【TRPG小説化企画】シナリオ「ファンキーモンキーソンチョー」
TRPG/テーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム
とは、複数人でテーブルを囲んで会話をしながら遊ぶロールプレイングゲーム(RPG)の一種。
説明不要でしょうが、一応、念のため。
こちらはチャットで行われた「オンラインセッション」のノベライズになります。
何の変哲もない田舎村。
ワーロ村を望んで、ランスは溜息をついた。
いかにも魔物に襲われそうなシチュエーションではあるが、こんなところを襲ったところでたいして良いことなどない。
「まずは村長さんに挨拶しないとね」
ティアット提案はまっとうなものだった。
そもそもこの依頼は、ゴブリン退治に出かけようとするワーロの村長を押しとどめようというものなのである。
荒事は冒険者に任せるように説得できればそれに越したことはない。
「そうね、私も賛成」
サムライのコウが賛意を示す。
説得できたとして、それが形だけのものでないという保証はない。
なにしろ自分で魔物と戦おうなどと考える七〇歳だ。
どんな無茶をするか知れたものではない。
あるいはそこまでいかなくとも、村長の顔を知っておくことはマイナスにはならないだろう。
「そうか?」
首をかしげるランス。
男の顔を見たところで心が弾むわけではないし、さすがにゴブリンと人間を見間違うはずもない。
さっさと先行してゴブリンどもを退治した方が良い。
「こっちが間違わなくても、獲物を横取りされると思いこんで突っ込んでくるかもよ?」
なかなかうがった意見をティアットが言った。
「どっちにするんだい?」
ここまで案内してくれたゴローと話していた村娘が、やや苛立ったように問う。
結局、多数決によって村長に顔を通しておくことに決まった。
その際オディが相変わらずの優柔不断ぶりを発揮して娘に蹴られたりしたが、それはどうでもいい話である。
村長のリュウは、なんだか元気な老人だった。
取り巻きらしい娘をふたりも従えて豪快に笑っている様は、たしかに昔は剛力無双の勇者だったのかもしれないなぁ、と思えなくもない。
ただ、
「どんな英雄だって、腰をやっちゃってたらもう役立たずよ」
とはティアットの内心である。
他の三人もそれぞれに思うところはあったが、口にすればこじれるだけなので何も言わなかった。
冒険者に仕事を任せるのではなく、助っ人だと考えている時点で、村長の為人がわかろうというものである。
もちろん冒険者たちは現場に老人を連れて行くつもりなどさらさらない。
さんざん苦労しながら説得し、専攻偵察という名目で案内人のゴローだけを伴って森にはいることになった。
ちなみに森はそう広いものではなく、けっこう人の手も入っているらしい。
使われなくなった炭焼き小屋やきれいな水が湧き出す泉などがあり、女子供でも簡単に山菜採りなどに赴いている。
逆にいえば、ゴブリンたちにとっても住みやすい環境だということだ。
「ま、普通に考えれば炭焼き小屋が根城ってところかしらね」
「おいらとしては泉にいってみたいね。
どうせだから水浴びとかね」
ティアットに反論しつつ助平な視線を送るランス。
むろん一顧だにされなかった。
「炭焼き小屋がハズレだったら泉にいってみましょ」
「その心は?」
「どんな生き物だって生きるのには水が必要だからさ」
コウの質問に、ランスが戯けたように答える。
ふざけているように見えて、ちゃんと根幹は押さえているのだ。
結局のところ小屋と泉は両方とも見ておく必要がある。
ティアットが溜息をついた。
どうものんびりと散策している余裕はないらしい。
耳の良い彼女は女性の悲鳴を捉えていた。
「らんす」
声をかけたときには、すでに盗賊は走り出している。
「って、はやいわねー」
