【第20話】再起動
前世での人生を見終えた俺は、ホログラムパネルを無言で閉じた。
「俺、本当の死因は、自殺だったんですね...」
雨宮は光の呟きに対して無言で頷く。
沈黙が流れる。
光は、自分の胸の奥で何かが軋むような感覚を覚えながら、問いかけた。
「俺は…なぜ、非記憶保持者として転送されたんですか。なぜ、こんな形で…」
雨宮は小さく息を吐き、静かに語り始めた。
「あなたの前世を見たとき、私はこう思ったの。この人は、本当は誰よりも優しくて、誰かのために動ける人間なんだって」
光は、目を伏せた。
優しさが、自分を壊したのだ。
人に尽くして、信じて、裏切られて、壊れてしまった。
「…でも、あなたは最後、自分で命を絶った。そして、もう誰も信じられなくなっていた」
「そんな感じだったんですね…」
「そんなあなたが、記憶を持ったまま新しい世界に行っても、何も変えられない。むしろ、また誰かを傷つけてしまうかもしれない。そう考えたのよ。だから私は、記憶の消去を申請したの」
光は、驚いたように雨宮を見た。
「あなたが…俺の記憶を…?」
「ええ。勝手なことだと思ってる。でも、信じていた。記憶を失っても、あなたの“核”は残るって。もう一度、誰かのために動ける人間に戻れるって」
光は、胸の奥が締め付けられるような感覚に包まれた。
「…観察係に選んだのも、あなたなんですか」
「そう。研修制度を見直す新プロジェクトの一環として“観察係としての再生モデル”を提案できる人間が必要だった。管理局からの承認も、得られたわ。でも、私は仕事としてだけじゃなく、あなた自身の“更生”を願っていた」
雨宮は立ち上がり、光の前に歩み寄った。
「あなたは、人を救えなかったことに苦しんだ。でも、あのとき確かに動いた。陽菜を見て、見捨てられなかった。あれがあなたの本質よ。記憶がなくても、あなたはやっぱり、誰かのために動ける人だった」
「…それでも、俺はあの子を救えなかった」
「でも、“救おうとした”。その行動が、私の信じたあなたそのものだったのよ」
静かに、雨宮は手を差し伸べた。
「さあ、光。ここから先は、あなた自身が“選ぶ”番よ」
光は、その手を見つめる。
かつて誰も信じられなかった自分が、誰かを信じて歩き出すことができるのか。
答えは、次の一歩に託された。




