1月9日(放課後) 河早・津島
「あの留学のやつ、いいなっち思った」
学級委員のオリエンテーションのため、河早と二人で物理室へとむかっていた。
終礼で春休み用のホームステイ語学研修のプリントが配られ、それを見て私が一言「イギリス行きたい」と言ったのだ。
河早とは高一の夏、一緒にイギリスへ海外研修に行った仲だった。
「河早はどこ行きたい?」
「アメリカかカナダ!」
「アメリカぁ?何で?」
「だってアメリカやったら国連の本部見学できるんよ!いいと思わん?」
「あー」
普段あまり興奮に輝いた河早の顔なんて見ないから、この時の彼の顔を見て少しびっくりした。
びっくりしたとともに、良いな、と思った。
「あんなところ滅多に入れんし!」
そういえば河早って、英語の方に進むんだっけ。
「昔本で読んだけど」
ふと思い出して語りかける。
「国連の子供版みたいなのがあるって」
「あっ!しっとる!」
「なんかすごいらしい。なんの本に書いてあったんかなー・・・」
どこで読んだっけ。たしか著者がそこで圧倒されたって書いてあったな。
あれは確かー・・・
「思い出した!若い政治家のインタビュー集みたいなやつだ」
一年か二年前、政治家を目指した時期に買ったもの。
表紙も内容も、すべてよみがえってくる。
「読む?」
首を傾け、河早を見ると。
「読む」
さきほどと、寸分も変わらぬ輝いた瞳が、こちらを見返してきた。