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黒犬と旅する異世界 ~黄昏と黎明~  作者: 緋龍
大切なものが何か気付くに至った理由
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三十三話 毒ト理ノ花

 豹変した夫に茫然としていたエレミヤだったが、そのうち怒りが湧いてきたらしく、全身を震わせながらアドラーレに向かって叫んだ。


「アドラーレ! そ、そなた、そなたは今までわらわたばかっておったのかや!」


 扇が折れそうなほど手に力が入っている。


「エレミヤ様、落ち着いて下さい。女王様、あの椅子動かしても構いませんか?」


 今にも殴りかかりそうな雰囲気のエレミヤの肩にそっと手を置き、雷華は玉座の後ろの壁際に並べられている椅子を指差した。


「え、ええ、そう、そうですね。どうぞお座り下さい……姉上」


 現実に思考が追いついていない様子のシェラルダが、心ここにあらずといった感じで答える。


「ロウジュ、お願いできる?」


「いいよ」


 こくりと頷き、ロウジュが走って椅子を取りに行く。喚き続けるエレミヤを椅子に座らせ、ルークに傍にいるよう頼んでいると、アドラーレが口を開いた。


「まったく、うるさい女性ひとだ。貴女が動こうとしないから、お手伝いしてあげたというのに。どうやら私は、貴女を買い被り過ぎていたようですね」


 顔を顰めて溜息を吐く公爵。その紅い瞳にははっきりと失望と侮蔑ぶべつの色が浮かんでいた。


「貴方の言うところの手伝いとは、女王に毒を盛ったことと、ライカさんを殺そうとしたことですか」


「そうですよ。どちらも上手くいきませんでしたけど。シェラルダ陛下に盛った毒、あれを調達するのは苦労したんですけどねえ」


 リオンの問いに頷き、アドラーレは至極残念そうな表情でディーを見た。


「悠久のことわりなんていう伝承にしかない花を見つけてくるとは、予想だにしていませんでしたよ」


「で、では本当にアドラーレ殿が私に毒を」


 震える声で呟くシェラルダの顔は、今にも倒れそうなほど真っ青になっている。


「そちらの女性の存在も予想外でしたしねえ」


「白々しい。周到な計画を立てておいて、よくそんなことが言えるわね。ミレイユさんに迷いがなかったら、私は確実に死んでいたわ」


 ディーが玉座に行き、シェラルダの傍につくのを横目で確認すると、雷華は向けられた視線を真っ向から受けた。


「ミレイユ……あの女には失望しました。貴女一人殺せないなんてね。そこそこ使える駒だと思っていたのですが、残念です」


「ふざけないで! ミレイユさんは駒なんかじゃない。彼女は人間よ。ちゃんと心があるの。だから、だから自分で自分を……」


 真っ赤に染まった手。止まらない血。生温かいぬるりとした感触。ミレイユが自らを刺した光景が、脳裏に鮮明に甦ってくる。雷華は、強く奥歯を噛みしめてアドラーレを睨んだ。


「おや、そうだったんですか。てっきり将軍にでも返り討ちにされたのかと思っていたのですが。己に価値がないと気付いたんですねえ」


「よくもそんなことがっ。あんたが彼女に用なしって言ったからでしょう! ミレイユさんをあそこまで追い詰めておいて、あんたには心ってものがないの!?」


 アドラーレの人を人とも思わない発言に、口調が荒くなる。こんな人間のためにミレイユが生死の境目を彷徨っているのだと思うと、悔しさと怒りではらわたが煮えくり返りそうだった。大勢の人間が死んでいったというのに、何故公爵だけがのうのうと生きている。

 込み上げてくる感情で拳を震わせていると、ルークが落ち着いた声で雷華の名を呼んだ。


「落ち着け」


 その一言で雷華の荒れていた心が凪いでいく。そうだ、冷静にならなくては。雷華は一度大きく息を吸って吐くと、ルークを見てにこりと笑って頷いた。


「ごめんなさい、もう大丈夫よ」


「シキルリラ公爵、一つ訊かせていただきたい」


 雷華とアドラーレの会話が途切れたのを見計らったかのように、ディーが口を開く。


「何でしょう、ヴェルク将軍。ああ、いつからミレイユ(あれ)が裏切っていたかですか。もちろん、最初からですよ」


「違う。私が訊きたいのはそんなことではない。何故まだライカを狙う必要が? 彼女が自分は神子でないと陛下に伝えたと、ミレイユから聞いておられないのか」


 アドラーレの人を馬鹿にしたような態度に不快感を露わにしながらも、ディーは彼に問うた。


「いいえ、聞いていましたよ」


「だったら何故――」


「知っていたからでしょう?」


 ディーの言葉を遮り、落ち着きを取り戻した雷華が公爵に問いかけると、彼は、ほうと感心したように片方の眉を上げた。


「知っていた? 何をだ?」


 ディーが視線を雷華に移す。だが、雷華よりも前に答えを口にしたのは、今まで放心状態で椅子に座っていたエレミヤだった。


「ライカ……昨晩そなたが妾にもしと言うて訊いてきた話、もしやあれは真なのかえ? シェラルダがそなたを神子に仕立て上げるつもりでおると」


「なっ!?」

  

 ディーの眼が見開かれる。彼のすぐ隣にいる女王は、ただでさえ青い顔をさらに青くしていた。


「ど、どうしてそれを……」


「ごめんね、ディー。女王様に真意を訊いてから貴方に話すつもりだったのだけど……でも、それだけじゃないわね。今朝エレミヤ様に私が貴方を疑っていることを聞いて焦ったんでしょう? だから今日殺さないと用なしだとミレイユさんに言った。ただの平民の私にエレミヤ様が興味を持つなんて、思ってもみなかったのね。二言三言話すだけならともかく、夕食にまで招待するとは夢にも思わなかった。どう、私の推理、間違っているかしら?」


 ディーに視線を送り、シェラルダに目線を移し、エレミヤを見て、最後にアドラーレを睨む。彼はしばらくの間黙って雷華を見返していたが、やがて大仰な仕草で手を叩き始めた。  


  

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