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2

 戦場の喧騒がようやく静まり、夜が更けるころ、トワ・ペアレントは何とか命を繋いでいた。戦争はセングリット王国の勝利に終わったが、その代償として多くの命が失われた。地面には倒れた兵士たちの亡骸が無数に転がり、焼け焦げた大地からはまだ微かに煙が立ち上っていた。


 トワは疲れ果て、傷だらけの体を引きずるようにして、ようやく宿営地に戻ってきた。勝利の実感はあまりなかった。ただ、生き残ったことに安堵しながらも、胸の中には何かが引っかかっていた。


 ――あの赤髪の少女


 彼女が自分を救ってくれた瞬間のことが、頭から離れない。彼女の華奢な体と、まるで舞踊のような戦いぶり。

すべてが異質で、どこか夢のように感じられた。


 「結局、彼女は何者だったんだ……?」


 トワは自らの寝床に横たわり、夜空を見上げながらそう呟いた。疲労で瞼が重くなり、眠りに落ちそうになるたびに、彼女の姿が脳裏をよぎる。彼女が一体何者なのか。

答えは見つからないまま、意識は次第に薄れていった。


 ――翌朝。


 冷たい朝の空気がトワの頬に触れ、彼はゆっくりと目を開けた。夜明けの空はまだ薄暗く、霧がかかっている。戦争の残酷な現実が夢であったかのような静けさが、辺りに漂っていた。


 トワは体を起こし、周囲を見渡した。戦場の痕跡はまだそこかしこに残っているが、戦闘の音も叫び声も聞こえない。ただ、静寂が広がるだけだった。


 仲間たちが少しずつ起き出し、勝利の余韻に浸りながらも、戦いの疲労を感じ取れる声が聞こえてくる。

 しかし、トワは赤髪の彼女のことが気になって仕方がなかった。彼女の名前すら知らず、彼女がどこにいるのかすらもわからない。


 「……また会えるのだろうか」


 トワは心の中でそう問いかけた。彼女の戦いぶりをもう一度見ることができるのだろうか。彼女が今どこにいて、何を考えているのか、その答えを知りたいという気持ちが、トワの胸を締め付けた。


 だが、その答えはどこにもなかった。ただ、戦争に勝利したという事実だけが、ここにある。彼女のことを知るためには、もう一度戦場に立つしかないのかもしれない。


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