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ふと、トワの視線が何かに引き寄せられる。
目の前を通り過ぎる人波の中、見覚えのある赤い髪が風に揺れていた。瞬間、トワの心臓が高鳴る。あの赤い髪――戦場で彼を救った少女、ノギナに違いない。
「オペル、あの赤髪の……!」
トワはオペルに話しかけようとしたが、その時にはすでに彼の足は動き出していた。彼女を見失うまいと、人混みをかき分けるように進む。オペルの反応を待つ余裕などなかった。
「トワ、どこに行くんだ!?」
オペルの声が後ろから聞こえたが、トワは振り返らず、赤髪の少女の姿を追った。人々が屋台に群がる中、彼女の姿はあっという間に見えなくなりそうだ。祭りの喧騒に紛れてしまう前に、追いかけなければならないという焦りがトワを駆り立てた。
「待ってくれ……!」
必死に叫びながら、通りを駆け抜ける。彼の目に映るのは、時折見える赤い髪だけ。少女の後ろ姿が見え隠れし、彼をさらに焦らせる。
彼女は細い路地に入った。トワもその後を追う。路地は狭く、両側には古びた建物が並んでいる。人通りが少なくなった分、赤い髪がはっきりと見えるようになった。だが、少女の歩く速度は少しも遅れない。
「くそ、待ってくれ!」
トワは息を切らしながらも、全力で走り続けた。彼女が角を曲がるのを見て、トワもその角を曲がる。そこには、さらに細い路地が続いていた。しかし、少女の姿はすでに見えない。
「嘘だろ……」
足を止め、荒い息を整えながら辺りを見回す。どこにも赤い髪の少女の姿は見当たらない。路地の先にはいくつかの店の裏口や、小さな広場があるだけ。
焦りと失望が入り混じった感情で、トワはその場に立ち尽くした。
「どこに……行ったんだ……?」
トワは悔しさに唇を噛みしめる。この国に戻ってきて、偶然にも彼女を見かけたというのに、またしても彼女の正体を知るチャンスを逃してしまったのか。
ふと、近くの屋根の上から鳥が飛び立った。トワはその方向を見上げ、再び希望を取り戻す。まだ諦めるのは早い。彼女はどこかにいるかもしれない。
「ここを探してみるしかない……」
再び気を引き締め、トワは路地の奥へと歩を進める。彼の心の中では、再会の可能性への期待と、見失うまいという焦燥が入り混じっていた。