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転送管理局~人生2周目は観察係だった件~  作者: 秋川悠
第一章

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【第19話】ごめんね

 病室の窓際に、小さな鉢植えのラベンダーが置かれていた。

 

 咲良が「退院したら、家でも育てたい」と言っていたものだ。けれどそのラベンダーは、もう何日も水をもらっていないように萎れていた。

 

 咲良が眠る時間が増え、会話が減っていった。目を覚ましても、どこか遠くを見ていることが増えた。


「光…」

 

 ある日、彼女はかすれた声で、光の手を握った。


「ごめんね…守ってあげたかったのに、結局…助けてもらってばかりだったね…」


「そんなことないよ。俺のほうこそ、咲良がいなかったら、とっくに壊れてた…」

 

 涙が込み上げて、声にならなかった。

 

 咲良はふわりと笑った。


「光は、優しすぎるから…誰かを信じると、全部信じちゃうから…」

 

 そして、微かに首を振る。


「でも、そんな光が、私は…好きだったよ」

 

 それが、彼女の最後の言葉だった。



 その夜、病院からの着信に、光はしばらく出ることができなかった。

 

 予感がした。あまりにも静かで、冷たすぎる予感が。

 

 通話の向こうで、冷静な声が伝えたのは、心停止とその確認の時刻だった。

 

 何も言葉が出なかった。

 

 スマホを手にしたまま、光は床に崩れ落ちた。頭の中が真っ白になった。泣こうとしても、涙すら出なかった。


 

 咲良の葬儀には行けなかった。

 

 蓮の裏切り、大学での孤立、そして唯一の救いだった咲良の死。

 

 光の心は、もうとっくに限界を越えていた。誰も信じられない。何を信じればよかったのかも、もう思い出せない。

 

 どこで間違ったのかも、わからない。ただ、自分の人生が、もう二度と立ち直れないところまで崩れたのだと――そのことだけは、はっきりと理解していた。

 

 静かな部屋。塞がれたカーテンの隙間から、ほんの少しの光だけが差していた。机の引き出しに入れていた手紙と、一本の封の開いていない睡眠薬と抗うつ剤。

 

 光はそれらを無言で取り出すと、机に向かってペンを握った。

 

 「ごめん」としか書けなかった。


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