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core13:ランスポーツⅡ

>読みやすいようにしました。

 レースまで後1時間。装甲車内ではリナさんとマイクさんが話していた。どうやらマイクさんから珍しく提案があったようで、リナさんはその内容に驚いていた。


 今回のレースは一旦衛星を中継せずにこの車から直接通信したいと。通常はどのチームも衛星を使う。なぜなら衛星自体が処理能力が非常に高いスーパーコンピューターで地上での通信と速度も変わらないからだそうだ。リナさんがまた難しい顔で無言になる。


「だってよ、こんなチャンスめったに無いぜ、他社の高性能の機体と張り合いながら、テストできるのは。日本の街中でエンジン全開だし。いつ日本が戦場になるかもわからないんだぜ、俺達だけ海外に逃げて日本に紅音とローマン残して戦わせるなんてなしだな」


「確かに直接通信テストはやりたいんだけど。ビリな上に次の作戦で失敗になったら、私達はクビになっちゃうわよ。まあー、彼が頑張るからやらせて見ましょうか、それじゃー残り時間で練習しましょう~!」


 リナさんがこっちを見てサングラスをずらしてウィンクした。なんじゃそりゃと思うが僕は考えるのが無駄だと思ったのでコクピットに入った。リナさんがドアまで来る。


「わかってるじゃない。さっすが~」


 もういつものパターンなので。無言でシフターシートと呼ばれるイスに座った。本当に心地よくフィットするこのシート。目を瞑りリンクさせる。全てをゆだねて深く深く沈んでいく。


「がんばったらご褒美あるからね」


 一瞬ドキッとしてしまったが気にせず意識を集中させた。目の前に緑色のFLDが表示される。そしてマイクさんから通信が入る。


「俺ら以外の機体は特別仕様のオンパレードだ、ぶっちゃけ量産機且つ初期型のローマンでは到底勝ち目が無い。そこで賭けることにした。衛星通信を使わずこの装甲車からの直接通信、チェインドライブだ。ゲーム感覚でも操作できるが一歩間違えると自分がどこにいるかもわからない綱渡り状態になっちまう。パイロットの腕に左右されるんだぜ」


「そんな、突然・・・・・・。分かりました。ローマンの為にも練習します。始めてください」


 やめましょうと言いたいがどうせ却下されるので素直に受け入れた。そうだ。他が特別仕様だろうと紅音と一緒に空を飛びタイタンを倒したんだ。きっと他のパイロットとは違うだろう。


 残り30分ほどだが、チェインドライブを練習した。これはローマンのセンサーと装甲車のセンサーで感度を増幅させ通信速度を少しだけ上げる事が出来る。ゲーム感覚と言うのは装甲車のカメラとセンサーによって擬似的に作り出したローマンの背中からの視点、いわゆる三人称視点も見る事が出来るのでレースの様に競う場合は有効かも知れない。


 限られた時間で練習した。シミュレーターだけどコースアウトする事無く落ち着いて出来たと思う。



 そして大会が始まる。ローマンに繋がった。スタートラインに全機体が一列に並び大会のアナウンスアンドロイドがチーム紹介を始める。


「それでは、日本では第4回、ランスポーツがいよいよ始まります、各チームの紹介です」


結構凄い声援が聞こえる。こんなに人が集まるとは思わなかった。


「イタリアより、神速のエンジンを持つ『蹄鉄の翼』ディオーネ!」


 イタリアってフランスに近いじゃないか、わざわざ来てくれたんだな。黄色のボディーカラーで流線的なデザイン、というかデザイン重視なのか背中のメインエンジンが大きな機体だった。女性ラインが非常に際立っており、一言で言うならセクシーだろう。


「王族の翼に仕える騎士、イギリスから『竜騎士の翼』マーガレット!」


 銀色の機体に赤い紋章のようなものがあり薔薇だろうかすごくエレガントだった、王族用もあるのかな、とにかく装飾がすごい。とても力強く頼りになる騎士だろう。戦場では味方だと思うと頼もしい。


「そして最新の機体!台湾は『翡翠の翼』輪花りんか!大期待です!」


 あの丘に降りたのはこの機体なのか、雷花と似たフォルムで全体的に黒く、紫色と緑のラインが入っていた。他にも言えるが沢山のロゴもありサイズが小さく感じた。最新なんだ。


「今回は日本からは2機、そして優勝候補、『紫電の翼』雷花です!」


 ローマンのこめかみ辺りがぴくっとした。紫電の翼という言葉に反応したのだろうか、雷花が空手のようなポーズを決める。


 優勝候補とはしてやられたと思った。確かに雷花だけエンジンが沢山ついているし、翼が無いデザイン。高起動で走るタイプって聞いていたので納得した。だがまてよ。さっきからみんな。『通り名』みたいのがあるんだが。


「リナさん、ローマンにもなんとかの翼ってあるんですか?」


「-私は考えてないわ-」


即答だった。え?私は?すると雷花がこっちを覗き込んで口が開いた。


「-お姉さまの名、私が登録しておきました!-」


 隣で雷花がニコニコしながらがんばって練りました!誉めてくださいアピールをしてきたが再びローマンのこめかみ辺りがピクっと動くのがわかった。


「同じく日本、王道のロシア製量産型、『氷の雷帝』ローマン!」


 ええぇ~・・・・・・。氷の雷帝。ローマンのイライラするポイントに直接電撃が走り顔が引きつったのがわかった。しかし雷花は子犬のような笑顔でこちらを向く。やめておけ言いたいが。なぜローマンだけ翼シリーズじゃないんだ・・・・・・。黙っておけばいいのに雷花から通信がくる。


