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黒犬と旅する異世界 ~黄昏と黎明~  作者: 緋龍
旅の終わりを感じるに至った理由
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三十九話 登リ上ル楔

 ロウジュとリオンの持つカンテラが、楔の内部をぼんやりと浮かび上がらせる。横幅は三人が並んで歩いてもまだ余裕があるほどだが、高さは楔の外観に似つかわしくなく、一番背の高いディーが手を伸ばして軽く跳べば指先が天井に触れるほどしかなかった。

 外側と同じごつごつとした岩肌に、手を這わせながらゆっくりと進んで行く。どこまで続いているのかは分からないが、仮に楔の端から端まで歩くとなると、相当の距離がある。途中でカンテラの油が切れれば、待っているのは完全な暗闇だ。たとえこの先もずっと一本道だったとしても、光の全くない状態で歩くなど、恐怖でしかない。

 そんな事態だけは避けたいと切に願いながら、先頭のロウジュが持つカンテラの火がゆらゆらと揺れ動くのを見ていると、急に彼が立ち止まった。


「行き止まり」


「え、もう?」


 まだ歩き始めてから、そんなに経っていない。後ろを振り返れば外の光が、小さくではあるがまだ見える。一体どこまで続くのかと不安になっていただけに、雷華は拍子抜けした。


「だが、何もないぞ?」


 地面を見ながら動きまわるルークの影が、岩壁で絶え間なく形を変える。


「ですが、ここに何かあるのは間違いないでしょう」


「そうですね、行き止まりと見せかけてまだ奥があるのかも」


 壁を調べ始めるリオンを見習って、雷華も行き止まりの部分を掌で叩く。また壁が崩れるかもしれないと思ったからなのだが、今度は何も起こらなかった。


「同じ仕掛けじゃないってことか」


「ねえ、これじゃないの?」


「ん、どれ……って、これ!?」


 ディーの指は真上を指しており、雷華が視線を天井に向けると、そこにはぽっかりと人一人が通れる大きさの穴が開いていた。


「これを登れってこと、ね」


 深い溜息が零れる。穴は行き止まりの壁に沿うように開いている。つまり、壁をよじ登ればいいだけ、なのだが、


「出来るか、そんなこと」


 問題はそれが簡単にはいかないということだった。いくら岩肌がごつごつしているとはいえ、ではそこに足を掛けられるかといえば、答えは否。少なくとも雷華には到底出来そうになかった。


「これは困りましたねえ」


 隣でリオンが、頬に手を当てて眉尻を下げる。どんな仕草をしても美人は様になるのだなと、場違いな考えが頭をよぎり、雷華は慌てて首を振って考えを彼方へと追いやった。


「どうしよう、縄なんて持ってきてないわよ」


「俺が先に行く。上からライカを引っ張る」


「それでも途中までは登らないと手が届かないでしょう」


 ロウジュの提案に難色を示す。例え少しでも垂直の壁を登るのは至難の業だ。どうしたものかと頭を悩ませていると、壁にもたれかかっていたディーが突然「ふっふっふっ」とわざとらしい笑い声を上げた。


「ここは俺の出番のようだねえ、ライカちゃん」


「どういうこと?」


 自信たっぷりなディーに首を傾げながら訊き返す。


「おっさんの上……じゃなくて肩に乗ればいいのよ。そうすれば簡単に上がれるでしょ」


 ぎろりと三人と一匹から睨まれた将軍は、しょんぼりしながら言葉を続けた。

 前半の冗談はさておき、彼の案は至極真っ当だったので、雷華はすぐに実践に移すことにした。手順としては、最初にロウジュとルークが上に。次に雷華がディーの肩の上に立って、ロウジュに上から引っ張ってもらう。リオンも同じようにして上がり、最後にディーが自力で上がってくる、という単純明快なものだ。


「ちょっ、ディー、もっとゆっくり動いて。落ちる落ちる!」


「はいはい、お姫様。仰せのままに」


「ライカ、そいつの頭の上に立ってやれ」


「俺は男に肩を貸す趣味はないんだけどねえ。今回だけの特別奉仕だから」


「偶然ですね。私も好んで男性に触れる趣味はないんですよ。今回だけ、特別に我慢することにします」


「何の応酬をしているんだか……」


 楔の中に声を反響させながら順番に上がる。リオンを上に上げてすぐに、ディーが大剣を担いで、行き止まりの壁を蹴って跳躍し、上の階に軽やかに着地したところで、全員の移動が無事に終了した。再び列になって歩き出す。


「方向的には入口からどんどん離れていってるわよね」


 上の階に上がっても進行方向は変わらなかった。同じような一本道を黙々と歩く。しばらく行ったところで、また行き止まりにぶつかった。上を見上げれば、先ほどと同じ、人一人が通れる大きさの穴が開いている。


「また上に上がるの……って、戸惑ってても仕方ないわね。ディー、お願い」


「ほいよー」


 まったく同じ手順で上の階に上がる。そして進み、行き止まりで次の階へ。進むと登るを五回繰り返したところで、ようやく本当の行き止まりに辿り着いた。

 

「やっとあった。これだわ」


 暗闇の中で淡く光る白い石碑。間違いなく雷華が探し求めていたものだ。《宿命を持つ者》を《色のない神》の許へと導く、不思議な石。眼鏡をかけ、滑らかな石の表面にそっと触れる。石碑はひんやりと冷たかった。

 

「今度は私たちをどこに向かわせるつもり?」


 誰に訊くともなしに呟く。そろそろ終わりが近づいている。そんな予感めいたものを感じていると、石碑に文字が浮かび上がった。


 

 黒き影 白き光

 追い求めし宿命さだめの者

 終極の旅路へといざなわん


 極彩ごくさいの森 禁忌の滝裏

 くうを斬り 幻惑を現実と成せ

 現在いまを見つめ選びし道を求めよ

 さすれば我と相見あいまみえん  

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