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転送管理局~人生2周目は観察係だった件~  作者: 秋川悠
第一章

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13/23

【第11話】彼女の名前

 取調室の空気は冷たく、椅子に腰掛けた光の指先は微かに震えていた。


目の前には監察官クラスの男と、少し離れた場所に立つ雨宮の姿。


無表情のまま、淡々と質問が投げかけられる。

「あなたは転送規定第12条に違反し、物理的な転送を行った。これは重大な過干渉行為だ。異論はありますか?」


「ありません。俺の判断です」


短く答えると、沈黙が落ちる。

雨宮が何かを言いかけたが、光は視線を合わせず「今は話さないで」と静かに遮った。


しばらくの後、男が処分を告げた。

「今回、対象者であるT-1123はあなたを認知しておらず、干渉が直接的な介入には至らなかった。よって――無期限の観察業務停止処分とします。今日から、あなたは観察業務から外れます」


光は表情を変えず、ただ「……わかりました」と答えた。



取調室を出ると、淡い光が差し込む静かな廊下に雨宮の姿があった。


「雨宮さん...すいません....」

光は、自分を責めるようにうつむきながら雨宮に言った。


「今回は……ブラックアウトにならなかっただけ、まだよかった。あなたが姿を見せたとき、彼女には“あなた”が見えていなかった。それが救いだったわ」


光はその場で崩れ落ち、深く息を吐いた。


「それでも、何も変えられなかった」


「……ええ。でも、あなたは“しようとした”。それは重いことよ」


「それが観察係にとって、してはいけないことなら……僕は、向いていないのかもしれない」


雨宮は一瞬、何かを言いかけて、口をつぐむ。そして、静かに光の背中に声をかけた。


「それでも、あなたはここにいる。……その意味を、もう一度考えてみて」


光は振り返らずにうなずいた。雨宮の言葉は、冷たくも温かく、彼の胸に重くのしかかった。



光の謹慎処分が始まって数日が経っていた。


業務もなく、誰とも話すことも許されない静かな時間。


けれど、ただ何もせずにいると、あの瞬間の記憶が何度もよみがえる。陽菜の叫びも、落ちていったあの光景も、何もかもが。


「何かを見ていないと、頭がおかしくなりそうだ……」


そんな思いから、光は観察記録室の端末を開いていた。


ただ記録を読んでいるだけ――それはもう観察とは呼べないかもしれない。


だが、無数に保存された転送者たちの生活ログの中に身を沈めることで、光は現実から一時逃れていた。


“逃げ”なのは分かっている。でも、それ以外に今の自分ができることはなかった。


その日も、机上に積まれたファイルの束から一冊を無造作に手に取った瞬間だった。


「……え?」


タイトル欄に記された名前に、心が揺れた。


知らないはずの人物、けれど、どこか“知っている気がする”。


震える指でページをめくろうとしたとき、鋭い頭痛が走った。


一瞬のフラッシュ。笑う彼女の姿、何かを言いかけて消える声。

全身を何かに締め付けられるような痛み。


「何だよこれ.....」


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