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4 偽帝即位

 西暦197年、袁術は、皇帝に即位した。

 これは、当時の人臣のなかで、袁術がいかに突出した才能をもっていたのかを示している。人臣は、袁術が皇帝になることを望んだのであり、皇帝に即位するに足るだけの支持者を袁術がもっていたことを示す。

 ここにおいて、後漢は滅亡し、新しく、袁術を祖とする仲の国が誕生するはずだった。

 献帝は、袁術即位を聞いて、苦渋の表情であった。

「臣よ、余の徳と、袁術の徳、どちらが上であろうか」

 献帝は、大号令を出して、全臣下に問うた。

 全臣下は、騒然となった。

 袁術は有能だ。だが、しかし、献帝は、あれで、なかなか人が良いのだ。

 袁術は、有能だが、性格に、根に悪を感じる。

 それに比べて、献帝は、無能だが、性格は極めて善良であった。

 仕えたい主君を選べというのなら、献帝であった。

 孫策は、袁術即位に応じて、袁術陣営から離反する書状を袁術に送った。こうして、孫策は事実上、江南の独立国家となったのである。

「天下に天子は一人でございます。後漢と仲、どちらの国が民の心をつかむでしょうか」

 孫策の臣が詰問してきた。

「天下は乱世である。献帝、袁術の他にも、皇帝を目指すものは大勢いるだろう。皇帝になるには、それらを服従させる人徳がなければならない。権威や武力に頼り、皇帝を称しても、人民はついてきまいて」

 孫策はそう答えた。

 権威も武力もなく、皇帝に君臨しているのは、献帝ではないか、と臣は思ったが、口には出さなかった。

「献帝は、人徳天下第一のものを探しているそうです」

「そうか。はははは、愉快な話だ」

「孫策様、あなたこそ、人徳天下第一のものですぞ」

 臣の目は本気だった。

 孫策は答えていった。

「賢人、みずから先に立たずだ。おれの方から皇帝を名のっては、人はついてきまい。おれの人徳は、皇帝となるには足らぬ」

「はは。恐れ多き発言を答えていただき、有り難く存じます」

「何、気がねなく尋ねてくれればよい」

 孫策はそういって、自らの屋敷に帰った。


 屋敷には、孫権が待っていた。

「何事だ、孫権」

 孫策が聞くと、孫権は苦渋の表情でいった。

「兄上、わたしは後漢の臣です。それがこの度の兄上の離反によって、誰の臣になったのかわかりません」

「孫権、自ら、仕えたいものに仕えよ。我が君は、心の中にあるものだぞ」

「はは。兄上、かしこまりました」

 結局、孫権が選んだのは、兄上の臣下になることだった。


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