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黒犬と旅する異世界 ~黄昏と黎明~  作者: 緋龍
大切なものが何か気付くに至った理由
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二十六話 助ケ行ク人

 雷華がシキルリラ公爵家に招待された翌日の、夕一の刻を少し過ぎたころ。

 王城の謁見の間に一人の兵士が息を切らせて駆けこんだ。

 まだ体調が万全とは言えないクルディア国女王シェラルダが、予定されていた謁見を終えて早々に私室に戻ろうと玉座から腰を上げるところだった。


「騒々しいですね、何事ですか」


 神聖で厳かであるべきはずの謁見の間に相応しくない行動をする兵士に、シェラルダの眼がすっと細くなる。


「ご報告申し上げます! 南方マーレ=ボルジエ国より国王の使者と申す者が先ほど城に到着いたしました。火急の用だと申しておりまして、陛下に一刻も早いお目通りを願っております!」


 玉座の遥か手前に跪き、緊張の面持ちで口を開く兵士。彼の報告は、謁見の間にどよめきと戸惑いをもたらした。


「何故マーレ=ボルジエの使者が我が国に……」


 整った顔を微かに顰めて、シェラルダが呟く。


「如何なさいますか。体調を理由に謁見を断ることもできますが」


 傍に控えていた侍従のバフマーが、女王にのみ聞こえる声で進言する。彼の顔は、言葉とは裏腹に相対するべきだと告げている。シェラルダも同意見だった。

 クルディアは他のどの国とも積極的な交流をしていない。しかし、敵対しているわけではなく、最低限の繋がりは維持している。

 何の前触れもない突然の来訪だとしても、国王の使者を断ればその繋がりを断ち切ってしまうことになりかねない。それは、他国と話し合いによって、この凍りゆく国に、光り差す未来をもたらそうと考えていたシェラルダの望むところではなかった。


「いえ、会います。すぐにお通ししなさい」


「はっ!」


 兵士は敬礼をして踵を返し、謁見の間から去っていった。

 ほどなくして低い鐘の音が三度、謁見の間に響き渡った。謁見を望む者が到着したことを知らせる鐘だ。張りつめた緊張感が漂うなか、内側に立つ二人の兵士によってゆっくりと扉が開かれる。

 入ってきたのは三人の男だった。全員が整った顔立ちをしていたが、その中でも一人だけ特に際立って美しい容貌の持ち主がいた。

 謁見の間に先ほどとは異なる種類のざわめきが広がる。

 彼らは堂々とした足取りで玉座へと近づき、互いの顔がはっきりと見える位置まで来ると、ぴたりと立ち止まった。


「突然の来訪にも拘わらず、拝謁叶いましたこと、御礼申し上げます、シェラルダ女王陛下」


 ほかの二人より一歩前にいる一番精悍せいかんな顔つきの黒髪の男が頭を垂れる。玉座に座るシェラルダは、男の右手中指にはまっている指輪を見て、彼が誰であるかに気がついた。


「顔を上げて下さい。まさか使者が王子だとは思いませんでした。リーシェレイグ王子の弟君ですね」


「お会いするのは十五年前の陛下の戴冠式以来、二度目となります。本日は陛下に、ある願いを聞き入れていただきたく参りました」


 黒髪の男――マーレ=ボルジエ国第二王子、ルークウェルは顔を上げて答えた。

 クレイの案とは、ルークがマーレ=ボルジエの正式な使者としてクルディア王都に入るというものだった。

 そのためにはまず、なんといっても国王の許しを得ねばならない。それに、使者を出す理由も必要だった。

 この時点で話を聞いていた全員が、渋い顔になった。しかし、クレイは解決策をちゃんと用意していた。

 それが、ルークとクレイの幼なじみ、リオンに協力を要請することだった。聖師である彼には様々な特権が与えられており、その中の一つに他国での調査の自由というものがある。聖師は己の属する国の王と、調査したい場所がある国の王の許可を得れば、どこでも自由に行くことができるのだ。


 ――クルディアに広がり続ける凍土の地があるって言えばリオンは来るはずだ。ライカを助けに行くってことも付け加えればまず断らねえだろ。


 クレイは自信満々にそう言ってのけた。そして、事実その通りとなった。

 騎士や特務騎士が連絡に用いる姫鳥ひめどりをミシェイスから借りて、ルークがリオンに手紙を飛ばすと、すぐに了承の返事が返ってきた。

 彼は国王の許可を半日で取り付けると、飛ぶような速さでルークたちの許にやってきた。


 (本当に飛んできたからな……)

 

 聖師リオンに神々しいまでの笑顔を向けられて、断りの言葉を口にできる人間などそうはいないということを、改めてルークは実感した。 

 リオンは友人であるディナム侯爵に簡単に事情を説明したうえで、侯爵の息子である騎士のエルクローレンに、自分を翼竜ヴィシュリに乗せてクレイの船が停泊している町、イシュアヌ国のナシーラまで連れていくよう依頼したのだ。

 今回の騒動に否応なしに巻き込まれる形となったエルは、クルディアの港町ザーラグで、相棒ヴィシュリ、そしてキールとマールの双子と共に、ルークたちの帰りを待っていた。


「ええ、覚えています。リーシェレイグ王子とはあれからも幾度かお会いしていましたが……立派にご成長なされて、さぞガイゼンバルク王もお喜びのことでしょう。それで、私に願いたいこととは?」


「はい、後ろに控えておりますのは我が国の聖師、名をリオン・グレアスといいます。隣の者は聖師の護衛であり助手であるロウジュ。お願いというのは他でもありません。彼らに――」


 二人の紹介を終えたルークが、本題に移ろうとすると慌ただしい足音が聞こえ、謁見の間の大扉の横にある兵士が出入りするための小さな扉が勢いよく開かれた。


「何事か! 謁見中であるぞ!」


 バフマーが咎めるが、兵士は青ざめた顔で跪き、大きな声を発した。


「申し上げます! 城内にて火事が発生致しました! 場所は南の塔、三階の賓客室。ただいま消火にあたっておりますが、どうやら怪我人が出ているようです!」


「なんてこと、あそこには神子がいるのに……」


 玉座から立ち上って呆然とするシェラルダの呟きを聞いたルークは、ここが謁見の間であることも忘れて部屋を飛び出した。


「ライカ――!」 

  

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