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第十話 勉強会

 約束したその日から柚野は放課後に毎日、図書館に行くようになった。

 

 今までも毎日行っていたわけだが目的が違う。

 勉強をするためだ。


 白奈の条件をクリアして一緒に映画を見にいく。

 そう考えると勉強のモチベも白奈の言った通り湧いてくる。


「よーし、じゃあ今日も一緒に勉強がんばろっか」

「ご指導お願いします、白奈先生」

「ふふん、お願いされたり」


 放課後、今日もまた白奈と二人で勉強会である。

 

 図書館の真ん中の広場、机や椅子が多く立ち並ぶ場所でせっせとペンを動かしていた。

 白奈は向かい側に座っていて、集中している様子。


 いつもの場所で勉強しないのはライトノベルに気が取られて勉強できないからだ。


 勉強すること数十分、集中が途切れてきた柚野は一度辺りを見渡してみると、いつもより多くの人がいた。

 さらにはその誰もが本を読んでおらず、勉強している。


 どうやらいつもの人たちに加えて、テスト勉強のために図書館を利用する生徒のが少し増えたらしい。


「どうしたの? どこかわからないところとかある?」

「あー、うん、数学なんだけどさ。教えて欲しいところがあって」


 柚野の手が止まっていたからか、白奈は様子を伺ってくる。

 その優しさに頼って、素直にわからないところを聞くと、丁寧に答えてくれた。


「この問題難しいよね、私も解答見ないとわからなかったから。ここはね……」


 白奈はノートに数式をスラスラと書いて、柚野に説明する。

 解答を噛み砕いて、単純に教えてくれるので白奈の解説はわかりやすいものだった。


 一緒にテスト勉強していてわかったことだがやはり白奈はかなり賢い。

 大抵、何を聞いても白奈は答えてくれる。

 その上で、白奈でもわからなかった問題は一緒に解いてくれるので優しい。


 さらにその賢さは努力から来ているものだとわかった。


 白奈は下校時刻までの間、一度も手を止めていないのだ。

 たまに体を伸ばしたりするが、その程度。


「白奈ってさ、勉強してても全然休憩取らないよね。疲れないの?」

「勉強した後は疲れたーってなるけど、してる時は感じないかな」


 勉強している時はかなりの集中状態らしい。

 時間的制約がなければずっと勉強し続けていそうだ。


 ライトノベルとはいえ本をずっと読んでいる影響だろうか。


 とはいえ、それだと柚野も集中できているはず。

 なのに先ほどから集中力がかなりの頻度で途切れている。


「疲れたー」


 柚野は息を大きく吐くと、背伸びをしたりして体を伸ばす。


(よし、早速やろう)


 そう自分を奮い立たせても肝心の手が止まっている。

 気持ちでどうにかなるほど勉強は上手くいかない。


 柚野は勉強することを諦めると、ペンを置いた。


 少しだけ休憩しよう。


 ふと、柚野は白奈の方を見る。

 白奈は対照的にペンを忙しなく動かしていた。


 書き込んでいる紙の横には数学の教科書が開かれている。

 今は数学を勉強しているらしい。


 迷うことなく数式を次々に綴っている。


 手元から視線を上げて、白奈の顔を見てみると、美しい整った顔が胸の鼓動を少しだけ早くさせた。

 話しているとわからなくなるが、こうしてまじまじと見てみるとやはり白奈は可愛い。

 聖女様と言われるだけの容姿をしている。


(今、俺、白奈と二人で勉強してるんだよな……)

 

 そんな煩悩が勉強への意識を遠ざけている時だった。

 髪が邪魔だったのか、白奈は髪を耳にかけた。


 たったの一動作。


 それなのに柚野には少し刺激が強かった。


「ん? こっち見て、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」


 柚野の視線に気づいて、白奈は顔を見上げる。


 しかし、言えるわけない。

 白奈に見惚れてしまっていたなどと。


「い、いや、なんでもないよ」

「何か顔赤くない? 熱あるんじゃない?」

「だ、大丈夫だから」

「本当に?」


 白奈はジト目でこちらを見てくる。


 先ほどのせいで柚野の体温はいつもよりも大きく上がってしまっていた。

 そのせいで顔が赤くなっていたらしい。


 さらに、あまりにも見つめられるので柚野の体温は下がることを知らない。


「やっぱり熱あるんじゃない? ちょっと失礼するね……」


 白奈は机に身を乗り出すと、手を伸ばして柚野の額に触れた。

 利き手でない方の手で触られたのでひんやりとした感触が伝わってくる。


 それにまた柚野の鼓動が早くなっていく。

 異性のボディタッチには慣れていないのだ。


 加えて白奈は柚野の顔を見ているので、真っ直ぐ見れば目と目が合ってしまった。

 反射的に柚野は視線を下に逸らす。


 しかし、そこは白奈の胸の場所だった。


(あれ、意外に……じゃ、じゃなくてっ!)


 白奈が柚野の額を触っている間、柚野の目はクルクルと回っていた。


「……ちょっと熱いかな。今日はもう帰ってゆっくり休んだら?」

「あ、あれ、おかしいな。体は全然平気なのに」

「疲れが溜まってるんでしょ」

「か、かもね……と、とりあえずお手洗い行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」


 柚野は逃げるようにトイレへと駆け込んだ。

 

 そこで顔を何度も何度も水で洗う。

 顔をあげて鏡を見てみれば、白奈の言った通り、柚野の顔は少し赤くなっていた。


(俺、赤くなりやすいんだな……初めて知ったわ)


 白奈を意識してしまってはダメだ。

 勉強に集中できない。


 柚野は煩悩を消すために何度も自分の頬を叩いた。


「……よし、勉強しよう」


 柚野は扉を開けて、トイレから出た。


 すると、柚野の目にあるものが飛び込んでくる。

 トイレ入り口付近にある。

 なので白奈のいるところが見えるのだが、白奈は数人の男子と仲良さげに話していた。

 

 そのうちの一人は柚野のクラスメイトだった。


 今戻ったらまずい気がする。


 様子を見ているとその男子と目が合いそうになったので、柚野はすぐに隠れた。

 白奈は人気者なので、今柚野が戻ったところで怪訝な目をされる。

 そう考えたのだ。

 

 評価も何もなかった俺への嫌悪が生まれて、白奈の周りからの評価も若干下がるかもしれない。

 周りからの評価を気にする柚野はそんなことが容易に想像できた。

 

(もし昔と同じようになったら……)


 昔と今の自分を重ねてしまって、余計に怖くなった。

 それと同時にやはり白奈と一緒にいるのにふさわしくない存在だと改めて自分を評価した。


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