【第10話】手を伸ばした先に
転送の衝撃がまだ体に残っていた。息がうまく整わない。光は数秒の間に深呼吸を繰り返し、腕の端末を起動した。
「T-1123、転送者・陽菜……屋外。位置、商業ビル13階相当、屋上テラス」
「まさか……っ」
光はすぐさま駆け出した。屋外という情報が頭の中で最悪の可能性と結びついていく。街の空気がやけに冷たく感じた。
ビルの前には人だかりができていた。ざわつき、誰かが叫んでいる。
「飛び降りようとしてる人がいるらしい」
「もう警察呼んだ?」
光は目を見開き、見上げた。ビルの13階相当の屋上テラス。そこに立っていたのは陽菜だった。柵の外、細い足が空中に出ていた。
「……陽菜!!」
誰の耳にも届かないその叫びを残し、光は建物の中に駆け込んだ。階段を一段飛ばしに登りながら、息が乱れ、鼓動が耳を打つ。
(お願いだ、間に合ってくれ――)
13階のドアが見えた。その向こうには風に揺れる少女の髪が、逆光に照らされていた。
ドアを開け放った瞬間、世界がスローモーションになった。
「陽菜ァ――――っ!!」
だが、彼女の体はもう落ちていた。手は届かなかった。
ただ、その場に崩れ落ちるしかなかった。
膝をついたまま、光は呆然とテラスの先を見つめ続けた。何分経ったのかもわからない。ビルの下では誰かが叫んでいる。誰かが泣いている。
「……俺は、何をしていたんだ」
呆然と呟いた声が風にかき消された。
気がつけば、視界が歪んでいた。涙なのか、虚脱によるものなのかもわからなかった。
そして——。
ふと気づくと、光は見慣れた天井を見上げていた。転送管理局の床に倒れたまま、全身が重かった。
目をゆっくりと動かすと、そこには雨宮が立っていた。
「……高槻光。これより、取調室へ向かってもらう」
雨宮の声は冷静だった。
だが、その視線の奥には、言葉にできない感情が滲んでいた。




