表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】婚約破棄されて怪物辺境伯に嫁いだら、思った以上に怪物でした  作者: さき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/52

42:雨を呼ぶ双子

 


 目の前にステファンが降り立った光景の美しさに、マリエラが一瞬言葉を失う。

 だがすぐさま我に返りステファンを呼べば、彼は庇うようにマリエラの肩を掴んできた。


「マリエラ、僕を呼んでくれてありがとう。だがここは危ないから早くさがってくれ。火傷はしていないか?」

「え、えぇ、私は大丈夫。ステファンは怪我はない? 火傷は?」

「僕も大丈夫だ。もっとも、この状況だと『大丈夫』とは言い切れなさそうだが」


 話しながらステファンがリベリオ達を睨みつけた。

 マリエラを見つめていた時は穏やかだった金色の瞳が一瞬にして鋭さを宿し、警戒と敵意、そして侮蔑の色を込めて彼等を見据える。

 ステファンを『怪物』としか考えていない者には襲い掛からんとする獣の瞳にでも見えたのか、集団から小さな悲鳴があがり、中には後退っている者もいる。


「僕達がお前達に何をした? 災厄を招くだのと与太話を信じて僕達を追いやって、それでも足りないって言うのか」

「与太話だと?  そんな悍ましい姿をしておいて、災厄は与太話だっていうのか? 鏡でも見たらどうだ!」


 ステファンの言葉に一人の男が反論の声をあげた。

 だが警備の後ろに立ちながらだ。まったくもって情けない姿ではないか。

 これにはマリエラも怒りと同時に呆れを抱き、ふと視線を子供達へと向けた。可愛そうに彼等はこの空気にすっかりと畏縮しており、シエナやダヴィトにくっついている。

 そんな中に二人の子供の姿を見つけ、マリエラは「もしかして……」と小さく呟いて彼等に近付いた。


「レオ、オーキス、二人とも雨を降らせることはできる?」

「……雨?」


 双子に声を掛ければ、シエナの後ろに隠れていたレオとオーキスが不思議そうに尋ね返してきた。

 彼等の頭部はガラス玉のようになっており、中ではそれぞれ黒と赤の魚が泳いでいる。普段はゆったりと鰭を揺らして泳いでいる魚が今は落ち着きなく頭部を回っているのは恐怖と動揺からだろう。

 真夜中の火事。二階から飛び降りてようやく逃げ出せたと思ったのに、そこには見知らぬ大人達。それも自分達に向かって暴言を吐いてくるのだから、これを怖がるなと言う方が無理な話。本当ならば今すぐにこの場から離れて落ち着かせてあげたい。


 だけど、とマリエラはオーキスとレオを交互に見つめた。


「以前に雨が降るのを待ってもらった事があったでしょう? あの時以外にも、これから雨がくるって雨が降るのを予想してた。それってつまり、レオとオーキスは雨とお話が出来るのよね?」

「……うん。みんなは聞こえないっていうけど、僕とオーキスには雨の声が聞こえるんだ。『これから降るよ』とか『今日はいっぱい降るよ』って教えてくれる」

「それにあたしとレオがお話すると返事もくれるし、お願いも聞いてくれるの」

「それなら、今ここで雨を呼ぶことはできる?」


 マリエラ自身、無理な話をしているとはわかっている。

 だがマリエラの考えにレオとオーキスは否定はせず、シエナにしがみつきながらも頭上を見上げて「んー」と悩むように小さな声をあげた。彼等の頭部を泳ぐ魚も頭上を見上げるように頭を上げている。

 つられてマリエラも空を見上げた。今夜は風が強く、薄墨色の雲がまるで川のように夜の空を流れていく。星の輝きは見えず月明かりもあまり差し込まない暗い夜だ。きっとリベリオ達は天候を見て今夜と決めたのだろう。


