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黒犬と旅する異世界 ~黄昏と黎明~  作者: 緋龍
旅の終わりを感じるに至った理由
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四十六話 港ノ町ノ宿

 何事もなく順調に馬を進めることが出来た――黒髪二人のいさかいは何度かあったが――雷華たちは、予定通り王都エクタヴァナを発ってから三日後の夕方に、港町ザーラグに着いた。潮の香りを肌に感じながら、待ち合わせ場所であり、賞金稼ぎの双子が泊まっている宿『海辺の誘惑』に向かう。馬番に木蘭と璃寛りかんを預け宿の扉をくぐると、すぐに双子を含めた全員がいるのが眼についた。食事の最中らしく、彼らが座っている机の上には美味しそうな料理が所狭しと並んでいる。一階の食堂には他にも客が大勢おり、席はほぼ満席に近かった。

 座席と座席の間をぬって近づこうとすると、雷華に気付いたキールが手を振って大きな声を上げた。


「ライカねえ! ここっす!」


 食堂の喧騒に負けない彼の声で、周りの客がなんだなんだと宿の入口の方を見だす。思いがけず注目を浴びることになってしまった雷華は、小さくなりながら足早にキールたちが座る机に近づき、彼の頭に拳を落とした。その後を隣に座るマールが続く。


「いてっ! あだっ!」


「大きな声を出さない。皆さん、お待たせしました」


 キールが頭を押さえて呻き声を上げている。どうやらマールはかなり本気で叩いたらしく、周囲から、兄ちゃん大丈夫かー、と面白半分に心配されていた。 


「お疲れ、ライカちゃん。順調に来れたみたいね」


「お疲れ様でした。食事はどうなさいますか?」


「満席みたいだし、部屋で食べることにします」


 本当はここで食べてもよいのだが、ルークが黒犬の姿のため、雷華はそう答えた。


「そうですか、では鍵をどうぞ。四階の部屋を二つ取っておきました」


「ありがとうございます、リオンさん。じゃあ部屋に行きましょうか」


 リオンが懐から取り出した鍵を受け取り、ロウジュとルークを促す。


「そうだな」


「腹空いた」


 食堂の給仕をしていた女性に食事を部屋に持ってくるよう頼み、四階に上がる。部屋に入り荷物の整理をしていると扉が叩かれ、ロウジュと料理を持った宿の人間が入ってきた。人間の姿になったルークと三人で机を囲み、新鮮な魚介がふんだんに入った料理をぺろりと平らげる。少し食べ過ぎたかなと思いながら食器を食堂に返しに行くと、ちょうどリオンたちが席を立つところだった。

 唯一二人部屋を使っている双子の部屋に集まるのがいいだろうということになり、ルークとロウジュを呼びに行く。雷華たちが三階にある双子の部屋に行くと、そこにはすでに全員が揃っていた。


「いくら二人部屋とはいえ、さすがに八人が入るには狭いわね……」


 苦笑しながら中に入る。


「ライカ姐様、こっちに座って下さいー」


 二つあるベッドのうち、奥の窓側にあるベッドの縁に座っているマールが、己の隣をぽんぽん叩いて手招きをした。 

  

「ありがと、マール」


 マールの隣に腰を下ろし、改めて部屋を見渡してみる。

 入り口脇にある二脚の椅子に座っているのは、リオンとディー。キールはベッドの上に胡坐をかき、縁にエルが腰掛けている。ルークは窓枠に、ロウジュは扉に、それぞれもたれかかる様に立った。

 

「えっと、それで船の方は問題なく乗れるのかしら?」


「当然。俺ってば顔が広いから」


「私もヴェルク将軍殿と一緒に行きましたが、しっかりとした造りの船でしたよ。船長も……しっかりした人でしたね」


 何故かリオンは船長ついて話すとき、一瞬間をあけた。すらすらと言葉を紡ぐ彼が言葉を選ぶなど、かなり珍しい。


「……ええ、リオン様の仰る通り、とても、その、堂々とした方とお見受けしました」


 リオンに続きエルまでもが言い淀む。 


「そ、そうですか。じゃあ明日出港で大丈夫なのね?」


 気にはなったものの、深くは突っ込まないことにした。船長に多少問題があろうとも、無事にヴィトニルに着けばいいのだ。視界の隅でディーが笑いを堪えていることに、引っかかりを覚えないでもなかったが。


「うん、いいと思うよー。後で船長に言っとくわ」


「俺たち朝一で必要なもの買い揃えに行くっす」


 びしっと耳の横で手を上げるキール。


「キールとマールも一緒に来るつもりなの?」


 隣に座るマールを見れば、彼女は茶色の髪を揺らして大きく頷いた。


「もちろんですよー。どこまでもお供しますー」


「……本職の方は大丈夫なの?」


 双子の職業は賞金稼ぎだ。イシュアヌからこのクルディアに来て、さらにヴィトニルに行くとなれば、かなりの期間、休業することになる。だが、そんな雷華の心配をよそに、キールはえっへんと胸を張った。


「実はこの間、“真なる狼”の連中を一網打尽にしたんすよ! もちろん俺たち二人だけじゃなくて数人の仲間に手伝ってもらったんすけど。それでも結構な賞金を稼げたんで、しばらくは賞金首を追っかけなくても生活には支障ないっす」


「“真なる狼”? ああ、確か狼の刺青を彫った賞金稼ぎくずれの集団だったっけ?」


 同じ名前の女性“ライカ”と、墓地で会ったときにそんな話を聞いたなと、雷華は天井を見上げて記憶を探る。イシュアヌの王都リムダエイムで、フェリシアの墓参りをしに行ったときだ。あのとき、キールは“ライカ”に剣を向け、彼女を殺そうとした。


「あいつら弱いくせに害虫みたくしぶとい上に、逃げ足だけは早いのよねー。やるじゃないの、少年少女」


 ディーが無精髭の生えた顎をさすりながら感心すると、双子は歓声を上げて喜んだ。憧れの賞金稼ぎであるディーに褒められたことが、よほど嬉しいらしい。そんな二人の様子を見て、やはり双子には明るい表情がよく似合うなと、雷華は思った。 


「ま、いいわ。旅は大勢の方が楽しいからね。明日の買い出し、お願いするわ」


「はいっ、お任せ下さいー」


 今度はマールがびしっと手を上げた。双子だけあって行動がそっくりだ。


「あとは……あ、そうだ、肝心なことを忘れてた。ディー、船賃はいくらなの?」


「うん? ああ、そうそう、ライカちゃんに渡すもんがあったんだったわ」


 ぽんと手を叩くとディーは立ち上り、雷華に近づいた。 

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