8
祭りの日から数か月が経った。新王ネロ・アルベンルが即位して以来、レグニア王国の戦いの様相は大きく変わった。先代の王、エド・アルベンルは国を守るための防衛的な戦争を主としていたが、ネロの時代になってからは、より攻撃的で、領土拡大を目指す戦いが増えていた。
戦争の回数も、頻度も、急速に増えていった。新たな領土を得るために、戦場は次々と新しい場所へと移り変わり、兵士たちは息つく間もなく戦いに駆り出されていた。トワ・ペアレントにとっても、これまでの戦いの経験はかつてないものとなっていた。すでに3回目の戦争となる今回の出征も、その例外ではなかった。
乾いた風が吹きすさぶ戦場で、トワは剣を握りしめながら仲間たちと前線に立っていた。戦いの喧騒が彼の耳を叩き、鉄と血の匂いが鼻をつく。敵兵の叫び声や、剣戟の音が絶え間なく続く中、トワの意識は研ぎ澄まされていた。
彼はこの数か月で多くの戦闘を経験し、その中で次第に名が知られるようになってきた。戦場での冷静な判断力と、剣技の上達が評価され、仲間たちからも一目置かれる存在となりつつある。だが、それだけでは彼の胸に渦巻く感情は晴れなかった。
トワは戦場に立つたびに、あの赤髪の少女――ノギナ・アンバレットを探していた。彼女は前回の戦争で彼を救ったが、その後一度もその姿を見かけることがなかった。攻撃的な戦いが続く中で、彼女の姿を見ないことが彼の心に不安を呼び起こしていた。
(彼女は今どこで何をしているんだろう……まだ生きているのか、それとも……)
その疑問が頭をよぎるたび、トワの心は重く沈んだ。戦場では多くの命が失われる。あの冷徹で強い彼女でも、いつかはその危険にさらされるだろう。トワはそう考えながら、剣を振り続けるしかなかった。
「おい、トワ! 右側だ!」
仲間の声で意識を取り戻し、トワは反射的に右手に剣を構えた。目の前に迫ってきた敵兵をかわし、素早く剣を振るって敵を倒す。その動きは以前の自分とは比べ物にならないほど洗練されていた。
「ナイスだ、トワ! またお前のおかげで助かったよ!」仲間が笑いながら声をかける。
「ありがとう。まだ終わってないから、気を抜くなよ」トワは笑みを返した。
戦闘が一段落し、夕日が沈み始める頃、トワたちの部隊は一時的な休息を取ることとなった。彼は仲間たちと共に腰を下ろし、水筒の水を口に含む。体の疲れは重く、戦いが続くにつれてその負担は増していく。
「しかし、ネロ王のやり方は前の王とは全然違うな」と、オペルが隣でぼやいた。「昔は防衛がメインだったのに、今はどこもかしこも攻めてばかりだ。これじゃ、休む暇もない」
「確かに……前の王は民を守るための戦いをしていたが、今はそうじゃない」トワは息を吐きながら同意する。「俺たちの戦いがどうなるのか、全く読めないよ」
「まあ、どんな王でも命令に従うしかないさ。俺たちはただ、与えられた任務を全うするだけだ」と、オペルは肩をすくめた。「だけど、お前は名が上がってるみたいだな。今じゃ指揮官たちもお前に期待してるぞ」
トワは少し驚きながらも、苦笑した。「そんなことはないさ。ただ、必死にやってるだけだ」
日が沈み、戦場に夜の帳が下りる。トワは剣を見つめ、心の中で誓いを新たにした。ノギナのように強くなるために、そして彼女の正体を知るために、もっと強くならなければならない。