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黒犬と旅する異世界 ~黄昏と黎明~  作者: 緋龍
全てを知り未来を選ぶに至った理由
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五十四話 森ニ佇ム村

「すごい……」


 木蘭から降りた雷華は感嘆の溜息を漏らした。他の面々も似たような感想を口々に呟いている。

 辺りが夕暮れから夜に変わるときに辿り着いた、原初の森とケイラーダのほぼ中間にあるハーシュは、とても特徴のある村だった。

 まず、村自体が小さな森の中にひっそりとあり、街道がなければどこにあるのか分かり難い。次に、建物と木が一体化している。木と木の間に家を造っているようで、屋根からこんもりとした葉が顔を出していた。何らかの対策がされているのだろうが、雨漏りはしないのだろうかと心配になる外観だ。中には入口に繋がる階段以外が、地面から離れている家もあった。

 さらに、一番眼を惹くのが村の地面で、至るところが仄かに青白く光っており、まるで星が地上に落ちてきたかのようだ。もちろん実際には星が転がっているわけではなく、花が光を帯びているだけなのだが、それでも不思議なことに変わりはない。


「自然と共存してるようですね。素晴らしい」


「あ、リオン様お待ち下さい」


 眼を輝かせて足早に歩いて行くリオンを慌ててエルが追いかける。


「おいマール見てみろよ、花が光ってるぞ!」


 キールもマールの腕を引っ張り、光る花が一番密集しているところに走り出した。


「おっさんずっと御者台にいて疲れたわ。早く宿に行こうよー」


 双子の後ろ姿を見ながらディーが肩を回しながら口を尖らせる。


「先に行って俺たちの部屋を確保しておけ」


 璃寛から降りたロウジュは、冷たくそう言い放つと雷華の傍に来て木蘭の手綱を受け取り、二頭の馬を引き連れて歩き出す。

 キールがケイラーダの町で手に入れた――正確には怪我で療養中の町から町を移動しながら物を売る行商を生業にしている男から格安で借りた二頭立てのほろ馬車は、門番に頼んで村のすぐ外に止めさせてもらっていた。

 門番の男は最初、雷華たちを見てどこかの貴族かと思ったようで、もの凄い腰が低かった。クレイやエルが実際に乗っているため絶対にないとは言い切れないが、大抵の貴族は幌馬車になど乗ったりしないと思うのだが、男の頭の中では乗物よりも顔の方が勝ったらしい。

 もちろんこんなところで誰も身分を明かすつもりはなかったので、違うと首を振ったが、男は半信半疑な様子だった。


「兄さん冷たいわー」


「おーい、宿は村の奥にあるんだってさ。二軒あるみたいだけど、八人だったら『木漏れ日』がいいって言ってたぜ。あと、そこら辺で光ってる花は星花ほしはなって名前で、このハーシュにしか咲いていないらしい」


 村の入口近くを歩いていた人を捕まえて色々訊いていたらしいクレイが、小走りで戻ってきた。率先して情報を集めてくる彼の姿は、とても貴族には見えない。


「八人ではない、九人だ」


「まあまあ、そう怒らないの」


 不満げに短い前足でたしたしと地面を叩くルークを、雷華は笑いを堪えながらなだめた。

 先に進んでいたリオンやエル、村はずれにまで行きそうな勢いだった双子に声をかけながらクレイが村人から聞いた宿へと向かう。

 『木漏れ日』はすぐに分かった。民家より大きな建物がそこともう一つしかなかったからだ。入口には宿名が書かれた看板が掲げられ、窓からは煌々と明かりが漏れている。それに、これまで泊まってきた多くの宿がそうであったように食堂も兼ねているらしく、食欲をそそられる匂いが建物から漂ってきた。


「うおーっ、いい匂いっす! 早く飯食べたいっす!」


「そうですね、私も空腹を感じていますし、早く入りましょう」


 キールの意見に珍しく賛成したリオンが、先頭を切って宿の扉を開ける。「異議なーし」と言いながらディーが後に続いた。

 全員が中に入り受付で部屋を頼むと、宿の主人に二人部屋しか空いていないと言われ、八人と一匹は四部屋に分かれることになった。雷華とルークとロウジュ、クレイとリオン、ディーとエル、そして双子がそれぞれ案内された二階の部屋に入り荷物を置く。部屋の中にも木の枝が伸びており、うっかりすれば激突するという不安はあるものの、それ以外は快適に過ごせそうだ。


「何故お前が同じ部屋なのだ」


 洗面室で人間の姿になり服を着ていたルークが、戻ってくるなり顔を顰める。


「いいじゃない、前にもあったでしょ」


 外套をぬいで腰の木刀を壁に立てかけた雷華は、軽く溜息を吐きながら机の上に置いてあった水差しに入っていた水を飲んだ。


「納得いかん」


「お前が出ていけ」


「何だと!」


「はいはい、ご飯食べに行くわよ」


 もはや日常の一部となってしまっている二人の言い合いを手を叩いて止め、部屋の外に出る。ルークとロウジュはお互いを睨みつけながら雷華の後ろをついてきた。

 食堂で出された料理は、甘いような辛いようなしょっぱいような不思議な味で色合いも独特だったが、空腹だった雷華たちは文句を言うこともなく全て平らげた。


「ご馳走様でした。変わった味だったけど、慣れてくると美味しかったかも」


 食べ過ぎたかなと腹をさすりながら雷華は椅子から立ち上る。そして、ぐるりと視線を巡らせながら言葉を続けた。


「私はこれからちょっと散歩しに行こうかと思うけど……みんなはどうするの?」

   

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