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【完結】婚約破棄されて怪物辺境伯に嫁いだら、思った以上に怪物でした  作者: さき


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番外編1:辺境伯邸のお客様(後)

 


 部屋の入り口。見ればほんの少しだけ扉が開いており、そこには誰もいない……はずだが、薄水色の軟体が少しだけ見えてしまっている。

 リンジーだ。

 慌ててマリエラとステファンが駆け寄れば、身を隠そうとしているのか壁にぴったりとくっつくリンジー。その隣には鳥を模した怪物返りの子供ジャックと、頭部が球体になっており黒い魚を泳がせるレオもいるではないか。


「貴方達どうしてここに居るの? みんな食堂にいるって約束していたじゃない。他の子は? シエナ達は?」

「あの、あのね、マリエラ。私たちね……、その……」


 マリエラが問えば、リンジーが歯切れ悪く返す。見つかってしまった焦りがあるのだろう。ジャックとレオもどうして良いのか分からず、リンジーと同じように何かを言おうとしては的を射ない言葉を発するだけだ。

 そんなやりとりの中、「旦那! 嬢ちゃん!」と男性の声が聞こえてきた。

 ダヴィトだ。茶色の毛で覆われた怪物返りの子供ルーニーを抱えてこちらに駆け寄ってくる。


「悪い、逃げられた!」

「逃げられたって、子供達に?」

「あぁ、しばらく大人しくしてたから油断してた」


 元々、今日来客と会うのはマリエラとステファンだけと決めていた。

 その間、子供達は食堂で過ごし、ダヴィトとティティ、そしてシエナが子供達の面倒を見ながら共に過ごす。その予定だった。

 現に、つい先程まで子供達は食堂で遊んだり本を読んだりと大人しくしていたという。ダヴィト達は時にそれの相手をし、彼等のおやつの準備をし、と平穏に過ごしていた。

 ところが……、


「こっちの隙を突いて一斉に部屋を出て行ったんだよ。示し合わせたように走っていったから事前に決めていたんだろうな。そのうえ、食堂を出るなり二手に分かれやがって」


 子供達は一斉に食堂を出て、三人と二人に分かれて左右に走っていった。

 計五人。対して、追えたのはダヴィトとティティだけ。シエナは赤ん坊のモニカを抱っこしていた為、食堂に残らざるを得なかった。

 ダヴィトとティティもすぐさま左右に分かれて子供達を追ったというが、五人対二人では圧倒的に不利である。

 そのうえ、道が分かれるたびに一人が離れ、また一人……、と分散していったという。


「そいうわけで結局ルーニーしか捕まえられなかったんだ。ここに三人居るってことは、ティティも同じ状況だろうな」

「計画性を感じるわね。いつから企んでいたのかしら」


 訝しんでマリエラがリンジー達に視線をやれば、揃えたようにふいと顔を逸らしてしまった。

 ならばとダヴィトに抱えられているルーニーを見るも、彼女もまたダヴィトの肩に顔を埋めてしまう。

 なんて分かりやすいのだろうか。その分かりやすさは愛おしくもあり、怒る気にはなれない。

 子供とは好奇心で溢れているもの。初めての客ともなれば一目見たいと思って当然、大人しく待っていろというのが無理な話なのだ。


 それに、子供達が他者を恐れずに居てくれることが嬉しくもある。


 ステファンとダヴィトも同じ気持ちなのだろう、二人はまったくと言いたげに肩を竦めているもののそこに怒気はない。


「お客様を見てみたい気持ちは分かるわ。でもまた今度にするって約束したでしょう?」

「でもね、でも、私達みんなで話し合ったの」

「話し合った?」

「私達これからたくさんの人に会うんでしょう? それなら、最初に会うのはマリエラの大事な人が良いって、みんなでそう決めたの」


 ただの好奇心から覗いたのではなく、自分達なりに今後の事を考えての行動だった。

 そんなリンジーの必死な訴えに、マリエラは思わずステファンと顔を見合わせた。彼もまた意外そうな顔をしている。

 次いでステファンがリンジーの名を呼び、しゃがんで彼女と目線を――軟体のリンジーには目という明確なものはないが、それでも彼女の目があるであろう場所に高さを――合わせた。そっと優しく軟体の手を握る。


「みんなでちゃんと考えて決めたんだな」

「うん。だってマリエラは私達を受け入れてくれたから。だから、マリエラの大事な人達なら、私達の事も受け入れてくれるかもしれないって皆で話したの」


 リンジーの話に、隣に並ぶジャックとレオ、それにダヴィトに抱えられているルーニーも頷いている。

 彼等の頭部は普通の人間のものとは違う。リンジーは頭どころか体全体が薄水色の軟体をしており、ジャックは頭部が鳥、レオは頭部が透明な球体になっており魚が一匹泳いでいる。ルーニーも全身が茶色の毛で覆われている。

 彼等の頭部はそれぞれ違っており、誰一人として表情の変化は分からない。それでも彼等が彼等なりに真剣な顔をしているのが分かる。


 だからこそマリエラも真剣に話を聞き、次いで部屋の中を見た。

 こちらの会話が聞こえていたのだろう両親達は静かに待っており、マリエラの視線に気付くと誰もが穏やかに微笑んだ。

「大丈夫」と。彼等の声が聞こえた気がする。声には出していないが彼等の柔らかな笑みがそう伝えてくるのだ。


「分かったわ。皆に挨拶しましょう」

「マリエラ……」

「大丈夫よステファン。私と、私が大事だと思う人達を信じて」


 宥めるような声色で告げれば、ステファンがふっと小さく息を吐いた。

 狼のような彼の顔に安堵の色が浮かぶ。「信じるよ」という声は穏やかで不安を抱いている様子はない。

 そんなステファンの態度にマリエラもまた安堵し、場を改めるようにパンと手を叩いた。


「それじゃあまずは挨拶のために皆を呼ばないと。リンジーとジャックはオーキスとティティを探しに行ってちょうだい。あの二人、もしかしたらまだ屋敷内を追いかけっこしてるかも」

