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黒犬と旅する異世界 ~黄昏と黎明~  作者: 緋龍
全てを知り未来を選ぶに至った理由
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五十五話 私ノ俺ノ路1

 天空と地上の星が静かに輝くなか、村はずれにある広場に、激しく動き回る二つの人影があった。


「うおおっ! せやっ! はあっ!」


 一人はキールで、愛用の小振りの剣で、もう一つの影に絶え間なく攻撃を繰り出している。


「ほらほら、もっと早く動かないと俺には当たらんよ」


 もう一つの影はディーだった。素手のままキールの剣を余裕でかわし続けている。当たりそうな気配は全くない。


「くっそー! まだまだぁっ!」


 一度後ろに下がり距離を取ると、キールは高く跳んでディーの頭めがけて剣を振りかざした。


「隙だらけ、んおっ?」


 身体を反らして攻撃をかわそうとしていたディーは、さっと大きく後ろに跳んだ。キールは剣を振ると見せかけて、蹴りを繰り出したのだ。ディーが開けた距離を素早く詰め、今度は足と剣の両方を使って攻撃する。先ほどよりも動きが早い。


「少しはましになったじゃないの」


 ディーの口元に笑みが浮かぶ。

 しばらくの間、広場には剣が空を斬る音と荒い息づかい、それに二人が踏む草の音が響いていたが、ディーがキールの腕をぱしっと掴んだことによって、そのうちの二つの音が止まった。


「ほい、終了。これ以上は明日に響くわ」


「くっそー! 当たらねえっすー!」


 ぜえぜえと肩で息をしながら悔しさを顔に滲ませるキール。額には汗がびっしりと浮かんでいる。一方のディーは涼しい顔のままだ。実力の違いがはっきりと分かり、キールはばったりと地面に倒れ込んだ。

 彼は夕食後、ディーに頼みこんだのだ。強くなりたいから稽古をつけてほしいと。最初はめんどくさいから嫌だと渋っていたディーだったが、しつこく食い下がってくるキールに根負けしてしぶしぶ承諾した。


「まあまあいいんじゃない? 攻撃は単純だから人間相手だと読まれやすいけど、そこを工夫すれば結構強くなると思うわよ。ま、頑張んなさいな」


「ほんとっすか! うおおおっ、俺はやるっすよーー!」


「若いっていいわねえ」


 草の上に大の字になって叫ぶキールを、苦笑しながらも眩しそうにディーが見ていた。 



 村の入口近くにはマールの姿があった。村のところどころにある柵の一つにもたれかかり、空を見上げている。と、そこにエルがやってきた。


「こんなところにいたのですか。マールさんは稽古はいいのですか?」


「あ、エルさん。ちょっと星を見てたんですよー。私とディーさんじゃ力に差がありすぎて稽古にならないですからー」 


「確かに今日は晴れていて星がよく見えますね」   


 そう言いながらエルもマールから少し距離を開けて柵に身体を預ける。


「そうなんですよー。だから見つけられるかなって思ったんですけど」


「見つける? 何を見つけるのですか?」


 マールの言葉にエルは首を傾げた。空を見上げてみるものの、彼女が何を見つけようとしているのか見当もつかない。 


「フェリシア姉さんとレヴァイアさんの星ですー」


 星から視線をエルに移してマールは、はにかみながら笑う。


「え?」


「えっとですね、ライカ姐様ねえさまの世界では死んだ人は星になって空から地上にいる人を見守るって言ったりするそうなんです。姐様は生きている人がそうであってほしいと思ってるだけなんだけどねって言ってましたけど、本当に見守ってくれてたらいいなと思って、たまに探すんですよー」 


 レヴァイアさんは強いから輝きも強い星で、フェリシア姉さんはその横でひと際綺麗に光る星だと思うんですよねーと話すマールに、エルは何と返せばよいのか分からず言葉を詰まらせる。

 レヴァイアとフェリシアのことはザーラグに滞在しているときに双子から聞いていた。二人にとってどんな存在で、どんな経緯で死に至ったのかも。何故賞金稼ぎになったのかと世間話のつもりで訊ねたエルは、その話を聞いて軽い気持ちで訊いたことを後悔した。そして、そんな経験をしながらも前向きに明るく生きようとする二人を、とても強い人間だと思った。


「マールさん、その、私も貴女を見守りたいと言ったら――」


「あっ、あの星! レヴァイアさんっぽいですー! あれ? エルさんがっくりしちゃってどうしたんですかー? そういえば、今何か言ってましたね。ごめんなさい、全然聞いてませんでしたー。もう一回言ってもらってもいいですかー?」


「……何でもありません。冷えてきましたし、そろそろ戻りましょう」


「はーい」


 先に歩き出したエルの後ろを、マールが髪を揺らしながらとことこついてくる。 

 実はエルはマールに仄かな恋心を抱いているのだが、今のところその想いが伝わりそうな気配は微塵もない。父であるディナム侯爵に彼女を紹介できる日は、まだまだ遠そうだった。   

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