「-祖国ロシアとメインコアエンジンから電撃が放たれるイメージです!-」


そんな雷花の期待と裏腹にローマンの強烈な一言で大会が始まることになった。


「雷花、後でお仕置きね」


「-うう~ そんな~~-」


雷花うなだれる。


「それではお待たせしました!ランスポーツのカウントダウンスタート!」


 FLDのカウントダウンが始まる。ここで優勝すれば資金と優先して最前線で戦う権利を得られる。自分的には遠慮したいがフランスの為、世界の為、何よりも一緒に戦うみんなの為に強くならなければならない。


 一列に並んだエンジン音が徐々にあがっていく。重低音から高音までさまざまな力を振動と共に手や顔をビリビリとしびれさせる。ローマンも僕も緊張していた。


「-現在の相性は70%です。ルートを表示します-」


 アイヴィーからの最小限の通信が入る。FLDには武器や目標も無いので、視界がシンプルだった。


「5、4、3、」


 カウントが始まる。全てのエンジン音が最高潮に達する。機体の吸気口から大量に空気を吸い込む。もう迷ってないから大丈夫。僕達だけの心地よく規則正しいエンジン音だけが聞こえる。


「2、1、GO!」


 一斉にスタートした!雷花と輪花が一気に先頭に出るも後からのディオーネの追い込みがすごかった。ただ僕達は一歩遅れて確実に最後尾だった。今までで一番早いタイムで走り、ジャンプし、スライディングしロールしたが、圧倒的に機体の性能差が出てしまった。


 ゴールではリナさんが迎えてくれた。エンジンがオーバーヒートすれすれでクールダウンが追いつかない。


「ま、こんなもんかなー、ベスト更新おめでとう!」


 リナさんが笑顔で迎えてくれた。外は非常に熱いのに待っていてくれていて、扇子でローマンのメインエンジンを扇ぐ姿はとても可愛らしかった。するとローマンが思いがけない事を言った。


「紅音なら上位に食い込めたかもしれません。ですが私自身の限界を知る事が出来ました。この日本で戦いの無い大空を一緒に走る事が出来た事のはとても素晴らしい時間でした。次は紅音でしょうか、ちょっと嫉妬してしまいそうです」


リナさんが、またニヤニヤしながらよってきた。


「ふーん、がんばったからご褒美として特別に私のマンションに泊まりなさい。明日には出発だけどね」


え、あの部屋に泊まるのか。しかし寝る部屋はもうないけど。


「ありがとうございます。でも・・・・・・。私でも大丈夫ですか。アンドロイドの姿ですが」


 ローマンのアンドロイド姿は美しいしいいに決まっている。リナさんのマンションではあまり見かけなかったけど大丈夫なはずだ。するとリナさんがローマンの耳元でささやいた。


「あのマンションはね結構オープンだから、アンドロイドの体でどんな服を着ていても、誰も文句を言わないのよ。だから気にしなくていいのよ」


 ローマンが小さく笑顔になったような気がした。そして優勝した雷花はなんだかローマンに話したそうだったが、カメラや取材の人だろうか囲まれており近づく事は出来なった。すると雷花から直接通信がくる。


「-アンドロイドの身体はお姉さまと同じモデルにします、髪型はやっぱりショートカットがいいですか-」


 ローマンは暫く考えると通信を送ったようだが僕には見えなかった。女性同士の会話に入るのは良くないな。でも見てみたい。ローマンのショートカット姿も。想像をしていたらFLDの表示が変わった。


「-目的を達成しました。帰還ルートへ行動します。現在の相性は80%です-」


 真っ暗になりFLDだけになった。呼吸が荒くなる、指先、腕、足先、太ももそして胸へと血液の熱さ体が重くなり、やがて痺れがくる。汗はあまり出ていなかった。


コクピットのドアが開きマイクさんが待っていた。


「よ、すげーじゃんよ、チェインドライブ大成功だったぜ!かなりデータが取れた。なんせフランスでは出来ないからな。ほらよ」


 といってマイクさんから手渡されたのがファーバーフォトだった。いつも思うがこの透明な薄いカードによくこんな綺麗な写真が、ってこれはローマンと僕じゃないか!?


 それも整備車両で顔を近づけている写真だ。いつの間に。急いでファイバーフォトを振って消した。でも後で見よう。そっと着替えのポケットに忍び込ませた。


「ありがとうございます」


「ハードル高すぎるぜ~あっははは、ローマンはもう別の車両に入って行ってしまったぞ、ほれあの車両じゃないか?他社の機体も一緒だけどな」


 僕はパイロットスーツのままあわてて外に出てローマン達の乗っている大きな車両に手を振った。ありがとう、感謝だけだった。今日一日で沢山の人達に会う。みんな戦うだけの戦闘マシーンではない。人間であり個性であり、なによりも平和であることを誰もが望む世界なんだ。

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