軌跡の始まり
寂しげな海岸に一本の松、
打寄せる波の飛沫は高々と舞い上がる、
街道沿いの林が海からの荒風を拒み、
枝葉のこすれる音が延々と続いていた、
一本の松の下で何かが動いた、
サルっぽい顔をした小柄な人物だ、
腰には棒状のものを何本も刺していた、
その人物が手を振って何かを叫ぶ、
荒風の音にはかき消されぬとばかりに馬の樋爪の音が響く、
綱を引っ張られ、荒い鼻息とともにその場を何周かすると、
背中に乗せていたたくましそうな人物が降りた、
「漸く見つけましたぞ、ここより見える大洋は絶景でございます」
何日もかけてようやく見つけた絶景だったようだ、
その興奮する口調からも想像は難しくはないであろう、
松のその先に足を進ませつつたくましそうなその人物は天晴れとつぶやいた、
「信長様!?それ以上は危険です!!」
打寄せる荒波が荒岩に砕かれて飛沫となって舞い上がった、
小柄な人物はその光景に圧倒されていた、
憧れの人が、波飛沫、その向こうの大洋と重なりまことに壮麗だった、
「サルよ!!この大洋の向こうに、お前の目からは何が見える!!」
「は!その心は!」
「あの向こうに何が見えると聞いておるのだ!」
「は、私めの様な小生には水平線しか見えませぬが...」
するとどうだろう、
隣に立つたくましそうな人物は声を上げて大笑いをしだした、
小柄な人物は一体何があったのだと言わんばかりに戸惑っていた、
「いいか秀吉、あの大洋の向こうに」
一呼吸を飲み込んで、
ゆっくりと、彼は語りだした、
「未知の大陸、そしてさらにその先には文明の中心地、欧州がある!」
「信長様、まさかこの大洋を!?」
「そうと決まれば、さっさとこの国を、俺たちで治めてやろう!」
そういうと彼、後の天下人織田信長は風のように馬に乗り駆け出して行った、
街道に砂埃を立たせながら、
「...やはり信長様はもっと先を見ておったか、流石でござる、」
そういうと、豊臣秀吉も街道を全速力で駆け出していった、
これが、
この国の始まりであり、
鎌倉時代より思い積み上げられてきた対外意識の明白な確立の瞬間であった、
この瞬間が、この国を変えていくことになるとは、
このときまだ誰も考えもしなかった、
時に1500年代前半の某月某日、
この国は、
スタートラインを見事に切ったのだ