風に押され風という今に逆らう。だけどたまに触れ合う両手・・・・・・。すると少しずつ機体のエンジンが小さいけど一定なエンジン音に変わる。
『-アンタなにやってんの-』
FLDでのメッセージだがやっと話してくれた。直接話さず小さな通信だがちゃんと僕に届いた。
「ほら、両手に風を感じる。海は泳げないけど僕達は鳥になれる。怖いのは紅音だけじゃないよ。僕だってそうだ。一緒に乗り越えて耐えて。世界中を飛ぼう。フランスだけじゃない。日本でもどこでも」
何か少しだけ温かい物を胸に感じた。ふわっと。視界が上がり軌道が安定していく。加速訓練ポイントまで後もう少しだ。段々と視界もクリアになってきた。
「-加速訓練ポイントに到達します。ストライクユニットを全開にしてください。現在の相性は45%です-」
さあ行こう紅音。まだ不安だけど今精一杯やれる事をやって覚えられるだけ覚えて、帰還しよう。後もう少しだ。力いっぱい目の前のルート表示に集中した。ストライクユニットの翼が可動し小さくなった。
そしてエンジンから爆音がする。一気にメーターが上がり紅音の視線が殆ど前を見ていなかった。エンジン内部の細部まで動かしひたすらまっすぐに飛んでいる。後は僕がルートにそって行くように紅音を導いていくだけだ。
手を繋ぐ指先から胸の内側までゆっくりと心まで温かさが伝わるように。顔にはビリビリと衝撃波と高熱が伝わる。風を切り裂く音から次第に空気の層を打ち破る音に変わっていく。速度の数値が赤く点滅し超高速度危険アラートが鳴り始めた。
夜の世界がこんなに暗かったとは。二人だけの世界でもう何も見えない。このままでいい。
「-音速を超えました。加速訓練は成功です。帰還ルートに変更します。現在の相性は80%です-」
身体が熱い。とても敵の攻撃をかわせるような状況ではなかった。姿勢を保つだけでも精一杯でそれでいて切り札のEBRSも使えないなんて。帰還ルートへとルート変更する為に少し身体を傾ける。徐々に減速し翼を広げた。超高速度危険アラートが鳴り止んだ。
「うっさいてーの!この馬鹿システム。それにこのポンコツエンジンを無駄に2つもぶら下げて、この紅音様じゃなければこんなポンコツ制御できないってーの!」
単なる強がりに思えたが紅音が嫌だったのはおそらく練習する姿を見せたくなかったのかもしれない。何度でも這い上がってきたという強い意志。誰よりも多く一歩でも前に進む為にこれまで生きてきた証。
「紅音、また違う世界を一緒に見れた、この空はとても広かった。これからもずっと新しい世界を見ていこうよ」
「なによ、えらそーに」
空母へ着艦するまでのルートに乗った。高度を下げながら周りを見渡すと星空でいっぱいだった。紅音も見ているだろうか。高度が下がり雲の中へ入っていく。
雲を抜けると真っ黒な海に月明かりが反射しキラキラしているのが分かった。ルートの途中には分岐ポイントのようなものがあり、青いラインとオレンジ色のラインで2つに分かれている。するとリナさんからのメッセージが入る。
『-デート中悪いけど、途中でストライクユニットを切り離してねー』
この小さなメッセージはとても簡単に書かれているがストライクユニットを切り離すって本番での使い方を考えるとぞっとした。あのニューアメリカ艦隊が協力してくれている訓練だし、かなりの鍵となるのだろう。少しずつ分岐ポイントまで近づく。
「-ストライクユニット、パージポイントまで5秒、4、3、2、パージしてください-」
紅音がすっと背中のストライクユニットを切り離す。そっと丁寧に。僕達と少しずつ距離が開いていく。さっきまで嫌がっていたストライクユニットが隣に見えた。自動運転でふらつきながら青いラインに沿って飛んでいく。背中のエンジンから少しずつ元気よく音を鳴らし僕達はオレンジ色のラインに乗る。
「-着艦まで、60秒、加速してください。現在の相性は80%です-」
そして加速、減速し体勢を整える。僕達は無事にニューアメリカ艦に着艦した。気のせいかも知れないが、このほんの十数分で紅音との距離が縮まった気がする。
こんな暖かく優しい翼で本当に戦わなくては行けないのだろうか。
「-目的を達成しました。帰還ルートを検索中です。現在の相性は80%です-」
もう切断されるのか。そう思っていたら何か胸に温かい物を受け止めたような重さがあった。それは今までとは違う、触れたり離れたりしていた何かだった。
「-ふん。なーに終わった気でいるのよ。これからよこれから。また飛ぶんだから、両手でも広げて練習でもしてろってーの!-」
ブツと切断された。FLDが突然真っ暗になる。かわいいやつだな紅音は。身体に指先からビリビリと神経を伝わって自分自身とつながる。血液が膨張して行くように勢いよく流れていき、足の指先から頭のてっぺんまで。呼吸が暫く荒くなるがもう落ち着かせ方を知っているのでなんともなかった。
どんどん大切な仲間が増えていく。生きる楽しさを教えてくれた。
僕は今日、夜空に君と飛んだ。




