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core14:ランスポーツⅢ

>読みやすいようにしました。

 装甲車に乗りリナさんのマンションに戻った。今日の夕方にはローマンがマンションに来るとの事だったので、気合を入れて部屋の掃除をした。いやさせられた。


 ダンボールから取り出したのは組み立て式のイスで工具を使わず組み立てられるようだが、これがなかなかの曲者でイスになるまでに時間が掛かってしまった。


 リナさんから買い物メモを貰いいつもの場所へ小型自転車で向かう。ローマンは味は分かるし美味しいものをご馳走したい。張り切ってお使いを済ませマンションへ戻った。


 いつもと変わらないエレベーター。20階で降りると目の前には小さな銀髪の少女がたっていた。こんばんはと挨拶するも特に無反応だった。足元を良く見るとアンドロイド特有の足が一体型。しかしこの少女は普通の服装だった。


 法律では禁止の様だけど服はいいんじゃないかと思う。再び少女に向かって軽く挨拶をしてリナさんの部屋に到着しドアを開けると複数の声がする。


「雪人さん、お邪魔しています。今日1日よろしくお願いします」


 目の前には白いノースリーブのワンピース姿のローマンがいた。その金色の髪はとても美しく。何度みても見とれてしまう。リナさんに買ってきた物を渡し、ローマンを自分で組み立てたイスに座ってもらう。


「立ってないで、座っていてください」


 ローマンに座ってもらう。うう、自分は何をすればいいのか。リナさんはいつものごとくニヤニヤしながら台所の前で腕を組んで立っていた。


「ほう。私には座らずに料理を作れと。ほう。この差はなんですかね」


なんて意地悪なんだこの人は。


「僕も手伝いますので、一緒にやりましょう。ほら」


 するとローマンが立ち上がり。食材に目をやった。少し考え込むと。あっと。手をたたき。何か答えが出たようだった。


「これは、ビーフストロガノフですね。私も作ってみたいです」


「よっろしくー!!」


リナさんはいつの間にかイスに座っていた。行動が早すぎる。


「ほらほら、お二人で作りなさい。新婚さんみたいにね」


 いったいこの人は何を言っているんだ。しかもビーフストロガノフなんて作った事が無いぞ。ローマンは調理道具と食材を眺めて淡々と並べていった。


「これなら簡単につくれそうです。なぜかこのアンドロイドの身体の標準仕様のようで、ロシア料理ならなんでも作れるようですよ」


 すると当たり前かのように作り始め、僕は邪魔になるだけなので片づけを手伝った。あっという間に出来上がり並べようとテーブルを見ると、新しいテーブルクロスだった。もちろんウサギのデザイン。3人分を並べみんなで食卓を囲んだ。


「いただきまーす」


 これはとても美味しい。口の中でとろけてローマンの生まれ故郷ロシアでみんなでディナーを食べているかのようだった。


「ローマンが料理を出来るのは知っていたけど、ここまで美味しいとは思わなかったわ。以前にアイヴィーに作らせたら健康状態に合わせたカウンセラー用の花が出てきたわ」


 この人はいったい何をやってんだか。ローマンの口をつけたあとの小さな皿を貰う。もちろん食べるのは僕の役目だ。


「雪人さん、あまり沢山食べると、おなかが痛くなってしまいますよ」


「ローマンが作ってくれたんだ、全部食べるよ!」


ローマンが水を差し出してくれたので全部飲み干し完食した。


「ご馳走様でした!」


 美味しい料理を食べた後は3人で片付け、あっという間に夜になってしまう。今日は時間が経つのが早すぎる。明日にはローマンはフランスに行ってしまうから。するとリナさんがローマンを連れてリナさんがいつも寝ている部屋へと向かった。


「ちょっと覗いたら駄目よ。若いから気をつけないと」


 なんという濡れ衣だろうか。勝手に覗き魔にされた。ドアを閉じると僕はソファーで待機だった。数分するとドアを少しあけてリナさんが顔をだした。


「じゃじゃーん、これからファッションショーの始まり始まり」


 するとドアが開きドレス姿のローマンが出てきた。美しい。思わず端末を取り出して写真を撮ろうとしたが、すぐにドアを閉じられてしまいローマンが見えなくなってしまった。


「続いてはー、カジュアルに決めてみました。雪人君の大好きな足元が大胆セクシーです!」


 なんで余計な事を言うんだと思ったら、ミニスカートでちょっと恥ずかしそうにするローマンがそこには立っていた。次にはどう見てもリナさんの服のオンパレードだった。スーツ姿もいいなと思いつつ、最後には清楚なひらひら舞うワンピースだった。


アンドロイド用では無く本来着るべき服。とても似合っている。


「今日はこのままでいいわよ。マンションの中だったら、特に大丈夫だから」


暫く見とれていると、ローマンが少しずつ近づいてきた。


「あんまりそんなに見つめられていたら、動けません。もう動いてもいいですよね」


 あ、っと我に返った。自分の顔が真っ赤になるのが分かった。それに時計は夜中になっており。いつも通りリナさんが先にシャワーに入る。すぐに自分の部屋に行き寝てしまった。僕もささっとシャワーから出るとローマンはベランダに居た。


