四十七話 繋グ紅ノ鎖
ベッドの縁に腰掛ける雷華の前まで来ると、ディーは懐からあるものを取り出し、きょとんと首を傾げる彼女の首にそれをかけた。
「うわぁ、すごい綺麗……どうしてこれを私に?」
隣でマールも感嘆の声を上げる。雷華の胸元で煌くのは、蓮に似た花の中心に紅玉石が嵌めこまれた首飾りだった。銀で出来た花の部分はとても精緻な作りで、一目で高価なものだと分かる。
「それは“信愛の証”。この国の紋章に描かれているロウの花と、家族のような繋がりを求めるという意味のある血色の石の組み合わせは、王が贈る最大の感謝のしるしなのよ。最初は違う色の石が嵌められていたんだけど、陛下は変えられたみたいね」
「そういえば、そんなこと言ってたわね。すっかり頭になかったけど」
首飾りを眺めているうちに、最初にシェラルダに会ったときの執務室での会話を思い出してきた。確かに侍従のバフマーが、宮廷細工師に感謝の品を作らせていると言っていた。シェラルダの心の声を聞く直前だったため、てっきり自分を王城に留まらせるための方便だと思っていたのだが、彼女の言葉に嘘はなかったのだ。
「それと、あと一つ」
「まだ何かあるの?」
そんなにたくさん貰えないと雷華が思っていると、懐から何を出すわけでもなく、ディーはその場に跪いた。そして、部屋にいる人間全員の視線を集めるなか、おもむろに首飾りを取ると、そっと紅玉石に口付けた。
「賞金稼ぎディーの忠誠の証、ってね」
片眼を瞑ってにやりと笑うディー。次の瞬間、黄色い悲鳴と茶色いどよめきとどす黒い怒声が部屋に響き渡った。もはや混沌に近い。もし今、外の廊下を通りがかった人がいたならば、何事かと心臓を飛びあがらせて驚くことだろう。
そんななか、当の雷華はというと、
「なっ、なっ、何してんのー!」
顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせたあと、満足げに頷くディーの顔面に全力で拳を叩きこんだ。
「まったく、ふざけるのも大概にしてほしいわ」
ルークとロウジュを伴って自分の部屋に戻ってきても、雷華はまだぶつぶつ文句を言っていた。
ディーには二度とするなときつく言い渡したが、果たして本当に分かってくれたのかどうか。ロウジュが彼の首元に短剣を当てたとき、止めない方が良かったかも、などと物騒なことを考えながらベッドに勢いよく座ると、ルークが近づいてきた。
「ライカ、これ……」
そう言いながらルークは、首元に二つある紅玉石のチョーカーの一つを外して、雷華に差し出す。
「すまない、会ったときすぐに渡そうと思っていたのだが」
「そうだったわね。ずっとルークが持っててくれてたのよね、ありがとう」
受け取りながら礼を言う。ルークが自分のチョーカーをつけていることに気付いてはいたが、そのままでいいと思っていた。彼が時折、大事そうに紅玉石に触れているのを何度か見ており、それが何となく嬉しかったからだ。
掌で仄かに輝く紅玉石を眺め、しばし逡巡する。再び自分の首につけるのもいいが、それよりも……
「ロウジュ、ちょっと来て」
雷華は扉近くに立っていたロウジュを手招きした。
「なに?」
「これ、よかったら貰ってくれない?」
傍に来たロウジュにチョーカーを差し出す。
「ライカ!?」
非難めいた声を上げてルークが雷華の肩を掴む。その手に自分の手を重ねて、雷華はにっこりと微笑んだ。そして、ルークのチョーカーと、自分の首にぶら下がっている“親愛の証”と、手の中にあるチョーカーを順番に指差していく。
「これで三人お揃いでしょ?」
何の偶然か、シェラルダから賜った首飾りについていた石も紅玉石だった。ならば、三人で一つずつ持つのがいいと思ったのだ。それに、そもそもチョーカーを買うきっかけを作ったのはロウジュなのだから、持つのに一番相応しい人物とも言えるだろう。もちろん、ルークもロウジュも、雷華がチョーカーを買った理由など知る由もないのだが。
「いいの?」
「ええ、私とルークのお古だけどね」
「ありがとう。大事にする」
受け取ったロウジュは、嬉しそうにチョーカーを握りしめた。
「どういたしまして。えっと、そうね、ロウジュは手首につける?」
「うん。そいつと揃いに見えるのは嫌」
「なんだと」
殺気立つルークをまあまあとなだめ、ロウジュの男性にしては細い左手首にチョーカーを巻きつける。彼の白い肌に、紅玉石の紅が良く映えた。