「もしかしたら来てくれるかもしれない。オーキス、やってみよう」

「うん……。でも、マリエラ、手繋いでてくれる?」


 こんな状況下で、それも出来るかわからないことを頼まれたのだ。幼いオーキスが不安を覚えないわけがない。

 そっと手を差し伸べてくる。頭部こそ不思議な造りをしているオーキスだが、首から下は年相応の子供の体だ。

 求めるように伸ばされる腕は細く手は小さい。マリエラがぎゅっと握りしめれば、オーキスが安堵するのが分かった。


「レオも手を繋ぐ?」

「……でも、僕は男だし」

「あら、男の子だって不安になったら手を繋ぎたくなるわ」


 だから大丈夫だと片手を差し出せば、レオがおずおずと手を握ってきた。

 マリエラを中心に、左にレオ、右にオーキスが立つ。二人がマリエラに身を寄せつつ空を見上げれば、頭部の魚もそれに倣う。


「来て、降って」

「早く、早く来て!」


 空に向けて願うレオとオーキスはまるで親にお菓子や遊びを強請る子供のようだ。

 だが声色は真剣で、頭部の魚達もじっと夜空を見上げている。

 そうして次の瞬間、頭部の魚が優雅に鰭を翻しくるりと回った瞬間……、


「「おうちが燃えちゃう!」」


 レオとオーキスが同時に声をあげた。


 彼等の訴えを最後に、シン、と周囲が静まり返る。

 業火の音も、炎が爆ぜる高い音も、何も耳に届いてこない静寂。

 空気に当てられたのか、先程まで悍ましいだのと話していた集団さえも黙り込んでいる。


 そんな中、ポツ、とマリエラの手の甲に何かが落ちてきた。

 肌を伝い落ちるこれは……、水。いや、雨粒だ。

 咄嗟に空を見上げれば今度は頬に雨粒が落ちてきた。それが次第に増え、サァと霧状の雨が周囲を覆いだす。

 炎に巻かれる家も、熱が立ち込める空気も、立ち尽くす者達も、何もかもを包みこむような雨だ。


「あの怪物達が雨を呼んだの……?」

「まさか、そんなこと出来るわけが無いだろう」

「でも現に雨が降ってるじゃない。今日は月が出ていなかったけど、雨が降るような天気じゃなかったわ」


 レオとオーキスの力を目の当たりにしたがそれでも信じられないのだろう、集団の中で囁き声があがる。

 かと思えば、雨で髪が濡れるだの服が濡れるだのと文句を言う者や連れてきた従者や侍女に傘を持ってくるよう命じている者もいた。尽く場違いなのだが、きっと彼等はあくまで『王子が怪物を退治するのを特等席で見に来た客』なのだろう。


 もはや呆れすら起こらない、とマリエラは彼等を一瞥した。

 だがこのまま屋外に居ては雨曝しになってしまう。レオとオーキス曰く、この雨は次第に雨脚を強めるという。きっと家の炎を消してくれるだろう。だが子供達が風邪をひいてしまうかもしれない。


「ステファン、一度中に入りましょう。あんな人達を中に通すのは癪だけど、このままだと子供達が風邪を引いちゃう」

「あぁ、そうだね。広間にでも通そう。あそこなら火の影響もないはずだ。……そこで全てを話そう」


 ステファンの声には覚悟の色合いが窺える。

『全て』とはきっと怪物返りがかつては神返りであったこと、その事実を捻じ曲げたのが他でもないリベリオの生家シャレッド家であることを指しているのだろう。

 マリエラも彼の覚悟を感じ取り、深く頷いて返した。


「子供達は客室かどこかで寝かせてあげましょう。シエナ、子供達のそばに」


 そばにいてあげて、と言いかけたマリエラの言葉に「わたしたちも一緒に居る」と声が被さった。

 リンジーだ。腕の中には星空を宿した赤ん坊のモニカもいる。

 全身が薄水色の軟体なので表情は分からないが、きっと真剣な顔をしているのだろう。マリエラとステファンへと交互に頭部を向け、もう一度念を押すように「一緒に居る」と告げてきた。


「でも、難しい話をするのよ? 知らない大人のひとがいっぱい居て、酷いことを言われちゃうかもしれないわ」

「わたしたち何を言われても平気よ。それに、わたしたちのお話だもん」

「そうだけど……」

「みんなが聞かなきゃいけないお話でしょう? ……わたしたちも、あのひとたちも、みんなも」


 リンジーが腕の中のモニカを抱きしめる。

 ……腕の中の、星空を全身に宿すモニカを。月明かりのない今夜でさえ、モニカは美しく瞬いている。


「……あ」


 と、小さくマリエラが呟いた。

 次いで改めるようにリンジーを見つめる。

 リンジーは全身が半透明の軟体ゆえに目は無いが、不思議と彼女の視線を感じた。真剣に、真っすぐに、訴えるように、マリエラを見つめてくる。


「分かったわ。リンジーも他の子達も、みんなで話を聞きましょう」

「マリエラ、だが子供達には……。やっぱり子供達は別の部屋に居させて、僕達だけで話をした方が良いんじゃないか」


 子供達に聞かせるには酷な話題だと考えているのだろう、制止するステファンの声色には困惑の色がある。

 マリエラはそんな彼の腕にそっと触れた。リンジーがそうしたように、真っすぐに彼を見上げる。


「大丈夫よ、ステファン。信じて」


 宥めるように、それでいて強い覚悟を伝えるように、穏やかだがはっきりとし口調で告げれば、ステファンが金色の瞳を僅かに見開いた。

 だが次第に目を細める。

 そうして「信じているよ」と答える彼の声は落ち着いており、マリエラの胸の内に安堵が湧いた。ステファンが理解してくれた、きっとうまくいく。


 だってこれは、みんなが聞くべき話だから。


 そうマリエラは心の中で呟き、一度深く息を吸うと己を落ち着かせ、


「雨が降ってきましたから屋敷に案内します」


 堂々と、それでいて冷ややかに。「本当はあんた達なんて屋敷に入れたくないけど」という気持ちを胸の内に押し留めて、貴族の夫人らしい態度でリベリオ達に告げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