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黒犬と旅する異世界 ~黄昏と黎明~  作者: 緋龍
大切なものが何か気付くに至った理由
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十八話 雪ノ降ル都

 アディシェの町を出発してから五日、イシュアヌ国王生誕祭の日からちょうど十日目の昼前、雷華はクルディア王都エクタヴァナの中央大通りの様子を馬上から眺めていた。

 深々と降る雪の隙間から見る焦げ茶色の煉瓦の建物は、寒さを防ぐためなのだろう、重厚でしっかりとした造りだ。

 道行く人は特に厚着をしているわけではないのに、寒そうにはみえない。寒さに強いのだなと、かじかむ指先に白い息を吐きかけながら、雷華は少し羨ましくなった。

 

「雪と家の色合いが綺麗。奥に見えるのがお城ね?」


「そう。城の中はあったかいからもう少し我慢してね」


「ええ、大丈夫よ」


 太陽は雲に隠れ、気温はかなり低い。しかし、雪の町特有の幻想的な雰囲気は、まるでおとぎの世界のようで、城に着くまでフードを被ることなく、雷華は王都の景色に見入っていた。


「ヴェルク将軍の帰還である。開門せよ」


「はっ、ただいま!」


 ゼフマーの声で、王都の一番北にある閉ざされた巨大な鉄の門が、ゆっくりと開かれていく。

 門以外の場所は雷華の身長の五倍はありそうな、高い石壁で囲われていて、城がほとんど見えない。見上げていた雷華は首が痛くなった。


「さ、行くわよ。ここからはフードを被っててね」


 四頭の馬が中に入ると、すぐに門は閉ざされた。かなり警備が厳重なようだ。


 (ルークのお城、というかマーレ=ボルジエの王城は前庭が解放されてたのに。でも、きっとそっちの方が特別なんでしょうね。イシュアヌのお城だってとても一般人が入れる雰囲気じゃなかったし)


 フードを被りながら一人納得する。とは言っても、門から城までが異様に遠いのはどこの国も同じらしい。王都の家々よりもさらに堅牢な造りの建物が延々と続いている。

 建物の扉には全て、はすに似た花の上に剣が掲げられた紋章が描かれていた。

 すれ違う兵士がディーを見て敬礼をするのを、フードの隙間から窺っていると、馬が短くいなないて停止した。

 馬から降りて、ようやく雷華は城の中に入った。

 まだ取るなと言われたので、フードを被ったままディーの後ろをついて行く。一緒に来たのはミレイユだけで、ゼフマーとフォレスは彼女とディーの馬を引き連れてどこかへと行ってしまった。

 天井が高く幅の広い廊下に靴音を響かせながら、歩き続けることしばらく。もはやどこにいるのか全く分からない。

 あれだけ広いと感じた貴族の屋敷が、狭いと思えてくるほどに城は広大だった。


 (イシュアヌのお城では大広間みたいなところしか行かなかったけど、それでも結構長い廊下を歩かされたものね。どこに向かってるのか知らないけど、絶対に一人では出歩けないわ)


 確実に迷子になる自信がある。螺旋状の階段を上りながら、知らず溜息が零れた。

 

「ここだ」


 ディーが足を止めたのは、三階にある部屋の前だった。

 廊下には同じような扉がいくつもある。

 中に入ると、そこは応接室だった。壁際にある暖炉にはすでに火が入れられていたが、入れたばかりなのかそこまで部屋は暖かくなかった。

 とはいえ、外よりは数段暖かい。雷華は外套を外して暖炉に近づいた。

 ディーとミレイユは、部屋に入らずに何処かへと消えて行った。


「はあぁ、あったかい」


 暖炉に手をかざし、なくなっていた指の感覚を取り戻す。

 雪で濡れた髪を乾かすと、雷華は何かの動物の毛皮が敷かれた長椅子に座り、眼を閉じた。

 アディシェを発ってからの五日間、最初の日の夜に強硬派の人間によると思われる襲撃を受けたが、それ以降は一度もなかった。

 何故かぴたりと止まったのだ。フォレスが諦めたのではないかと言っていたが、雷華は別の思惑があるのだと直感した。

 それが何か分からない以上、城に着いたからといって安心しない方がいいだろう。いつ何が起こってもいいように警戒を怠るべきではない。

 怠るべきではないのだが……暖かい部屋の空気と連日の移動の疲れとで、意識が夢と現を行き来し始める。


「誰か、すぐに来るわよね」


 扉が叩かれれば眼が覚めるだろうと、雷華は欠伸をしながら微睡まどろみに身を委ねた。

 そして見る夢。ぼやけた顔の男と二人きりで暮らしている夢だった。


「起きて、ライカちゃん。起きないと襲っちゃうわよ」


 揺さぶられて眼を開ける。しばらくぼうっとして焦点が定まらなかったが、数回瞬きを繰り返し、眼の前にディーの顔があることに気付き、雷華は一気に覚醒した。

 

「ディー!? いつの間に入ってきたの!?」


「ついさっき。ちゃんと扉は叩いたわよ。返事がないからおっさんちょっと焦ったわ」


「ご、ごめん。熟睡するつもりなんてなかったんだけど」

 

 慌てて立ち上ると、ディーは笑いながら謝らなくていいのよと言った。湯気が出ているカップを雷華の前に置き、どうぞと勧めてくる。 


「ありがとう。えっと、今からどうすれば、ってディー、その格好」


 カップに口をつけて前に座るディーを見れば、先ほどまでとは明らかに違う服装をしていた。襟が濃い蒼と黒の二重になっている黒い制服。金色の細い鎖が三本、左肩から前のぼたんに繋げられている。


「これでも一応将軍だからね。どう?」


「え、ああ、似合ってるんじゃないの?」


 前に過去で見た服装と同じだと思っていた雷華は、上の空でディーの問いに答えた。

   

 (つまり、これから女王に会いに行くわけね)  


  

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