女の声は良く聞こえる耳を持った盗賊なのだ。
人呼んでランスイヤー。
「追いかけるわよ」
「了解」
「わかりました」
コウとオディも続く。
やがて見えてきたのは泉と、五匹ほどのゴブリンに襲われている裸の女性。
一秒のためらいもなく跳び蹴りを放つランス。
目にもとまらぬ早業とはこのこと、驚いたゴブリンと冒険者たちが我に返ったとき、彼の腕は裸の女性をしっかりと抱え込んでいた。
しかも腰のあたりを重点的に。
「さすが……」
感心するオディ。
「ばっかじゃないの」
罵声を浴びせつつもティアットはやるべきことをやった。
非常に不本意ながら、女性をガードしている形になっているランスに防御魔法を使っておく。
隙をついて突進したコウが、まだ自失の中に立ちすくんでいるゴブリンを切って捨てる。
これで数の差はなくなった。
「闇の精霊よ。
彼のものの視界を閉ざしたまえ」
「ノーム、足を止めて」
オディとティアットの魔法が続けざまに炸裂する。
コウが動けないゴブリンを返す刀で斬りつける。
見事なまでの連携、といいたいところだが、
「動けないのは放っておいて欲しかったかな」
生き残った一匹にボーラを投げつけ、動きを封じてからとどめを刺すランス。
だが、わずかに遅れた。
喉笛を掻き斬られる寸前、ゴブリンの口から悲鳴がほとばしる。
「ち」
後悔は一瞬。
すぐに増援がくるだろう。
手早く陣形を整える。
と、ほぼ同時に森の奥から足音が響く。
ゴブリンのものよりもはるかに大きな。
「ホブゴブリンですね」
「ちょっと手強いわよ」
詠唱に入るオディとティアット。
「だが、俺たちの自由は誰にも奪わせねえぜっ!」
後方から聞こえる声。
知っている声だ。
我亜露、金文字と刺繍された純白の長衣をまとったリュウ村長と、そろいの服を着た娘がふたり。
「総長っ」
裸の女性が駆け寄ってゆく。
「…………」
コウは無言だった。
「……なあ……総長ってなんだ……?」
疲れ切った顔でランスがゴローに訊ねる。
「そう呼ばれてるんすよ。
筆頭でもおっけーっす」
「……さいですか……」
「こっちも本隊登場ってわけね」
ティアットの台詞。
本隊というより変態だろう、と心の中で突っ込んでからランスは勝算を立てる。
どう考えてもあの村長は前に出たがるタイプだ。
で、あんなのが前に出てきたらまともな戦闘になるはずがない。
ぜひ後方で観戦して欲しいものだが。
「ま、おいらのティアットちゃんなら上手くやるだろ」
簡単に心を定めてゴブリンにナイフを振るう。
その横ではコウがホブゴブリンと切り結んでいた。
そして、たしかにティアットは上手くやった。
「眠りの雲よ。
安らかなるひとときを彼のものに与えよ」
視線を交錯させたアルケミストふたり。
声まで揃えて呪文を紡ぐ。
吹き上がる催眠ガスによってゴブリンたちがばたばたと倒れ伏す。
総長と娘たちも倒れ伏す。
ランスとコウも倒れ伏す。
「おおう……」
「なんで私まで……」
ティアットとオディの他、立っているのはゴローだけという惨状だった。
「……ええと……」
困った顔の案内人。
この状況をどうしたらいいだろう。
「どうもこうもないわ。
ランスとコウを起こして、ゴブリンたちにトドメ。
それでおしまいよ」
簡単にティアットが言ってのける。
「一件落着ですねぇ」
のほほんとオディが呟き空を見あげた。
初夏の日差しが木漏れ陽となって降り注いでいる。
その後、なぜか魔法の影響を自力で振り払ったリュウがホブゴブリンを起こしてしまったり、立ち上がったモンスターに驚いて失禁したリしたのだが、たいした問題ではない。
「そーっすか?
ほんとーにそうっすか?」
おしまい
登場人物
◎オディウン・ハイトリー/クラス:アルケミスト
◎ティアット・シルバーホーク/クラス:アルケミスト
◎ランス・ロット/クラス:シーフ
◎香/クラス:サムライ