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黒犬と旅する異世界 ~黄昏と黎明~  作者: 緋龍
旅の終わりを感じるに至った理由
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三十五話 騒ギ沈ム次

 それから謁見の間は騒然となった。アドラーレの狂気にてられ茫然自失の状態にあるシェラルダに変わり、ディーが外から兵士を呼び、気絶している公爵を医務室へと運ばせる。女王はニアザに付き添われ、覚束ない足取りで私室へと戻り、エレミヤも憔悴した顔で今日は城に泊まると言って、いつの間にか現れた侍女と共に何処かに消えていった。そんな三人の尋常ではない様子を見た、謁見の間の外へと追い出されていた重臣や兵士たちは、一体何が起こったのだと右往左往し始める。

 収まらない混乱の中、ルーク、ロウジュ、リオン、そして使っていた部屋が燃えてしまった雷華は、バフマーの案内で城内の客室へと案内された。重臣や兵士、さらにはバフマーからも、何が起きたのか事情を説明してほしいという無言の訴えを感じたが、それをするのは女王の役目であり務めだ。雷華たちは決して口を開かなかった。

 部屋に入ると途端に疲れが押し寄せ、何も考えずにベッドに倒れ込みたくなる。しかし、これからのことを話しておきたかったため、雷華は三人の部屋を叩いて回り、自分の部屋へと呼んだ。


「先ほどはお見事でした、ライカさん。話には聞いていましたが、鮮やかなものですね」


 部屋に入ってくるなり、リオンが雷華を褒める。


「いえ、そんな。警戒していたので咄嗟に身体が動いただけですよ」


 長椅子に腰かけながら、目が覚めるような美貌の持ち主に言葉を返す。ドレスを着て背負い投げをすることになるとは思わなかったが、そういえばクレイの館でロウジュを投げたこともあったなと、雷華は彼と初めて会ったときのことを思い出した。


「すまなかった。もっと近くにいれば俺が取り押さえたのだが……」


「ごめん」


 隣に座るルークと向かいに座るロウジュの表情は暗い。灯りのない夜道の方がまだ明るいのではないかと思えるほどに暗い。


「二人とも謝らないで。ルークにエレミヤ様の傍にいてって言ったのは私だし。ロウジュには何も言わなかったけど、リオンさんに付いていてほしかったから、あれで良かったのよ。そもそも公爵に近づいたのは私の方からなんだもの」


 戦えない者と戦える者を傍にいさせることによって、いざというときにすぐ守れる状態にしていた。その上で雷華はアドラーレとの距離をつめたのだ。自分を狙わせるために。


「上手く捕まえられたんだから。ね?」


 ぱん、と手を叩いてルークとロウジュに笑みを向ける。過程はどうあれ結果が良ければそれでいい。誰も――アドラーレを除いてだが――負傷しなかったのだから、何も問題はないではないか。雷華がそう言うと、不承不承といった感じながらも二人は頷いた。


「よし、じゃあ二人も納得してくれたことだし、明日からの話をしましょう」


「そうだな」


「それが賢明ですね」


「どこに行く?」


「……それが問題なのよね……リオンさんは凍土の地を調べるつもりなんですよね?」


 ロウジュの率直な質問に大きな溜息を吐いたあと、リオンに顔を向ける。 


「ええ、そうです。無骨王子の頼みで来てはいますが、興味があるというのは本当ですから。それに、国王様からの書状をいただいておいて、何もせずに帰るというのは問題がありますし。まあ今なら、この国の混乱を理由に帰れなくもないですけれど」


 途中でルークが「俺は無骨ではない」とリオンに食って掛かったが、華麗に無視された。苦虫も逃げ出すほどの渋面になる王子と、にこやかな表情を崩さない聖師を、ロウジュが興味深げに見ていた。


「私たちは冷獄のくさびという場所に行かなくてはいけないんです。でもそれが、どこにあるのかまだ分からないんです。凍土の地のどこかにあるのは間違いないのですけど、それ以上の手掛かりが……」


「あの男、楔がどうとか言ってた」


「確かに言っていたな。滅びの楔を打ち込む、だったか」


「正確には、二本目の滅びの楔を打ち込むのはこの私だ、ですね」


「さすがリオンさん、よく覚えていますね。そう、確かに公爵は楔という言葉を口にしました。でもあれは何かの比喩――滅びの騒乱を起こす、みたいな意味だと思っていたんですけど……違うのでしょうか?」


 首を傾げながらリオンを見る。楔と呼称される物体があるとして、それをどこかに打ち込んだからといって国が滅びることになるとは、あまり思えなかった。

 雷華の視線を受けて、リオンは顎に手を当てて頷いた。


「いえ、そう捉えるのが普通だと思います。ですが、万が一ということもありますから、念のために誰かに滅びの楔のことを聞いておいた方がいいでしょう」


「そうですね。となると、ディーに訊くのが一番早い……んでしょうね。二人とも、そんなに嫌そうな顔しなくても」


 ディーの名を口にした途端、嫌そうに顔を顰めるルークとロウジュに苦笑する。と、そこに扉を叩く音がした。雷華が返事をして入室を促すと、入ってきたのはディーだった。あまりに都合良く登場する彼に、雷華は笑いを堪えることが出来なかった。


「ライカちゃん、なんで俺の顔見て笑ってんの?」


「あははははは、あー、ごめんごめん、何でもない。それで、ディー、どうしたの?」


 目尻に浮かんだ涙を指で拭いながらディーに用件を訊ねると、彼は首を傾げながらも口を開いた。

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