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3

戦地から戻ったトワ・ペアレントの目に映ったのは、戦場とはまるで別世界のように活気づく街の光景だった。あちこちに色とりどりの旗や提灯が飾られ、人々は忙しなく行き交いながら祭りの準備に追われている。町中には笑い声が響き、久しぶりの平穏がこの国を包み込んでいた。


「おい、トワ!」


 馴染みのある声に振り向くと、そこには同期の兵士、オペル・クロフォードが立っていた。彼は背が高く、筋肉質な体つきで、どこかいつも陽気な雰囲気を漂わせている。トワを見つけるやいなや、すぐに駆け寄ってきた。


「やっと帰ってきたのか。無事で何よりだよ」


 オペルは大きな笑顔でトワの肩を叩いた。トワもほっとしたように笑い返す。


「お前もな、オペル。こっちも一時はどうなることかと思ったが……」


 二人はしばらく互いの無事を喜び合いながら、街を歩き始めた。


「しかし、戻ってきたらもう祭りの準備か。さすがに早いもんだな……。ま、戦争の疲れを癒すには、これが一番ってわけだ」


 オペルは笑いながら周囲を見渡す。

 トワは頷きながら、同じように辺りを見回した。屋台の準備が進められ、子供たちが楽しげに走り回っている姿が見える。色とりどりの装飾が通りを彩り、人々の顔には安堵と期待が溢れていた。


「確かにな。でも、俺たちには休む暇もなかったからな……少し戸惑うよ。こんな中でも戦地で見たものが、まだ頭に残ってる」とトワは苦笑する。


 「そうだな。あの地獄みたいな戦場を思えば、こうして平和な街を見ると、少し不思議な気分になるよ。だけど、俺たちは生きて帰った。これを喜ぶべきだ」


 オペルも何かを思い出すように頷く。

 そして、二人はしばらく黙って歩き続けた。戦争の傷跡はまだ癒えていないが、彼らはその現実に向き合いながら、新たな一歩を踏み出そうとしている。


 ふと、トワが思い立ったように口を開いた。「なあ、オペル。あの戦場で……赤い髪の少女を見なかったか?」


 オペルは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに考え込むように首を傾げた。「赤い髪の少女?いや、見てないな。戦場でそんな特徴的な奴がいたら、さすがに覚えているだろうが……どうしてだ?」


 トワは迷いながらも、ノギナとの出会いを話した。「俺は……戦場で殺されたかけたんだ。そしたら、その赤い髪の少女が助けてくれた」


 オペルは少し考え込んでから、真剣な顔で答えた。


「その話、聞いたことがあるかもしれない。『紅の舞姫』って呼ばれてる謎の戦士がいるって噂だ。どこの部隊にも属していないし、誰も正体を知らないらしい。まるで亡霊のような存在だって」


 「紅の舞姫……」


 トワはその言葉を反芻し、戦場で見たノギナの美しい剣舞を思い出した。あれほどの戦いぶりを見せる者が、なぜ姿を隠しているのか、なぜ彼女は自分を助けたのか、何一つわからない。


「でも、もし彼女が噂の紅の舞姫なら、戦場に現れる理由があるはずだ」とオペルは続けた。「何か大きな目的があるのか、それともただの気まぐれか……」


 トワは静かに頷き、遠くの空を見上げた。祭りの準備が進む街の喧騒の中で、自分の心は戦場に戻りつつある。ノギナの正体を探るために、そして彼女に再び会うために、何かしらの答えを見つける必要があると感じていた。


「まあ、あんまり考えすぎるなよ、トワ」とオペルが肩を叩いた。

「今はこの祭りを楽しんで、次のことはそれからだ」


 トワは微笑みを浮かべ、オペルの目を見た。

 そんな時だった。


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