第十一話 結果と現実
白奈との勉強会を続けて、中間テスト。
手応えはというとかなりの好感触だった。
学年一位の教えもあってテスト中はスラスラと解くことができた。
期末テストほどは教科数も多くなく、難しくないのが助かった。
そして今日で予定では全てのテストが返却される。
計算はしていないが今のところ、平均点は約八十点くらい。
つまり、今回返ってくるテストでヘマをしなければ白奈と映画が見に行けるというわけだ。
今日の放課後は白奈のところに行って、結果を報告しなければならない。
やがて授業開始の予鈴が鳴った。
テスト返却である。
いつもはテストの点数なんて気にしてさえいなかった。
しかし、今回は違う。
緊張していると同時に楽しみにもしていた。
***
「……まじかあ」
放課後、柚野は顔をげっそりとさせながら図書館へゆっくりと向かっていた。
バッグの中にはラノベはなく、代わりに教科書類とテスト用紙が挟まったファイルが入っている。
テスト用紙を白奈に見せて計算するのが怖い。
というのも今日返ってきた二教科で少々やらかしてしまったのだ。
一つが五十九点、もう一つが六十点。
条件がクリアできているか怪しくて、柚野は計算していない。
「柚野くん、結果どうだった!? ……って、察していいやつ?」
いつもの場所に行くと顔から察したのか白奈が気まずそうな顔をする。
「まだ計算してないけど……多分、失敗した」
「あれ? でも昨日まではいい調子って言ってなかった?」
「……今日の二教科でだいぶ悪い点数取っちゃったんだよね」
「一旦計算してみない? 他で挽回できていればいいんだから」
「そ、そうだよね……」
白奈に励まされるが柚野の思考はネガティブな方へ走っている。
ひとまず計算しないことには意味ないので、テスト用紙を机に広げた。
「見た感じ超えてそうだけどね」
「……不安になってきた」
白奈は電卓を取り出して、それぞれの点数を打ち込み始める。
中間テストは八教科あるので、全てを足して八で割ったらいいだけだ。
全てを打ち込み終えて、あとはイコールボタンを押すだけ。
そうなった時、白奈は机の上にスマホを置いた。
「柚野くん押していいよ」
「じゃあ……行きます」
震える手を押さえながら柚野はボタンを押す。
結果はというと。
「七十五点ぴったり! やったね、柚野くん!」
ギリギリ七十五点で、条件クリアだ。
柚野は白奈とハイタッチをして喜びを共有する。
まるで自分ごとのように喜んでくれる白奈は生徒思いの先生のようだった。
付きっきりで教えてくれた白奈には感謝しかない。
「白奈、今週の土日とかでどう?」
一度勇気を出したからか、二度目に発したその言葉は意外にもすんなり出た。
「……うん、いいよ。行こっか」
「やった、決まりだ」
「ふふ、二回目のデートだね」
「なっ……で、デート……それは確かにそうだけど」
「柚野くん、そんなに私とデート行きたかったの?」
白奈はいたずらっぽく聞いてくる。
しかし、白奈と行きたかったのは事実なので反論できない。
「その通りだよ。白奈と行きたかったから勉強頑張った。だから、教えてくれてありがとう」
「え……あ、うん。ど、どういたしまして」
柚野は改めて感謝の言葉を伝えた。
白奈は素直に言われたことが恥ずかしかったのか、少し頬を赤くした。
「じゃあさ、柚野くん、連絡先交換しようよ。当日も連絡取れるし、待ち合わせとか決めたいから」
「連絡先交換......」
「どうしたの?」
「い、いや、何でもないよ」
「じゃあちょっと携帯貸してくれない?」
柚野は言われるがまま白奈にスマホを貸す。
返ってきた頃には一つ増えた連絡先を眺めて、柚野は胸が温かくなった。
(連絡先増えるだけで、こんなに嬉しいものなのか......)
ひとまずこれで白奈と映画を見に行くことができる。
しかし、さまざまなことを考える必要があることに気づく。
(でも、これ、たしかにデートだよな……友達同士とはいえ、異性でもあるわけで)
デートの想像をするたびに楽しみもあり、緊張も高まっていった。
しかし、そんな緊張をよそに想定外のことが当日に起こった。
***
「……頭痛い」
やがて迎えた当日の朝、その日は柚野の人生の中で一番と言ってもいいくらい悪い目覚めだった。
悪夢で目が覚めたわけでも、緊張で寝つきが浅かったからというわけでもない。
頭が尋常ではないくらい痛いのだ。
体もだるい上に熱っぽい。
おまけに喉も痛い。
(いや、まさか……な)
時刻は午前五時。
待ち合わせは十時なので起きるには早すぎる時間である。
一旦、柚野は熱くなった体を冷やすために顔を洗いに行こうとベットから立ち上がった。
しかし、ふらっとしたと思うと、柚野はその場に倒れ込む。
動こうと思っても体に力が入らなかった。
柚野は這いつくばって、なんとかタンスの中の体温計を取ると、自身の脇に挟んだ。
少しの動作ですら息が上がってしまう。
測っている間、柚野は床に寝転んだ。
体温計が鳴ると、そこに映し出された数字は。
「三十八度八分……まじか」
平熱よりかなり高い数字だった。
どうやら風邪をひいてしまったらしい。
何かの間違いだと信じたかったが、ベッドに戻ろうとするだけでもフラフラする体が現実を受け止めさせた。
(いや、まだ寝たら治るかもしれない)
柚野は一時間だけ寝ることにした。
起きたら治っているかもしれないという一途の希望にすがっていた。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
一時間後に起きて再度体温を測ってみると体温は一分下がっただけである。
どうやら今日のデートには行けないらしい。
(顔洗って、うがいしよう……)
ダダ下がりの心と体を押さえつけて、柚野は気合いで立ち上がると、洗面台へと向かった。