「分かった!」

「レオとルーニーは食堂に戻ってシエナとモニカを呼んできて」

「うん。行こう、ルーニー」

「ダヴィトも食堂に戻って、お茶のおかわりをお願い。貴方が用意してくれたお茶とアップルパイ、みんな美味しいって言ってるわ」

「了解。貴族の方々の口に合ったようで何よりだ」


 マリエラが指示を出せば、子供達は嬉しそうに、ダヴィトは苦笑交じりに了承する。

 そうして「部屋の前で集合よ!」というマリエラの言葉を合図にそれぞれが目的地へと向かっていった。パタパタと走っていく子供達の後ろ姿からは期待の色が見え、なんて微笑ましいのだろうか。

 そうして通路にはマリエラとステファンだけになり、ほんの僅かな沈黙が流れた。騒々しさの後の静けさ、再び賑やかになるのが分かっているからこそ寂しさや物悲しさはない。束の間の休息のような沈黙だ。

 ふぅ、とマリエラが一息吐く。


「マリエラ、ありがとう」


 感謝の言葉と共に、ステファンの手がそっとマリエラの肩に触れた。

 ずしりと重い大きな手。指の先にある鉱石のような爪がキラリと光る。恐ろしさない。むしろ見惚れてしまうような美しさだ。


「私がお礼を言われるようなことじゃないわ。あの子達が自分達で考えて決断したのよ」

「だけどあの子達が人と会う決断を出来たのはマリエラが受け入れてくれたおかげだ。マリエラの純粋さと前向きなところは僕達に勇気をくれる」

「それならステファンが素敵な人だからよ。だから私もあの子達を受け入れられたの」


 もしもステファンが噂通りの恐ろしい怪物辺境伯だったなら、マリエラは彼も子供達も受け入れられなかっただろう。

 だが実際のステファンは噂に聞く怪物辺境伯とは真逆だった。屋敷に来たマリエラを怖がらせるまいと己の身を隠し、怖がってくれるなと乞うように近付いてくれたのだ。

 真摯で優しく、そして少し臆病。これほど愛おしいひとは居らず、ゆえにマリエラは彼も、彼が大事に思う子供達のことも受け入れられたのだ。

 そうマリエラが話せば、ステファンが嬉しそうに目を細めた。彼の手がマリエラの肩からゆっくりと頬へと移っていく。頬を撫でられるとくすぐったくて暖かい。応じるようにマリエラも彼の手に己の手を重ねた。


「私、今とても貴方とキスしたい気分だわ」

「マリエラ……、僕もだよ」

「でも扉が開いていて見られてるのよね」

「……っ!」


 マリエラの言葉を聞いて、ステファンが慌てて手を放した。

 どうやら見られていることを忘れていたようだ。狼のような顔の造りゆえに分からないが、きっと普通の顔ならば一瞬で真っ赤になっていただろう。

 部屋の中を覗いてはすぐさま身を隠し、説明しようと再び部屋の中を見て、また戻って……と見て分かるほどに慌てふためいている。

 あまりの慌てようにマリエラは思わず笑いつつ、落ち着かせるためにそっとステファンの腕に触れた。


「落ち着いてステファン。大丈夫よ、お父様達も今はこっちを見てないわ。……露骨に顔を背けてるあたり、さっきまで見ていた可能性は高いけど」

「……そ、それを聞いて落ち着くのは無理だ」

「そう? 私、みんなが集まるまで部屋に戻って話をしようと思うんだけど」

「……マリエラだけ戻ってくれ。僕はここで頭を冷やしてるよ」


 上擦ったステファンの声。挙げ句に、部屋から見えない場所まで移動するや壁に背を預けて力なく座り込んでしまった。

 優れた体躯を小さく縮こませているあたりよっぽど恥ずかしいのだろう。それがまた愛おしく、マリエラはチラと部屋を見て両親達が顔を背けているのを確認すると、そっとステファンに身を寄せた。

 今のステファンは屈んでいるため、彼の頭はマリエラより低い位置にある。身を屈めて額にキスをすれば銀色の毛がふわりとマリエラの鼻を擽った。


「マ、マリエラ……!」


 ステファンが声をあげてマリエラを見上げてきた。赤面が見えないのが惜しいほどの慌てようだ。

 それに対してマリエラは悪戯っぽく笑い「慌てるステファンも素敵よ」と告げ、応接室へと入っていった。





「ステファンどうしたの? 疲れちゃったの?」

「お腹空いたの?」


 という子供達の声が扉の外から聞こえてきたのは、応接室に戻ってしばらくしてから。

 不思議そうな子供達の声と、何かを察したようなシエナ達の苦笑、そしてステファンの何ともいえない弱々しい唸り声が聞こえ、談笑していたマリエラは両親達と顔を見合わせて笑い、大事な家族を紹介するべく立ち上がった。




 …end…





おしらせ

新作投稿しました!

『代理シンデレラだって末永く幸せに暮らしたい』

シンデレラの代わりをすることになった魔法使いのお話です。

皆様どうぞよろしくお願いします。

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