「日本のマンションはどこもレーザー防壁ばかりになっていて、外は何も見えないのに、このベランダにいったい何の意味があるのか分からないよ。せめて外ぐらい少し見えてもいいと思うんだけど」


 でもローマンは外を見ているようだった。赤く光る目の輝きはゆらゆらしていて、温かさを感じる優しい光だった。でも悲しそうな目でもあった。顔が緩やかな時間の流れにそうかのように下を向いてしまった。


「私は人であった記憶がありません。物心がついた時にはすでに人型とはとても言いがたいロボットの身体でした」


 ローマンには今日は楽しくして欲しいと思ったが、こうやってちゃんと話してくれるのなら全部受け入れたい。つらいこと悲しいこと、僕なんかで少しでも支えられれば。


「時には人ですらなく。戦闘機と一体化され暫く格納庫にいました。毎日誰かが操縦し、飛行訓練の補助をしては格納庫で日々を過ごす。そんな世界しか私は知りませんでした」


 ローマンから涙が零れ落ちる。そっと僕の右手でぬぐい。頬に手を当てた。どんなに辛い事だっただろうか。僕には到底分かってあげる事の出来ない世界だった。時間という命を誰かが奪ってはいけない。


 ローマンがしゃがみこむ。こんな一日中真っ暗なベランダ。まさにそういった場所を思い出させたんだろうか。僕は両手を握り締めた。


「僕が知っているのは小さな世界だけど、一緒に同じ時間、同じ道を行こう。思い出に残して欲しい場所があるんだ」


 ローマンの手を握り締めて部屋を出た。エレベーターを降りる。不安そうにするも力いっぱい指先と手の平から伝わる体温と気持ちを一緒に飛んでいる時のように共有させた。


 マンションからでて外の駐輪場からいつもの小型自転車を取り出した。後ろにローマンを乗せて。


「ごめん後ろで足をそこに乗せて立ってみて。僕の肩につかまってね」


少しずつ進みだしローマンが僕の肩につかまる。


「こうですか、ちょっと驚きました。これで進めるんですね」


あの丘への道へ向かう。夜空がとても綺麗だった。


「風を感じるかい?二人で飛ぶ世界とこの世界は一緒なんだ!」


「はい!」


 もう一人にはしない。寂しい思いはさせない。思いっきりペダルを踏みしめた。この空ではエンジンをローマンがコントロールする。今度は僕の番だ。背中にローマンが近づいてきた。すると密着しそっと抱きしめられた。


「怖い事が沢山ありました。それは生きたいという事に対する事ではなく、どうやって生きていくかという事に対してでした。でももう怖くはありません。恐らく幾つもあるであろう答えから、ちゃんと自分自身で選ぶことが出来ましたから」


 背中越しに温かいものとやわらかい物がくっついて恥ずかしい。速度が落ちてしまった。このままどこまでも行きたい。


「雪人さん、どうか私の鋼鉄の翼に、雪人さんのように暖かく大きな羽を授けてください」


美しい声はこの風さえも一生に残るような風景した。そんな言葉を聞かせてくれた。


「君はすでにこの世界に希望を与える羽を持っている。まるで天使のようだーーー!」


 途中で言っていて恥ずかしくなってしまい、思わず思いっきり叫んでしまった。


 二人で笑いながら坂を下る。夜空を眺めていると小さな飛行機がとんでいた。防犯、監視用のドローン。こんな人よりも美しい笑顔のローマンを見てアンドロイドとは思わないだろう。


 だけど真夜中に女性を連れまわしてしまったので、まずいと思いしぶしぶ戻る事にした。上り坂が多く。一旦止まってしまうと漕ぐのが大変なので一緒に歩く。


 あの大きく真っ黒で真っ暗なマンションに戻る。街頭の明かりがまぶしく。ときにローマンの赤い綺麗な目は、暗闇の中で見つめていると吸い込まれそうになった。


 エレベーターの中で再び手を繋ぐ。そのままリナさんの部屋に戻り僕はソファーで寝る。ローマンにはベットで寝てもらった。


朝になり、いい香りで目が覚めた。初めて聞いたがピロシキという料理を作ってくれた。


「もうそろそろローマンは出発するから、食べて着替えてね」


 ローマンはいつものワンピース姿に戻っており、その上からリナさんのウサギさんエプロンをつけていた。美味しくピロシキを頂きすぐに着替えた。3人で一緒にエレベーター降りる。


ランスポーツでみた整備車両があり、どうやら運転手さんはマイクさんだった。


「みなさん、おはよう!雪人君、お別れのチューはいいの?」


何を言っているんだこの人は。そう思ったら僕の頬にローマンの唇がかるく触れた。


「とても楽しい一日でした。これからは遠くの国ですが、また一緒に飛んでください」


「またね。ローマン」


「ほらほら、乗った、乗った。間に合わなくなっちゃうわよ」


リナさんがぐいぐいとローマンを整備車両に乗せた。車の中からローマンが手を振る。


次に会う時はデートじゃなく戦いだ。


覚悟を決めた。そう、初めて出会った時から。


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